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さまざまな生い立ち(1)

时间: 2022-11-03    进入日语论坛
核心提示:さまざまな生い立ち小川未明 日ひにまし、あたたかになって、いままで、霜柱しもばしらが白しろく、堅かたく結むすんでいた、庭
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さまざまな生い立ち

小川未明

 日ひにまし、あたたかになって、いままで、霜柱しもばしらが白しろく、堅かたく結むすんでいた、庭にわの黒土くろつちが柔やわらかにほぐれて、下したから、いろいろの草くさが芽めを出だしてきました。
「お父とうさん、すずらんの芽めが、だんだん伸のびてきましたよ。」と、庭にわに出でて、遊あそんでいた少年しょうねんが、奥おくの方ほうに向むかっていいました。
へやで、お父とうさんは、本ほんを読よんでいられた。
「兄にいさん、どこに、すずらんが芽めを出だしたか、僕ぼくに見みせておくれよ。」と、弟おとうとがそこへ飛とんできました。
春はるの風かぜは、青々あおあおと晴はれた空そらを渡わたっていました。そして木々きぎの小枝こえだは、風かぜに吹ふかれて、なにか楽たのしそうに小唄こうたをうたっていたのです。つい、このあいだまで、ねずみ色いろに低ひくく漂ただよっていた冬ふゆの雲くもは、どこへか消きえてしまって、そしてその下したに、だまってふるえていた木立こだちの姿すがたは、思おもい出だしても夢ゆめのような気きがします。
「すずらんが、芽めを出だしたかな。」と、お父とうさんは、日ひの照てらす、庭にわの方ほうを見みながら、書物しょもつから目めをはなしました。
みんなは、田舎いなかから、こちらへ持もってきた、すずらんが新あたらしく、芽めを出だして咲さくことが、どんなにうれしかったかしれません。なぜならこちらでは、すずらんは珍めずらしい草くさであったからです。
「お父とうさん、しゃくやくも、紅あかい芽めを出だしましたよ。また今年ことしも、きれいな花はなを咲さくでしょうね。ああ、☆げんぶきも芽めを出だしましたよ。」
兄あにと弟おとうとは、しきりに庭にわさきを飛とびまわって、うれしそうに叫さけんでいました。お父とうさんも、いつか庭にわへ出でて、みんなと、春はるのめぐってきたのを喜よろこんでいたのでした。
それらの草くさの芽めは、しだいに太ふとく、伸のびていきました。その間あいだに、木々きぎのこずえは、花はなのしたくをして、土つちの上うえと木きの枝えだと、どちらが、早はやく花はなを咲さくか、さながら上うえと下したとで競争きょうそうしているごとくに思おもわれました。
しかし、こちらは、こうして、暖あたたかになったけれど、すずらんの生はえていた、北きたの国くにの野原のはらは、まだ雪ゆきが深ふかく風かぜが寒さむかったのです。去年きょねんの春はる、子供こどもたちは、お父とうさんにつれられて、おばあさんや、おじいさんの住すんでいなされる田舎いなかへいったのでした。そして、帰かえる時分じぶんに、丘おかや、野原のはらに咲さいていた、すずらんを幾株いくかぶか、土産みやげに持もってきたのでした。
「おまえたちは、あのすずらんの咲さいていた、野原のはらを忘わすれはしないだろうね。」お父とうさんは、兄あにと弟おとうとに向むかって、問とわれました。
「よく覚おぼえています。」と、兄あにのほうは答こたえました。
「なんで忘わすれるものか。もう一度どいってみたいな。」と、弟おとうとのほうがいいました。
すると、お父とうさんは、笑わらって弟おとうとの顔かおを見みながら、
「早はやく帰かえりたい、帰かえりたいといったでないか? お父とうさんは、こんなさびしいところに生うまれたんですか? といったのは、だれだったろう?」と、いわれました。
二人ふたりの子供こどもは、その時分じぶんのことを思おもい出だして目めを輝かがやかした。ほんとうに、さびしい北国きたぐにの景色けしきが、ありありと浮うかんできたのです。
毎日まいにち、毎日まいにち、春はるだというのに、空そらは曇くもりました。そして雪ゆきが降ふる日ひもあった。風かぜはいつまでも暖あたたかにならなかった。
「このあたりの木きは、太陽たいようの光ひかりよりは、風かぜと雪ゆきの中なかに育そだったようなものだ。」と、お父とうさんがいわれたことまで思おもい出だされたのでした。
雪ゆきに、長ながい間あいだ埋うもれ、また頭あたまを押おさえられたりした木きは曲まがりくねっていました。そして、草くさははげしい風かぜに吹ふかれるので、大おおきく伸のびることができなかったのでした。
「お父とうさん、どこからか、いい香においがしてきますね、なんの花はなでしょう。」と、子供こどもたちは、野原のはらを歩あるいているときに、お父とうさんにたずねたのでした。
「いい香かおりがする。あれは、すずらんの花はなの匂においだよ。」と、お父とうさんはほど近ちかくに、白しろい咲さいている花はなを見みつけて教おしえられました。
子供こどもたちは、さっそく、その花はなのところへ走はしっていきました。なんという白しろく、清きよらかな花はなであろう。そしてなつかしい香かを、たたえているであろう。
小鳥ことりが、どこかで鳴ないていました。ようやく浅緑あさみどりの芽めをふいた木立こだちは、喜よろこばしげに踊おどっていました。空そらを仰あおぐと雲くもが流ながれています。春はるには、ちがいなかったけれど、なんというさびしい春はるであろうと思おもった。
「お父とうさん、早はやく、東京とうきょうのお家うちへ帰かえりましょう……。」と、弟おとうとはいいました。
「なぜ?」
「さびしいんですもの……。」
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