過体重や肥満の中年の人々の脳では、老化が加速している兆候が示されているとの研究結果が4日、発表された。
医学的に過体重とされる人の脳では、大脳白質(脳の異なる部位間の情報伝達を可能にする結合組織)の各測定値が、やせた人に比べて著しく低いことを研究チームは発見した。
米専門誌「加齢神経生物学(Neurobiology of Aging)」に掲載された論文によれば、研究結果から判断すると、40歳の過体重の人の脳は、老化が10年進んでいると考えられるという。また、この10年の格差は、過体重や肥満の人々が年を取り、長い時間を経ても残り続ける。
論文の筆頭執筆者で、英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)精神医学部の科学者のリサ・ローナン(Lisa Ronan)氏はAFPの取材に「脳の大きさは、老化が進むにつれて自然に小さくなる」と説明。その上で、標準体重の人々に比べて「過体重や肥満(の人々)は、白質の減少量が大きい」と説明した。
だが現段階では、過体重が原因でこのような脳の変化が起きているのか、それとも白質量の低下が体重増加を引き起こしているのかについては、科学的にはまだ推測の域を出ていないことをローナン氏は指摘している。
論文の共同執筆者で同じくケンブリッジ大のポール・フレッチャー(Paul Fletcher)氏は、声明で「これら2つの因子の相互作用については、健康に重大な結果がもたらされる可能性があるため、その仕組みを解明することは重要となる」と述べている。
ローナン氏と研究チームは、20歳から87歳までのボランティア500人近くから収集したデータを調べた。その結果、過体重のグループでは、年齢が中年を超えないと白質密度の格差が現れなかったことから、脳の脆弱(ぜいじゃく)性が中年期以降に高まることが示唆された。
研究チームによれば、過体重の人とやせた人との認知能力やIQ(知能指数)の測定可能な差については、大脳白質の縮小との対応関係は存在しなかったという。
論文の別の共同執筆者で、ケンブリッジ大ウエルカムトラスト(Wellcome Trust)医学研究評議会(MRC)代謝科学研究所(Institute of metabolic Science)のサダフ・ファローキ(Sadaf Farooqi)氏は「脳構造におけるこれら変化の影響に関しては、現時点ではまだ不明」と話し、「明らかなのは、今回の研究を出発点として、体重、食事、運動などが脳や記憶に及ぼす影響をさらに詳細に調査する必要があることだ」と付け加えた。