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すみれとうぐいすの話(1)

时间: 2022-11-17    进入日语论坛
核心提示:すみれとうぐいすの話小川未明 小(ちい)さなすみれは、山(やま)の蔭(かげ)につつましやかに咲(さ)いていました。そして、いい香
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すみれとうぐいすの話

小川未明


 小(ちい)さなすみれは、山(やま)の蔭(かげ)につつましやかに咲(さ)いていました。そして、いい香(かお)りを放(はな)っていました。
 すみれは、そこでも、安心(あんしん)をしていることは、できなかったのです。なぜなら、そのすみれをたずねてくるものは、ひとり、美(うつく)しいちょうや、かわいらしいみつばちばかりではなかったからです。
「ここにも、すみれが咲(さ)いていた。とって香(かお)りをかいでごらんなさい。いい香(かお)りがするから。」と、山(やま)に遊(あそ)びにきた、子供(こども)たちはいったのです。
 すみれは、自分(じぶん)ほど、不幸(ふこう)なものは、この世(よ)の中(なか)に、ないと思(おも)いました。小(ちい)さな体(からだ)で、しかも、ものの蔭(かげ)に、つつましく咲(さ)いているのを、それすら安心(あんしん)ができなかったからです。
「ああ、わたしほど、不(ふ)しあわせなものはない。」と、すみれは、ため息(いき)をしました。
 そのとき、そばから、名(な)もない草(くさ)がいいました。
「すみれさん、あなたは、あんまり美(うつく)しく生(う)まれてこられたからです。そして、いい香(かお)りをもっていなさるからです。私(わたし)のように、粗末(そまつ)に生(う)まれてきたものは、ちょうや、はちなどというきれいなものに、振(ふ)り向(む)かれないかわり、まあ、無事(ぶじ)といえばいえるのです。どちらがいいかわかったものでありません。そう、歎(なげ)くにはおよびませんよ。」と、皮肉(ひにく)のようになぐさめるように、いったのでした。
 これを聞(き)くと、すみれは、寒(さむ)い風(かぜ)に、小(ちい)さな頭(あたま)を振(ふ)りながら、
「いいえ、わたしは、自分(じぶん)の不安(ふあん)な生活(せいかつ)のことを考(かんが)えると、もう、ちょうにも、みつばちにもきてもらわなくてもいいのです。どうか、あなたのように、安心(あんしん)した生活(せいかつ)を送(おく)りたいものです。」と答(こた)えました。
 しかし、名(な)もない草(くさ)は、もうあきらめているというふうで、
「そういったって、しかたのないことです。」といったきり、黙(だま)ってしまいました。
 このとき、どこからか、一羽(わ)のうぐいすが飛(と)んできて、そばの木(き)の枝(えだ)に止(と)まりました。そして、いい声(こえ)でさえずりました。
 この声(こえ)をきくと、すみれは、なんといういい声(こえ)だろうと感心(かんしん)しました。
「なぜ、わたしは、鳥(とり)になって生(う)まれてこなかったろう。そして、ああしたいい声(こえ)で鳴(な)くことができたら、どんなにうれしいであろう。」と思(おも)いました。
 うぐいすは、しばらく枝(えだ)に止(と)まっていました。そのうち地面(じめん)に降(お)りてきました。うぐいすは、小(ちい)さなすみれの花(はな)を見(み)つけました。
「かわいらしい花(はな)だこと。」といって、すみれのすぐそばにやってきました。
「すみれさん、あなたは、しあわせものですね。」と、うぐいすはいいました。
 これを聞(き)くと、すみれは、うぐいすが自分(じぶん)をからかうのだと思(おも)いました。そして、うぐいすをいい声(こえ)だと感心(かんしん)したことなどは忘(わす)れてしまって、すみれは、腹(はら)をたてずにはいられませんでした。
「わたしほど、不(ふ)しあわせなものが、世(よ)の中(なか)にありましょうか。」と、すみれは、かなしい、細(ほそ)い声(こえ)でいいました。
 すると、うぐいすは、頭(あたま)をかしげながら、じっとすみれを見(み)つめていました。
「すみれさん、それは、私(わたし)のいうことです。私(わたし)ほど不幸(ふこう)のものはないと思(おも)います。」と、うぐいすはいいました。
 こんどは、すみれが、それを聞(き)いて、がっかりしたような顔(かお)つきをしました。
「あなたの声(こえ)は、あんなにいいではありませんか。いま、わたしは、あなたのさえずりなさる声(こえ)をきいて、うっとりとしました。あなたの声(こえ)を聞(き)くものは、ひとり、わたしばかりではありません。みんな感心(かんしん)します。あなたは、だれからもかわいがられます。なんで、あなたが不幸(ふこう)なことがありましょう。」と、すみれはいいました。
 うぐいすは、これをきいて、しばし黙(だま)っていましたが、やがて頭(あたま)を上(あ)げて、
「すみれさん、あなたが、そうお思(おも)いなさるのは無理(むり)のないことです。しかし、私(わたし)は、この声(こえ)のために、どんなに苦(くる)しんでいるかしれません。からすや、わしや、たかなどは、みんな私(わたし)を憎(にく)みます。私(わたし)を憎(にく)むというよりは、私(わたし)の声(こえ)を憎(にく)むあまり、私(わたし)の姿(すがた)を見(み)ると殺(ころ)そうとしているのです。それがために、私(わたし)は、安心(あんしん)して木(き)の枝(えだ)に止(と)まって眠(ねむ)ることができません。昼間(ひるま)は、こうして、彼(かれ)らに見(み)えないように、やぶから、林(はやし)を伝(つた)って鳴(な)いていますが、夜(よる)は、どこかの木(き)の枝(えだ)に止(と)まって眠(ねむ)らなければなりません。しかし、私(わたし)の定(き)まった宿(やど)というものはないのです。私(わたし)は、あなたのように、地(ち)の上(うえ)にしっかりとした、安(やす)らかな生活(せいかつ)をなさる姿(すがた)を見(み)るとうらやましくてなりません。私(わたし)ほど不幸(ふこう)なものがありましょうか。」と、うぐいすは、すみれに向(む)かっていいました。

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