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美しく生まれたばかりに(1)

时间: 2022-10-17    进入日语论坛
核心提示:美しく生まれたばかりに小川未明 さびしい、暗(くら)い、谷(たに)を前(まえ)にひかえて、こんもりとした森(もり)がありました。
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美しく生まれたばかりに

小川未明


 さびしい、暗(くら)い、谷(たに)を前(まえ)にひかえて、こんもりとした森(もり)がありました。そこには、いろいろな小鳥(ことり)が、よく集(あつ)まってきました。
 秋(あき)から、冬(ふゆ)へかけて、そのあたりは、いっそうさびしくなりました。森(もり)は陰気(いんき)な顔(かお)をして、黙(だま)っていました。そのとき、眠(ねむ)りをさまさせるように、いい声(こえ)を出(だ)して、こまどりが鳴(な)きました。
 これを聞(き)くと、森(もり)は、元気(げんき)づいたのです。
「あの美(うつく)しいこまどりがきたな。どうか、この森(もり)に長(なが)くおってくれればいい。」と、木立(こだち)は思(おも)ったのでした。
 多(おお)くの木立(こだち)は、自分(じぶん)の枝(えだ)へ、毎日(まいにち)のようにくるたくさんの小鳥(ことり)たちを知(し)っていました。しかし、どの鳥(とり)も、こまどりのように、美(うつく)しく、そして、いい声(こえ)をだして鳴(な)くものがなかった。
「どうか、私(わたし)の枝(えだ)へきて、こまどりは止(と)まってくれないものかな。」と、一本(ぽん)の木立(こだち)は、考(かんが)えていました。
 ちょうど、そのとき、そこへ飛(と)んできたのは、やまがらと、しじゅうからでありました。
「たいへんに、寒(さむ)くなりましたね。嶺(みね)を吹(ふ)く風(かぜ)は身(み)を切(き)るようです。しかし、この森(もり)は、奥深(おくふか)いから、いつ雪(ゆき)になっても、私(わたし)たちは、安心(あんしん)ですが……。」と、鳥(とり)たちは、話(はなし)をしています。
 木立(こだち)は、それを聞(き)くと、自分(じぶん)も、じつに寒(さむ)くなったように身震(みぶる)いをしました。
「しじゅうからさん、山(やま)のあちらは、暴(あ)れていますか? そういえば、もう雲(くも)ゆきが速(はや)くて、すっかり冬(ふゆ)ですものね。また、雪(ゆき)の中(なか)にうずもれることを考(かんが)えると、まったく、いやになってしまいます。あなたたちは、しあわせものですよ……。」と、しみじみとした調子(ちょうし)で、木立(こだち)は、いいました。
 やまがらは、その枝(えだ)で、一度(ど)もんどりを打(う)ちました。
「私(わたし)たちがしあわせだって? ……それはちがいますよ。一日(にち)、風(かぜ)に吹(ふ)かれて駆(か)けまわっても、このごろは、虫(むし)一匹(ぴき)見(み)つからないことがあります。それに、これからは、雨風(あめかぜ)に追(お)われて、あちらへ逃(に)げ、こちらへ逃(に)げなければなりません……。」と、やまがらは、答(こた)えた。
「だって、そうして、自由(じゆう)に空(そら)を飛(と)べるのじゃありませんか。私(わたし)たちは、永久(えいきゅう)に、ここにじっとしていなければならない運命(うんめい)にあります。こうして、毎日(まいにち)、同(おな)じような谷川(たにがわ)の音(おと)を聞(き)いていなければなりません。先刻(せんこく)でしたか、こまどりさんの歌(うた)を聞(き)きましたが、いつも、よい声(こえ)ですね。」と、木立(こだち)は、うっとりとしていいました。
「ほんとうに、あのこまどりこそ、しあわせ者(もの)です。どこへいっても、森(もり)や、林(はやし)に、かわいがられます。森(もり)じゅうの木立(こだち)が、どうか自分(じぶん)の枝(えだ)にきて止(と)まってくれればいいと思(おも)っている。私(わたし)たちが、せっかく、一夜(や)をそこにあかそうと思(おも)って止(と)まると、枝(えだ)が意地悪(いじわる)く、夜中(よなか)に、私(わたし)たちの体(からだ)を揺(ゆ)すって、振(ふ)り落(お)とそうとする。それに、くらべれば、同(おな)じ小鳥(ことり)とうまれて、こまどりは、ほんとうにしあわせ者(もの)であります。」と、二羽(わ)の小鳥(ことり)は、口々(くちぐち)にいいました。
 木立(こだち)は、さすがに、気恥(きは)ずかしく感(かん)ぜずにはいられなかったのです。
「いえ、私(わたし)だけは、そんな意地悪(いじわる)ではありません。だれでも、私(わたし)の枝(えだ)にきて止(と)まってくだされば、ありがたく思(おも)っています。どうか、こんなさびしい日(ひ)は、よそへゆかずに、ここにいて、いろいろごらんなされた、おもしろい話(はなし)をしてくださいませんか。」と、木立(こだち)は頼(たの)みました。
 このとき、風(かぜ)が、またひとしきり強(つよ)くなった。やまがらは、驚(おどろ)いて、飛(と)び立(た)とうとして、
「それよりは、私(わたし)は、昨日(きのう)、嶺(みね)のあちらで、はやぶさにねらわれた。もうすこしで捕(と)らえられようとしたのを、いばらのやぶに逃(に)げこんで助(たす)かったが、こうして、風(かぜ)が、ふいに吹(ふ)くと、また、はやぶさにねらわれたかと思(おも)って、びっくりする……。」と、しじゅうからにいうとなく、独(ひと)りで思(おも)いだしていいました。
「ほんとうに、そうした話(はなし)を聞(き)くと、自由(じゆう)に空(そら)を飛(と)べるあなたたちにも、いろいろな苦労(くろう)があるのですね。」と、木立(こだち)は同情(どうじょう)しました。
 いつしか、あたりは、暗(くら)くなっていった。そして、谷川(たにがわ)の水(みず)が、あいかわらず、単調(たんちょう)な歌(うた)をうたっているのが、あたりが、しんとすると、いっそうはっきりと聞(き)こえてきました。
 空(そら)を見(み)ると、雲切(くもぎ)れがしているその間(あいだ)から、一つ星(ぼし)が、大(おお)きな目(め)で下(した)をじっと見下(みお)ろして、木立(こだち)に止(と)まっている小鳥(ことり)たちが、熱心(ねっしん)に、風(かぜ)に動(うご)く枝(えだ)と話(はなし)をしているのに、耳(みみ)を澄(す)まして聞(き)いていました。
「ねえ、空(そら)のお星(ほし)さま、ここに、いつもこうして、じっとして動(うご)けない私(わたし)たちと、このかわいらしい小鳥(ことり)さんたちと、どちらが、幸福(こうふく)なものでしょうかね。何事(なにごと)も、あなたは、わかっておいでなさると聞(き)いていますが、どうか、教(おし)えてくださいませんか。」と、まだ、そんなに、この森(もり)の中(なか)では年(とし)をとっていない木立(こだち)が、快活(かいかつ)に、星(ほし)に向(む)かってたずねました。
 星(ほし)は、急(きゅう)に、問(と)いかけられて、急(いそ)がしそうに瞬(またた)きをしました。それから、じっと態度(たいど)を澄(す)まして、おちついた調子(ちょうし)で、
「地上(ちじょう)に、すむものは、よいも、悪(わる)いもない、みんなの運命(うんめい)は同(おな)じなんです。」と、答(こた)えた。
 すると、こんどは、小(ちい)さなしじゅうからが、黙(だま)っていなかった。
「星(ほし)さん、星(ほし)さん、そうじゃないでしょう。いい声(こえ)のこまどりは、どこへいっても、森(もり)や、林(はやし)たちばかりでない、人間(にんげん)からもかわいがられます。私(わたし)は、ああいういい声(こえ)を持(も)って、美(うつく)しく生(う)まれてきたものが、幸福(こうふく)だと思(おも)わずにいられません。」といいました。
 木立(こだち)は、しじゅうからの言葉(ことば)に、しきりに同感(どうかん)をして、頭(あたま)を振(ふ)っていた。すると、星(ほし)は、いちだんと清(きよ)らかな光(ひかり)を増(ま)して、大(おお)きな目(め)をみはったように、
「そう思(おも)うのも無理(むり)はありませんが、どうして、それが、終生(しゅうせい)の幸福(こうふく)だといわれますか……。そのためにいいこともあれば、また、悪(わる)いこともある。空(そら)から、見(み)ているとよくわかりますよ。」と、星(ほし)は答(こた)えたのです。
 風(かぜ)は、ますます強(つよ)く吹(ふ)いてきました。黒(くろ)い雲(くも)が出(で)ると、せっかく、のぞいた清(きよ)らかな星(ほし)の光(ひかり)も、跡形(あとかた)もなくかくしてしまいました。
 小鳥(ことり)たちは、ついうかうかとして、時(とき)のたったのに気(き)づかなかったが、まったく、暗(くら)くなってしまうと、おのおのの友(とも)だちのいるところを探(さが)して、あちらとこちらで呼(よ)びかわしながら、森(もり)の深(ふか)くへはいってゆきました。
 明(あ)くる日(ひ)の暮(くれ)れ方(がた)のこと、雪(ゆき)がちらちらと風(かぜ)にまじって降(ふ)っていました。こまどりは、ひとりいい声(こえ)で、この木立(こだち)に止(と)まって鳴(な)いていました。
「ごらんなさい。あなたが鳴(な)きますと、ほかの鳥(とり)たちは、みんな黙(だま)ってしまうではありませんか。たまに、こうして、あなたがたずねてきて鳴(な)いてくださるので、私(わたし)たちは、さびしい、こんな山中(やまなか)にいてもなぐさめられるのです。今夜(こんや)は、雪(ゆき)になりそうです。晩(ばん)は、この森(もり)の奥(おく)へはいって、お休(やす)みなさいまし。」と、木立(こだち)がいいました。
「きのうは、あちらの山(やま)にいってみました。夕焼(ゆうや)けが赤(あか)かったから、雪(ゆき)になろうと思(おも)ったのですよ。自分(じぶん)の唄(うた)が、西(にし)の空(そら)へ響(ひび)くような気(き)がしました。」と、こまどりは、自分(じぶん)の声(こえ)を自慢(じまん)したのです。

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