天の川は、多くの明るい星の後ろに雲がかかったように暗い星が無数に存在する星の集団だが、これは太陽系が属する銀河系そのもの。銀河系は平べったい目玉焼きのような形で回転している。その白身の端に近い場所にある地球から、厚みのある中心部の黄身の方向を見ているため川のように見えるのだ。
七夕伝説の織姫と彦星は天の帝みかどによって天の川の東西に離ればなれにさせられたが、改心して元通り、機織りや牛飼いをすると約束したため、年に1度だけ会えることになった。ロマンチックなこの物語を知らない人はいないだろう。
ところが、国立天文台(東京都)の副台長、渡部潤一さん(53)は「年に1度の逢瀬おうせは人間にとっては待ち遠しいでしょうが、星にとっては何でもない時間です」と指摘する。
「仮に10億年生きる星を100年生きる人間に例えれば、365日に1回という頻度は、3秒に1回会っていることになる。これでは、ほとんどいつも一緒にいるのと同じですね」と渡部さんは笑みを浮かべる。
とはいえ、二つの星の間の距離は約16光年。光の速さで移動できたとして16年もかかるのでは、年に1度会うのは不可能だ。宇宙のロマンも現代天文学の計算の前には、はかない夢のようだ。
今回の写真は、北海道東部・陸別町の銀河の森天文台の敷地内で6月21日の夜に撮影した。七夕伝説は全国各地に伝わるが、この時期に当地で撮影したのは、梅雨で星空が見えにくい日本の中でも、晴れて満天の星が肉眼で美しく見える可能性が高いからだ。
あす7日、日本のどれぐらいの地域で天の川が見られるだろうか。
もし晴れていれば、年に1度のこの夜、光害のない、真っ暗な山や海辺に行き、銀河系の片隅から宇宙の超遠距離恋愛に思いをはせてほしい。地球とは何と小さな存在なのかと実感することだろう。