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燃えよ剣27

时间: 2020-05-26    进入日语论坛
核心提示:甲子太郎、京へ伊東甲子太郎が、新選組局長近藤勇と対面したのは、例の小日向柳町の坂の上の近藤道場の奥の間である。「伊東先生
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甲子太郎、京へ

伊東甲子太郎が、新選組局長近藤勇と対面したのは、例の小日向柳町の坂の上の近藤道場の奥の間である。
「伊東先生」
と、近藤は甲子太郎をそうよんだ。平素の近藤の眼は、人を射すようにするどい。
ところが、この席では、終始、笑い声をたてた。そばにひかえている武田観柳斎、尾形俊太郎、永倉新八らの隊士も、この日ほど上機嫌な近藤をみたことがない。
「尾形君、先生のお杯が」
と、注意したりする。
「いや、もう十分です」
伊東はいんぎんに頭をさげた。
「御遠慮なく。なかなかの御酒量とうかがっています。存分におすごしください。今日は、たがいに腹蔵なく語りあいましょう」
「望むところです」
この日の伊東甲子太郎は、当節はやりの七子《ななこ》の羽織に、黒羽二重《くろはぶたえ》の紋付袷《もんつきあわせ》、それに竪縞《たてじま》の仙台平の袴をはき、両刀のツカ頭に銀の飾りをつけ、つばは金象嵌《きんぞうがん》の入った竹に雀のすかし彫り、といった大身の旗本をおもわせるような堂々たるいでたちである。元来、風采のいい男であった。
「いや、愉快だ」
と、下戸《げこ》の近藤は、平素飲みつけぬくせに、杯を三ばいまであけて、真赤になっていた。
よほど、うれしかったのだろう。
(どういう男か)
伊東は、杯をかさねながら、観察をおこたらない。将来、新選組を乗っ取ろうとする伊東にとっては、この観察には命がかかっていた。得た印象の第一は、
(評判どおり、やはり常人ではない)
ということである。傑物、という意味ではない。なにか、動物を思わせる異常なものが、近藤にはあった。|男《ヽ》その《ヽヽ》もの《ヽヽ》、というべきか。野の毛物のような精気と、見すえられると身ぶるいするような気魄を、近藤は五体のすみずみにみなぎらせている。
伊東は、近藤に刃物を連想した。その刃物も、剃刀《かみそり》や匕首《あいくち》のような、薄刃《うすば》なものではない。|たが《ヽヽ》ね《ヽ》といっていい。鎚《つち》でたたけば、鉄塊でもたたき割りそうな感じがする。
(怖るべし)
とは思ったが、同時に軽蔑もした。
(乱世だけが、必要とする男だ)
伊東は、近藤の威圧をはらいのけるために、懸命に軽蔑しようとした。
それに、
(意外な弱点がある)
本来|たが《ヽヽ》ね《ヽ》にすぎぬこの男があわれなほど政治ずきということであった。
この日、近藤は平素になく、田舎くさい大法螺《おおぼら》をふいた。
この男のいうところでは、こんどの東下《とうげ》の理由は、将軍を説得するためだというのである。
「将軍を?」
「そうです」
将軍(家茂)を説得して上洛させ、勅命のもと、長州征伐の陣頭指揮をしていただく、というのである。
「ほほう」
伊東は、はじめのうちは半信半疑だった。
いかに幕権おとろえたりとはいえ、一介の浪人隊長が、将軍に拝謁できるはずがないではないか。
「おどろきました。近藤先生が将軍に拝謁をゆるされたとは」
「いや」
近藤はあわてた。
「将軍家にではない。御老中松前伊豆守殿をはじめ諸閣老を残らず歴訪し、京都の情勢がいかに切迫しているかを説き、将軍家の御上洛が、いまや焦眉の急であることを説いたわけでござる」
「なるほど」
それだけでも、たいしたものではないか。幕閣に対し政治的助言をするのは、御親藩、譜代大名のやることである。井伊大老のころ、外様《とざま》大名が幕政に喙《くちばし》を容《い》れたというだけで、何人かの大名が罪に服したことがあった。それを近藤は浪人の身をもって、幕閣に工作をしたというのである(むろん近藤は、老中に会うにあたって、会津藩から特別の下工作はしてもらってはいたが)。
(それにしても幕威も衰えたものだ)
と、伊東はおもわざるをえない。
「それで、幕閣の意向はどうでしたか」
「伊東先生」
近藤は、声をおとした。
「かまえて、ご他言《たごん》なさるまいな」
「念を押されるまでもありません」
伊東は、秀麗な顔でうなずいた。
「されば貴殿を同志として打ちあける。幕閣極秘の事項とおもっていただきたい。もしこれが、長州はむろんのこと、薩摩、因州、筑前、土佐、といった、あわよくば徳川にかわって天下の主権を握ろうとする西国大名に洩れれば、大事にいたる」
それほどの秘密を、近藤は幕府の老中から明かされている。それを、近藤は伊東甲子太郎に誇示しようとしたのか、どうか。
「伊東君」
同志らしく、そういう呼び方に変わった。
「幕府の御金蔵には、もはや将軍が長州征伐のために西上する金がないのです」
「金が」
「そう。……ない」
うなずいた。
「幕府に?——」
「ないのだ、金が。将軍上洛となればおびただしいお供が要る。お供に渡るお手当がもはやない。お手当だけではない。鉄砲も要る。馬も要る。兵糧荷駄も用意せねばなるまい。煙硝も要る。それらを運ぶ軍船も要るだろう。伊東君、その金が、ない」
近藤はまるで自分が老中のような、悲痛な顔をした。
余談だが、このころ、幕府は極秘裡にフランスとのあいだで、長州征伐の軍費と幕軍の洋式化の費用の借款を交渉していた(曲折をへて、不調におわったが)。それほど、幕府は窮迫していた。
「しかし」
と、伊東は、神妙にいった。
「江戸には、徳川家が三百年養い来《きた》った旗本御家人という者が居る。将軍が東照権現(家康)以来の御馬印をたてて西上するとなれば、かれら直参は、家財を売ってでも馬を買い、鉄砲をそろえ、道中のお手当などもみずから調達し、身命をなげうって三百年の恩を報ずるはずではないですか」
「ところがそれが」
近藤は、不快そうにいった。
「伊東君も、噂を耳にしておられるはずです。御旗本のほとんどは、家計の窮乏を理由として従軍を望んでおらぬ」
伊東も、きいている。むろん幕臣のすべてではないが、その大半は、将軍出馬による長州征伐には反対であった。かれらのうちには、公然と江戸城中で、
——たかが三十六万石の西陬《せいすう》の一大名を征伐するのに、将軍が出かける必要がどこにある。
と、放言する者さえいた。
要は、将軍が出かければ旗本御家人がその士卒として従軍せねばならぬ。家計の打撃というだけでなく、江戸の遊惰な生活をすてて戦野に身を曝《さら》すなどという野暮は、三百年、御直参、御殿、とよばれてきたかれらにとって、考えられぬことであった。
「旗本八万騎というが」
と、近藤はいった。
「藁人形《わらにんぎよう》にひとしい。伊東君、将軍は勅命によって御所を護り、長州を鎮圧し、さらに外夷から国家を守ろうとするのですぞ。その将軍を、何者が守るのか。旗本は戦さをきらっている。結局、将軍を護り、王城を護るのは、新選組のほかはない」
近藤は、ぐっと杯を干し、伊東に差した。
伊東は、受けた。横あいから尾形俊太郎が、それに酒を満たした。
「伊東君、義盟を誓いましょう」
「いかにも」
伊東は、それを静かに干した。心中、なにを思っていたか、わからない。

近藤に会った翌日、伊東は、深川佐賀町の道場に、おもだつ門人、同志をあつめた。
七人。
いずれも、佐幕主義者ではない。
あわよくば、旗を京に樹《た》て、天子を擁《よう》して尊王攘夷の実をあげようという連中である。
まず、伊東の実弟の鈴木三樹三郎(のち薩摩藩に身を寄せ、近藤を狙撃。維新後弾正小巡察。大正八年、八十三歳で死去)
伊東の古い同志では、
篠原泰之進(同右。明治四十四年、八十四歳で死去)
加納道之助(|★[#周+鳥]雄《わしお》、のち薩摩藩に拠《よ》る)
服部武雄(維新前、闘死)
佐野|七《し》五三《め》之助《のすけ》(維新前、切腹)
伊東の門人としては、
中西登(のち薩摩藩に拠る)
内海二郎(同右)
このなかでも、剣術精妙といわれたのは武州出身の服部武雄、久留米脱藩の篠原泰之進で、加納、佐野なども、新選組の現幹部に劣らない。
伊東は、この七人に対しては近藤との会談をつぶさに語り、さらに肚《はら》の底までうちあけた。
——あくまでも、合流である。やがて主導権をにぎる。それをもって討幕の義軍たらしめたい。諸君の御所存は如何。
「もとより」
と、伊東はいった。
「虎穴に入るのだ。しかも虎児を奪《と》るだけではない。猛虎を追いだして虎穴を奪《うば》う。拙者に命をあずけていただきたい」
みな、賛同した。
しかしただ一人、一座の最年長である篠原泰之進だけは、この伊東のあまりにも才気走った奇計に、多少のあぶなっかしさを覚え、
「大丈夫かね」
と愛嬌のある久留米なまりでいった。篠原は、先年、いまここに同席している加納、服部、佐野らと横浜の外国公館を焼き打ちしようとしたほどの「尊攘激徒」だが、平素はおだやかな庄屋の大旦那といったふうがある。剣のほかに、柔術ができた。
「大丈夫かね、とは、どういう意味です」
「私はね、芝居が下手ですよ。異心を抱いて新選組に入りはしても、三日とごまかしきれるような男ではなか」
「それで結構」
伊東は、才を恃《たの》んでいる。
「芝居は、私がやります。諸君はただ、近藤、土方の命ずるまま、だまって隊務についていてもらえばいい。いざ、というときに蜂起する」
「そいつは楽だ」
篠原は、笑いながら、
「しかし、座長《ざがしら》がさ」
「私のことですか」
「そうです。憎まれ口をいうようだが、才人すぎて、かえって花道からころげ落ちるようなことになってはつまりませんよ」
「篠原君」
「いや、きいてください。新選組といっても馬鹿や土偶《でく》のぼうばかりがあつまっているわけじゃない。芝居の観巧者《みごうしや》がいる。聞けば土方歳三」
「いや、先刻しらべている。土方は無学な男だ。とるに足りない」
「どうかなあ」
「篠原君、きみに似合わず、臆《おく》されたようですな」
「なんの」
篠原は、笑った。
「わたしゃ、こうときまった以上、命と思案は利口な|ああ《ヽヽ》た《ヽ》にお任せしてある。ただ結盟にあたって、ひとことだけ、不安を申したまでです」
「不安。新選組は、藤堂君にきけば、たかが烏合《うごう》の衆ですよ。篠原君は怖れすぎる」
「わたしの怖れているのは、新選組の近藤や土方などではない」
「では、なんです」
「|ああ《ヽヽ》た《ヽ》の才気ですよ。いや、才気を恃《たの》みすぎるところかな。見わたしたところ、この一座は大根役者ばかりで、千両役者といえば|ああ《ヽヽ》た《ヽ》お一人だ。巧者すぎて、浮きあがらんようにしてもらいたい」
「篠原君」
「いや、これで話はしまい。あとは|ああ《ヽヽ》た《ヽ》に命をあずけた。——酒だ、服部君」
「なんです」
「みなで酒を買おう。江戸の酒の飲みおさめに、今夜はつぶれるまで私は飲む」
その夜、みなが帰ったあと、伊東は故郷の常州三村に独り住んでいる老母の|こよ《ヽヽ》へ宛《あ》てて京にのぼる旨の手紙をかき、妻|うめ《ヽヽ》にも結盟上洛のいきさつを話し、その後数日して深川佐賀町の道場をたたみ、家族を三田台町の借家に移している。
前にものべたとおり、伊東はもともと大蔵という名であったのを、江戸を去るにあたって、甲子太郎と改名している。伊東なりに、よほどの覚悟があったのであろう。
伊東がよほどの覚悟をきめて京へのぼったということについては、ほかにも挿話がある。妻|うめ《ヽヽ》というのは、その手紙などの文章からみても相当の教養のあった婦人らしくおもえるが、やはり、京における夫の身を案じすぎたのであろう。伊東へはは様大病、と偽報し、おどろいて早駕籠で江戸に帰ってきた伊東に、
——実は母上のご病気とは偽りでございます。あまりにお身の上が気になりますから、もう国事に奔走するのは止《よ》して頂きたいと思い、手紙をさしあげました(この項、小野圭次郎著「伯父・伊東甲子太郎」と同文)。
このときの、|うめ《ヽヽ》に対する伊東の心事はよくわからない。ただ「非常に腹を立」て、
——汝如きは自己のみを知って、国家の重きを知らぬものだ。
と離別してしまっている。幕末維新で第一級の志士には意外なほど愛妻家が多いが、国事を理由に妻を離別したのは伊東甲子太郎だけであろう(余談だが、老母|こよ《ヽヽ》は、甲子太郎の絵像を床の間にかけて朝夕、その健康を祈っている、というふうの人であった。明治二十五年、常州石岡町の次男三樹三郎の家で死去、八十二歳。辞世は、万世《よろずよ》のつきぬ御代《おんよ》の名残りかな)。

伊東甲子太郎ら一行八人が、京に入ったのは、元治元年十二月一日である。
この日、ひどく寒かった。
歳三は、昼、自室でひとりめしを食っていた。副長には一人、隊士見習をかねた小姓が付くのだが、歳三は、いっさい、給仕をさせない。
飯|びつ《ヽヽ》をわきに引きつけ、自分で茶碗に盛っては、ひとり食う。子供のころから、ひとと同座してめしを食うのがきらいな男であった。この点も、猫に似ている。
「たれだ」
と、箸をとめた。
障子に、影が動いた。
からっと不遠慮にひらき、沖田総司が入ってきた。
「なんだ、総司か」
この若者だけは、にが手だ。
「どうぞ、召しあがっていて下さい」
「急用かね」
「いや、ここで拝見しています。私は自分が食がほそいせいか、他人がうまそうにめしを食っているのを見物するのが、大好きなんです。とくに土方さんの食いっぷりを見ていると、身のうちに元気が湧《わ》いてくるような気がします」
「いやなやつだな」
茶をのんだ。
「用かね」
「ごぞんじですか」
「なにがだ」
「近藤先生の休息所(興正寺門跡下屋敷)に、江戸から客人が八人来ています」
「ふむ」
湯呑を、置いた。
「伊東だな」
「やはり、勘がいい。伊東って人は色が白くて役者のようにいい男ですが、あとは、弁慶、伊勢義盛といった鬼のような豪傑ぞろいですよ」
「そうかえ」
楊枝を使いはじめた。
「山南先生、藤堂さん、といったところが、やはり同流のよしみで、さっそく挨拶に出かけたようです」
「妙だな。副長のおれンとこには、一行来着という報らせも来ていない」
「申し遅れました。私がその使者です。近藤先生から、土方さんを呼ぶように、と云いつかっています」
「ばか、なぜそれを早くいわない」
「しかし」
沖田は、くすくす笑った。
「なにがおかしい」
「楽しめますからね、土方さんのお顔の変わり方が」
「なにを云やがる」
「すぐ、興正寺下屋敷まで行ってくださいますか」
「行かないよ」
楊枝で、せせっている。歳三は、歳三なりの理由がある。新選組副長が、なぜ新参の隊士の宿所まで出むかねばならない。
「おれの|つら《ヽヽ》を見たけりゃ、その伊東さんに、屯所の副長室まで御足労ねがうことだな」
楊枝を、捨てた。
沖田は、鼻を鳴らして笑った。からかってはいても、そういう歳三が好きだった。
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