スチュワーデス(40)
男の子たちが「スチュワーデス」と聞くとぱっと目を輝かせるのを見ると、私は嫉妬も含めて、「けっと」と思ってしまう。たしかに宙に浮きながら、いつもにこにこしているのは大変である。とてもじゃないけど私にはできない。容姿端麗で語学堪能とあれば、男の子たちがでれっとするのは当たり前なのかもしれないが、なかにはちょっと勘違いしているスチュワーデスがいるのも事実である。
仕事でパリにいったときのことだ。明日の出国を前にして、私は編集者と一緒に取材を終え、宿泊しているホテルの前で、
「空港行きのバスはどこから出るのか、聞いておかなきゃいけないわね」
と相談していた。するとそこにたまたま制服姿で、荷物を持った若いスチュワーデスが通りかかった。私たいは彼女も同じホテルに宿泊するのを察知して、
「空港行きのバスは、どこから出ているか知りませんか」と聞いてみた。すると彼女はつんとして、
「さあ、あたくし、存じませんわ」といって、すたすたとホテルのなかに入ってしまったのである。言葉づかいはあくまでもていねい、しかし態度はとてもでかいのであった。私たちはあっけにとられながらも、フロントでバスがホテルのすぐ横から出発することを教えてもらい。翌日、無事、飛行機に乗ることができたのだった。
シートベルトを締め、ふと前をみると、何と昨日のでかい態度のスチュワーデスが搭乗しているではないか。名前をしっかりチェックしたあと、運の悪い彼女のことを思うとおかしくて、私と編集者はクスクス笑っていた。彼女は航空会社の広報担当者と一緒にいる私たちと目があって、一瞬ギョッとしていたが、何事もなかったかのように、つんとすましていってしまった。さすがに成田に着くまで、一度も私たちのそばには寄ってこなかったが、あのくらいの図太さがないとスチュワーデスはつとまらないと、空の上で感心してしまったのであった。