ほんとうにびんぼうで、へやを明るくするランプも持っていません。
でも、おじいさんは小さな小屋に、小イヌと小ネコといっしょに、たのしく暮らしていました。
ある日、いつものようにヒツジをつれてあるいていると、森のなかから悲しそうな声がきこえてきました。
パーべルじいさんは、声のするほうへいってみました。
すると、森の木がもえていて、一ぴきのまだらトカゲが、ほのおにつつまれてないているのです。
おじいさんはかわいそうに思って、ヒツジ飼いの長いつえを、トカゲのほうにさしだしてやりました。
トカゲはつえをつたって、ぶじに火のなかからにげだすことができました。
「命をすくってくださって、ありがとうございます。わたしはトカゲの王の娘です。わたしについていらしてください。お日さまのようにかがやく小石を、お礼にさしあげましょう」
こういうと、トカゲは草の上をスルスルとはっていきました。
トカゲのほらあなにつくと、
「小石をとってきますから、ここでまっていてください」
と、いって、トカゲの王女は中へきえていきました。
もう日がくれて、森はまっくらです。
トカゲが小石をくわえてほらあなから出てくると、たちまちあたりは、昼のように明るくなりました。
もう夜があけたのかと思って、小鳥たちが朝の歌をうたいだしたほどです。
「この小石で、地面を三回たたいてのぞみをとなえてごらんなさい。どんなことでもかなえてくれます」
と、トカゲの王女はいいました。
家へかえるとおじいさんは、さっそく小石をとりだしてみました。
すると、へやじゅうがパッと明るくなりました。
小イヌと小ネコは、あまりにもまぶしくて、前足で目をかくしてしまったほどです。
夕食をすませたあとで、おじいさんは一人ごとをいいました。
「このうえ、小石に願いをかけることなんてあるかな? わしは家もヒツジも持っている。それにきょうからは明るいへやで、夕食をくえるようになった」
それでもおじいさんは、いろいろなことが頭にうかんで、なかなかねむれません。
「やっぱり、あの小石にたのんでみようかの。だが、はて、なにをたのんだものか。???おお、そうじゃ。白い大理石(だいりせき)のご殿をたのんでみるとしよう」
おじいさんはねどこからおきあがると、たなの上の光る小石をとりました。
そして、三回地面をたたいていいました。
「白い大理石のご殿よ。わしの前に出てこい!」
するとアッというまに、おじいさんのあばら家は消えて、そこにすばらしい白い大理石のご殿がそびえました。
かべはまるで鏡のようにピカピカで、イスや机は象牙(ぞうげ)、お皿や茶わんは金でできています。
パーべルじいさんは目をまるくして、ご殿の中を、見物してあるきました。
そして、小石をふところにしまって、フカフカの羽ぶとんをしいたねどこに横になりました。
ちょうどその夜、となりのイワンがやってきました。
「じいさん、これはどうした? このすごいご殿は?」
「小石がたてた、ご殿じゃよ」
「小石だと? 見せてくれ。小石がどうやって、こんなご殿をたてたんだね?」
パーべルじいさんは小石を見せて、わけを話してきかせました。
あれこれと話しているうちに、二人ともねむたくなりました。
「イワン。こんやはここにとまったらいい」
おじいさんが、そういったので、イワンは、おじいさんといっしょに、羽ぶとんでねることになりました。
ところがイワンはねむらないで、おじいさんがねつくのをジッとまちました。
そしておじいさんのふところから小石をとると、三回地面をうっていいました。
「四人の力もち出てこい。ご殿をもちあげて、ドナウ川のむこうまではこんでいけ!」
たちまち四人の力もちがあらわれて、ご殿をもっていきました。
イワンは小石をもって、にげだしました。
つぎの朝、パーべルじいさんは目をさましてビックリ。
ご殿も小石もなく、もとのままのあばら家に小イヌと小ネコがいるだけです。
おじいさんはかなしくて、泣きだしました。
ヒツジたちもいっしょに、メエメエとなきました。
小イヌと小ネコも、かなしくなりました。
そして小ネコが、小イヌにいいました。
「おじいさんの小石、ぼくたちでさがしてあげようよ」
「そうだ。いこう」
小ネコと小イヌはいそいででかけると、ドナウ平野をすぎてドナウ川に出ました。
小ネコは泳げないので、小イヌの背中にのってドナウ川をわたりました。
またあるきつづけて、やっとご殿につきました。
二ひきは庭にかくれて、日がくれるのをまち、こっそりまどからしのびこみました。
イワンは小石を口の中にかくして、羽ぶとんの上でねています。
「いいことがあるよ。コショウ入れにしっぽをつっこんで、そのコショウのついたしっぽで、イワンのはなをくすぐってやるのさ」
小ネコはこういうと、さっそくとりかかりました。
コショウ入れにつっこんだしっぽで、イワンのはなをくすぐりはじめたのです。
「ハッ、ハッ、ハックション!」
イワンは、大きなクシャミをしました。
そのいきおいで、小石は口からとびだしました。
小ネコはすばやく小石をくわえて、小イヌといっしょににげだしました。
ドナウ川までくると、また小ネコは小イヌの背中にのりました。
ところが川のまん中までくると、小イヌがいいました。
「ぼくにも、その石見せてくれよ」
「いまは、だめだよ」
「いますぐ見せてくれ。さもないと、水の中におっことしてやるよ」
小ネコはビックリして、小石を小イヌにわたしました。
そのとき、小石はツルッとすべって、水の中におちてしまいました。
二ひきは岸にあがって、泣きだしました。
そこへ、つりざおをもった漁師がとおりかかりました。
漁師は、二ひきがおなかをすかして泣いているのだと思って、すぐに大きなさかなをつってくれました。
小イヌと小ネコは、そのさかなをつつきはじめました。
すると、どうでしょう。
さかなのおなかから、小石が出てきたじゃありませんか。
小イヌと小ネコは大よろこびで、パーべルじいさんのところへかえりました。
おじいさんは、まだ泣いていました。
小ネコと小イヌは、おじいさんの頭の上に小石をおとしました。
その光を見たとたん、おじいさんは小石をとって、三回地面をたたいていいました。
「たったいま、イワン出てこい! 袋にはいって出てこい!」
袋にはいったイワンがパッとあらわれると、おじいさんはつえで、袋をさんざんぶちのめしてから、イワンを追いはらいました。
おじいさんは、小石をさいふにしまっていいました。
「もう、ご殿もなにもいらぬ。どうせイワンにとられるだけじゃ」
それいらいパーべルじいさんは、まい晩くらくなると、小石をたなの上におきました。
小石はあかあかと、へやをてらしました。
やがておじいさんが死ぬと、あのトカゲが小石をもっていってしまったということです。