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砂漠の町とサフラン酒(1)

时间: 2022-11-03    进入日语论坛
核心提示:砂漠の町とサフラン酒小川未明 むかし、美(うつく)しい女(おんな)が、さらわれて、遠(とお)い砂漠(さばく)のあちらの町(まち)へ
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砂漠の町とサフラン酒

小川未明


 むかし、美(うつく)しい女(おんな)が、さらわれて、遠(とお)い砂漠(さばく)のあちらの町(まち)へ、つれられていきました。疲(つか)れているような、また、眠(ねむ)いように見(み)える砂漠(さばく)は、かぎりなく、うねうねと灰色(はいいろ)の波(なみ)を描(えが)いて、はてしもなくつづいていました。
 幾日(いくにち)となく、旅(たび)をすると、はじめて、青(あお)い山影(やまかげ)を望(のぞ)むことができたのであります。
 そのふもとに、小(ちい)さな町(まち)がありました。女(おんな)は、そこへ売(う)られたのです。女自身(おんなじしん)をのぞいて、だれも、彼女(かのじょ)のふるさとを知(し)るものはありません。また、だれも、彼女(かのじょ)の行方(ゆくえ)を悟(さと)るものとてなかったのであります。
 彼女(かのじょ)は、ここで、その一生(しょう)を送(おく)りました。サフラン酒(しゅ)を、この町(まち)の工場(こうば)で造(つく)っていました。彼女(かのじょ)は、その酒(さけ)を造(つく)るてつだいをさせられていたのでした。
 月(つき)が窓(まど)を明(あか)るく照(て)らした晩(ばん)に、サフランの紅(あか)い花(はな)びらが、風(かぜ)にそよぐ夕方(ゆうがた)、また、白(しろ)いばらの花(はな)がかおる宵(よい)など、女(おんな)は、どんなに子供(こども)のころ、自分(じぶん)の村(むら)で遊(あそ)んだことや、父母(ふぼ)の面影(おもかげ)や、自分(じぶん)の家(いえ)の中(なか)のようすなどを思(おも)い出(だ)して、悲(かな)しく、なつかしく思(おも)ったでありましょう。
 いくら思(おも)っても、考(かんが)えても、かいないものならば、忘(わす)れようとつとめました。彼女(かのじょ)は、生(う)まれたふるさとのことを、永久(えいきゅう)に思(おも)うまいとしました。また、育(そだ)てられた家(いえ)のことや、村(むら)の光景(ありさま)などを考(かんが)えまいとしました。
 美(うつく)しく、みずみずしかった女(おんな)は、いつとなく、堅(かた)い果物(くだもの)のように黙(だま)って、うなだれているようになりました。人(ひと)がなにをきいても、知(し)らぬといいました。
「この女(おんな)は、つんぼではないだろうか?」
「あの女(おんな)は、きっとおしにちがいない……。」
 そばの人々(ひとびと)は、皮肉(ひにく)にも、彼女(かのじょ)をそんなようにいいました。
 彼女(かのじょ)は、まだそれほどに、年(とし)をとらないのに、病気(びょうき)になりました。そして、日(ひ)に、日(ひ)に、衰(おとろ)えていきました。
「どうせ、わたしは、家(うち)に帰(かえ)られないのだから……死(し)んでしまったほうが、かえって幸福(こうふく)であろう。」と、彼女(かのじょ)は思(おも)いました。
 しかし、彼女(かのじょ)は、なにも口(くち)にはいわなかったものの、胸(むね)の中(うち)は、うらみで、いっぱいでありました。どうかして、このうらみをはらしたいと思(おも)いました。
 彼女(かのじょ)は、小指(こゆび)を切(き)りました。そして、赤(あか)い血(ち)を、サフラン酒(しゅ)のびんの中(なか)に滴(た)らしました。ちょうど、窓(まど)の外(そと)は、いい月夜(つきよ)でありました。びんの中(なか)では、サフランの酒(さけ)が醸(かも)されて、プツ、プツとささやかに、泡(あわ)を吹(ふ)く音(おと)がきこえていました。サフランの酒(さけ)の色(いろ)は、女(おんな)の血(ち)で、いっそう、美(うつく)しく、紅(あか)く色(いろ)づきました。
 女(おんな)は、それから、まもなく死(し)んでしまったのです。彼女(かのじょ)の体(からだ)は、異郷(いきょう)の土(つち)の中(なか)に葬(ほうむ)られてしまいましたが、その年(とし)のサフラン酒(しゅ)は、いままでになかったほど、いい味(あじ)で、そして、美(うつく)しい紅(あか)みを帯(お)びていました。
 いい酒(さけ)ができたときは、その酒(さけ)を種子(たね)として造(つく)ると、いつまでも、その酒(さけ)のようにできると、いい伝(つた)えられています。この町(まち)の人(ひと)は、その酒(さけ)の種子(たね)を絶(た)やしてはならないといって、珍(めずら)しく、いい色(いろ)に、いい味(あじ)に、できた酒(さけ)をびんにいれて、地(ち)の下(した)の穴倉(あなぐら)の中(なか)に、しまってしまいました。
 この町(まち)のサフラン酒(しゅ)は、ますます特色(とくしょく)のあるものとなりました。女(おんな)は、とうの昔(むかし)に死(し)んでしまったけれど、その血(ち)の色(いろ)を帯(お)びて醸(かも)される酒(さけ)は、幾(いく)百年(ねん)の後(のち)までも、残(のこ)っていました。そして、その魔力(まりょく)をあらわしていました。
 砂漠(さばく)の中(なか)の町(まち)……赤(あか)い町(まち)のサフランの赤(あか)い酒(さけ)……それは、いったい、どうした魔力(まりょく)をもっているのでしょうか?
       *   *   *   *   *
 砂漠(さばく)の中(なか)の赤(あか)い町(まち)は、不思議(ふしぎ)に富(と)んでいました。それは、人間(にんげん)の生(い)き血(ち)を吸(す)うからだといわれていました。また、その町(まち)は、魔女(まじょ)の住(す)む町(まち)だといわれていました。美(うつく)しい女(おんな)が、たくさんいるからです。美(うつく)しい女(おんな)がたくさんいるというよりは、この町(まち)の女(おんな)は、みんな、不思議(ふしぎ)に美(うつく)しいものばかりだといわれるのでした。そのわけは、もと、この町(まち)の女(おんな)が、南(みなみ)から、北(きた)から、また東(ひがし)から、世界(せかい)の方々(ほうぼう)から、さらわれてきた、種族(しゅぞく)のちがった、美(うつく)しい女(おんな)たちの子孫(しそん)であるからです。長(なが)い間(あいだ)に、異(ちが)った種族(しゅぞく)の種子(たね)と種子(たね)とが結(むす)び合(あ)って、いっそう美(うつく)しい人間(にんげん)が生(う)まれたことに、不思議(ふしぎ)がありません。
 いつしか、砂漠(さばく)の中(なか)に、赤(あか)い町(まち)があり、そこには、味(あじ)のいいサフラン酒(しゅ)があり、きれいな女(おんな)がいるということが、伝説(でんせつ)のように、世界(せかい)の四方(ほう)に拡(ひろ)がりました。あるものは、それを信(しん)ぜずにはいられませんでした。また、あるものは、それを疑(うたが)わずにはいられませんでした。
 しかし、砂漠(さばく)を越(こ)えていくと、あちらの山(やま)に砂金(さきん)が出(で)るということ、また、いろいろの宝石類(ほうせきるい)が出(で)るということだけは、たしかでした。
 ダイヤモンドや、ほかの宝石(ほうせき)などが、ときおり、砂漠(さばく)のあちらから、送(おく)られてきたからです。

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