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深山の秋(1)

时间: 2022-11-14    进入日语论坛
核心提示:深山の秋小川未明秋あきも末すえのことでありました。年老としとったさるが岩いわの上うえにうずくまって、ぼんやりと空そらをな
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深山の秋

小川未明


秋あきも末すえのことでありました。年老としとったさるが岩いわの上うえにうずくまって、ぼんやりと空そらをながめていました。なにかしらん心こころに悲かなしいものを感かんじたからでありましょう。夏なつのころは、あのようにいきいきとしていた木きの葉はが、もうみんな枯かれかかっていて、やがては、自分じぶんたちの身みの上うえにもやってくるであろう、永ながい眠ねむりを考かんがえたのかもしれない。たとえ、はっきりと頭あたまに考かんがえなくとも、一時じにせよ、その予感よかんに囚とらえられたのかもしれない。いつになく、遠とおい静しずかな気持きもちで、彼かれは、雲くものゆくのをじっと見守みまもっていました。
夕日ゆうひは、重かさなり合あった、高たかい山やまのかなたに沈しずんだのであります。さんらんとして、百花かの咲さき乱みだれている、そして、いつも平和へいわな楽土らくどが、そこにはあるもののごとく思おもわれました。いましも、サフランの花はなびらのように、また石竹せきちくの花はなのように、美うつくしく散ちった雲くもを見みながら、哀あわれな老おいざるは、しかし、自分じぶんの小ちいさな頭あたまの働はたらきより以上いじょうのことは考かんがえることができませんでした。
「あの先さきにいくのは、山やまにすんでいるおおかみくんに似にているな。そういえば、つぎにいくのは、あの大おおきいくまくんか、その後あとから、旗はたを持もっていくのは、いつか森もりであったきつねくんによく似にている。」
そう思おもって、雲くもの姿すがたをながめていると、自分じぶんの知しるかぎりの山やまにすむ獣物けものも、小鳥ことりも、みんな空そらの雲くもの一つ一つに見みることができるのでありました。それらは、楽たのしく、仲なかよくして、神かみさまの前まえに遊あそんでいました。
彼かれは、この不思議ふしぎな有あり様さまを、岩いわの上うえでじっと見上みあげていました。
「ああわかった。私わたしも年としを老とったから、せめて達者たっしゃのうちに、一度ど、みんなとこうして遊あそんでみよと、神かみさまがおっしゃるにちがいない。」
こう思おもいつくと、老おいざるは、悲かなしそうに一声ひとこえ高たかく、友ともだちを呼よび集あつめるべく、空そらに向むかって叫さけんだのです。
いつしか、空そらの雲くもは、どこへか姿すがたを消けしてしまいました。もし、気きがつかなかったら、永遠えいえんに知しられずにしまったような、それは、はかない天てんの暗示あんじでありました。
老おいざるの叫さけび声ごえをききつけて、すぐにやってきたのは、近ちかくのくるみの木きに上のぼっていたりすであります。
「どうしたのですか、さるさん、なにか変かわったことでも起おこったのですか?」と、ききました。
この年老としとったさるは、この近傍きんぼうの山やまや、森もりにすむ、獣物けものや、鳥とりたちから尊敬そんけいされていました。それは、この山やまの生活せいかつに対たいして、多おおくの経験けいけんを持もっていたためです。
老おいざるは、まず、りすに向むかって、いましがた見みた雲くもの教訓きょうくんを物語ものがたりました。
「それは、すてきだった。みんな集あつまって、雪ゆきの降ふらないうちに仲なかよく遊あそんだらいいと神かみさまはおっしゃるのだ。」と、老おいざるは、諭さとすようにいいました。
「ほんとうに、いいことですが、平常ふだん私わたしたちをばかにしているくまや、おおかみさんが、なんといいますかしらん。」と、りすは、小ちいさな頭あたまを傾かたむけました。
「私わたしが、いまここで見みた、雲くもの話はなしをすれば、いやとはいわないだろう。」と、老おいざるが、答こたえました。
「じゃ、さるさん、早はやく、懇親会こんしんかいを開ひらいてください。私わたしが、小ちいさいのでばかにされなければ、こんなうれしいことはありません。」と、りすは、喜よろこんで飛とび上あがりました。
そこへ、のっそりときつねがやってきました。
「さるさん、なにか変かわったことがあったのですか。あなたの呼よび声ごえをきいて、びっくりしてやってきました。」と、ずるそうな顔かおつきをしたきつねがいいました。しかし、このときだけは、きつねもまじめだったのです。
老おいざるは、いま見みた雲くもの話はなしをしました。
「きつねさん、あなたは、旗はたを持もって、その行列ぎょうれつの中なかに入はいっていましたよ。私わたしたちがやるときにも、どうかあのようにしてください。」
これをきくと、きつねは、そり身みになって、
「あ、私わたしも、ここにいて、その雲くもを見みるのだった。いままで、竹たけやぶの中なかで、眠ねむってしまいました。あなたの声こえをききつけて、びっくりして目めをさましたのです。」といいました。
老おいざるは、ふたりに、使つかいを頼たのみました。きつねは、洞穴ほらあなにいるくまのところへ、そして、りすは、谷川たにがわのところで獲物えものを待まっているであろうおおかみのところへいくことにしました。
りすは、いきがけに、老おいざるを振ふり向むきながら、
「ぶどうは、すこし過すぎたが、まだいいのがあります。かきもなっているところを知しっていますし、くりや、どんぐりや、山やまなしの実みなど、まだ探さがせばありますから、かならずいい宴会えんかいができますぜ。なんといっても、これから、長ながい冬ふゆに入はいるのだから、うんと一日にちみんなで仲なかよく遊あそびましょうよ。だいいち、この山やまにすむものの好このみですから、おそらく不賛成ふさんせいのものはありますまい。」といいました。
同おなじく、異ちがった道みちの方ほうへいきかけたきつねは、
「そうとも、たとえ人間にんげんほどに道理どうりがわからなくとも、俺おれたちにだって義理ぎりはあるからな。」といいました。
「人間にんげんの義理ぎりなんて、あてになるもんじゃないよ。」と、りすが、小ちいさな頭あたまを振ふりました。
「そんなことはない。」と、きつねは、人間にんげんの弁護べんごをしました。
「じゃ、律義りちぎもののくまや、勇敢ゆうかんなおおかみが、人間にんげんを助たすけたことはあるが、人間にんげんは、どうだ、くまや、おおかみを見みつけたが最後さいご殺ころしてしまうだろう。」と、やっきになって、りすがいい張はりました。
すると、老おいざるは、笑わらいながら、
「こんどは、人間にんげんともお友ともだちになろうさ。」といいました。
「そういうさるさんだって、人間にんげんからは、さる智恵ぢえといって、けっして、よくはいわれていませんぜ。」と、りすがいうと、さすがのさるもきまりの悪わるそうな顔かおつきをしました。
「そんな話はなしはどうだっていい。まあ、早はやくいってこよう。」と、きつねがいったので、りすは、一飛ひととびに谷たにの方ほうへ駆かけていきました。
峠とうげの上うえには、一軒けんの茶屋ちゃやがありました。夏なつから秋あきにかけて、この嶮けわしい山道やまみちを歩あるいて、山やまを越こして、他国たこくへゆく旅人たびびとがあったからですが、もう秋あきもふけたので、この数日間すうじつかんというものまったく人ひとの影かげを見みなかったのであります。
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