五歳の男の子を連れた友達とばったり道で会った。
「随分、大きくなったね」
といいながら、ふと彼の着ている物をみたら、妙にお腹のところがふくらんでいる。
「腹巻きできさせてるの」
「そんなことないんだけと??????、どうしたのかしら」
彼女は、男の子の着ているダブッとしたTシャツを捲り上げた。中から出てきたのは、くしゃくしゃに丸められたこーデュロイの半ズボンであった。あるデザイン?メーカーのものだ。話によると、このズボンは彼のお気に入りで、冬場、ほとんど毎日はいていたという。
洗濯すると、
「いつ乾くの」
としつこと尋ねる。目を離すと生乾きでも幼稚園にはいていこうとするので、説得するのが大変だったというのだ。春先に、
「このズボンは寒いときにはくものだから、しまおうね」
といてタンスの奥にしまったのだが、そのときしまい場所をしっかり見ていたらしいのである。
「こんなに好きなの」
と聞いたらこっくりとうなすく。そして、
「今日のズボン、嫌いなんだ」
と訴えるのである。はいているのはふつうのジーンズの半ズボンである。
「どうして、ちっとも変じゃないわよ」
「かっこ悪いんだよ、ここのところが」
彼はポケットを指さして、口がとがらせる。母親にはかされたズボンが気に入らなくて、すきあらば自分の大好きなズボンにはき替えようと、隠し持ってきたのである。
「五歳でねえ。それも男の子でねえ??????」
私は感心半分、あきれ半分でため息をついた。私も子供のときには好きな服と嫌いな服はあったが、文句を言えば、
「ふざけるな」
と親に怒鳴られるに決まっていた。裾がびろびろに伸びたランニング?シャツで走り回っていた子供の姿は、遥か彼方に消えてしまったようだ。