みんなで楽しく食事をしているとき、ふと見ると意外に偏食する人が多いのに驚くことがある。もちろん子供ではなくて、立派な大人である。あれもだめこれもだめといいながら必死になって嫌いなものを皿の隅によけている姿を見ると、その人には悪いけど、
「あまりみっともいいものじゃないな」
と思う。
かくいう私も子供のころはすさまじい偏食児童であった。食べられるのはお菓子とご飯と海苔と卵だけ。野菜など全く食べなかった。最初は私の気に入ったものだけがちゃぶ台に登場していたが、あるときを境にして突然、大嫌いな食べ物のオン?パレードになってしまったのである。ご飯はあるものの、海苔と卵の姿はない。当然の如く私は抵抗した。
「こんなのいやだ」
といってみても、母親は知らんぷりしていた。次は大声で泣いてみた。まだ無視された。最後の手段として畳の上に引っくり返って、足をばたばたさせながら、
「海苔と卵じゃないといやだあ」
と泣きわめいても、またまた私は無視されたのである。
「これしかないの。嫌だったらしようがないわね」
そういって母親はさっさと私の目の前にあった食べ物を片付けてしまった。一応私も抵抗したプライドがあるので、そっぽを向いていたが、それから三食連続でそういう調子で、一日ハンストしたものの、結局は大嫌いな食べ物を口に入れることになってしまったのである。
それ以来、私はまったく好き嫌いがなくなった。母親の強硬手段も今になっては感謝している。きっといい歳をとしてもひどい偏食が直らない人は、よほど甘い両親に育てられたのだろう。他人が偏食をしても、別に私に迷惑が及ぶわけではないのだけれど、食べ物の取材を細かく分析し、あれも嫌だ、これも嫌だといわれると、一緒に食事をしているこちらとしては、とても不愉快になってしまうのである。