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(41)ファン

时间: 2013-12-27    进入日语论坛
核心提示:ファン(41) 古本屋に行って、偶々、自分の本が書棚にあるのを見るのは、作家にとってあまり気持ちのいいものではない。  
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ファン(41)
 
          古本屋に行って、偶々、自分の本が書棚にあるのを見るのは、作家にとってあまり気持ちのいいものではない。 
   特にそれが力をこめて書いた作品であると、 
   (どうして、いつまでも愛読してくれなかったのか) 
   という不満が一寸、心に起るのは止むを得ない。 
   自惚れるなと自分で言い聞かせてみるが、これは私だけでなく、すべての作家の気持であろう。 
   逆に新本屋に行って、たまたま、私の著書を買ってくれている人を目撃すると、非常に嬉しい気のするのも人情であろう。その人の本に悦んでサインをしたい衝動にかられるぐらいである。 
   逆に、しばらく私の本を取り出して、考えこんで、迷った揚句、また書棚に戻し、その隣のある別の本を買ってしまう読者をみると、 
   (チェッ) 
   と舌打ちをするのも当然の話だ。 
   作家など、聖人でも悟りをひらいた男でもないから、このくらいの感情は許してもらいたい。いつだったか、こんなことがあった。 
   Tホテルのティー?ルームでお茶をのんでいたら、一人の青年がつかつかと寄ってきて、「あの?????遠藤さんでしょうか」と声をかけてきた。 
   私は自分の読者だと思ったから、平生の仏頂面を捨てて、出来るだけ愛想よく、 
   「ええ、そうですよ」 
   「あの?????二十ほど、お話していいでしょうか」 
   「どうぞ、どうぞ」 
   ファンは大事にせねばならぬ。私はボーイをよび、紅茶をもう一つ、彼のため注文してやったのである。   ところが、この青年、 
   「遠藤さんは、北杜夫さんをよくご存知だそうですね」 
   「ええ、よく知っています」 
   「ぼくは、北さんの大ファンなんです。ですから北さんの話、聞かせて下さい。あの人は実生活でもあんなに楽しい人ですか。本を読むと実は魅力的ですねえ」 
   私のとってやった紅茶を飲みながら北、北と北の話ばかりする。 
   (チェツ) 
   真実、私は胸中、舌打ちした。この紅茶代、北にまわしてやろうかと思ったぐらいだ。 
   「北さんて写真でも魅力的ですね」 
   「そうですかね」 
   こちらは次第に仏頂面になっていく。 
   「あの人のマンボウもの、全部、持っているんです」 
   「そうですかね」 
   「実に、品のあるユーモアです」 
   「へえ。そうですかね」 
   「じや、ぼく、失礼しますけど」 
   紅茶を飲みおわると彼は礼儀正しく頭をさげて、 
   「ごちそうさまでした。どうぞ、北さんにお会いになったら、健康に気をつけて、ますます、作品を書いてくださいと伝えてくれませんか」 
   だれが伝えてやるもんかと、私はムッとした顔で彼を見送っていた。
   あとで考えてみると、この青年、私にわざと嫌がらせをしたのかもしれぬ。
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