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すももの花の国から

时间: 2022-11-17    进入日语论坛
核心提示:すももの花の国から小川未明 人々(ひとびと)のあまり知(し)らないところであります。そこには、ほとんど、かずかぎりのないほど
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すももの花の国から

小川未明


 人々(ひとびと)のあまり知(し)らないところであります。そこには、ほとんど、かずかぎりのないほどの、すももの木(き)がうわっていました。そして、春(はる)になると、それらのすももの木(き)には、みんな白(しろ)い花(はな)が、雪(ゆき)のふったように咲(さ)いたのであります。
 その木(き)の下(した)をとおると、いい匂(にお)いがして、空(そら)の色(いろ)が見(み)えないまでに、白(しろ)い花(はな)のトンネルとなってしまいました。それは、あまりに白(しろ)くて、清(きよ)らかなので、肌(はだ)が、ひやひやするようにおもわれたのであります。
 しかし、ゆけども、ゆけども、白(しろ)い花(はな)のトンネルはつきませんでした。まるで、白(しろ)い雪(ゆき)の世界(せかい)をあるいているようなものでした。けれど、雪(ゆき)ではありません。雪(ゆき)は、真(ま)っ白(しろ)でありますが、すももの花(はな)は、いくぶん、青(あお)みがかっていて、それに、いい匂(にお)いがしました。
 しまいには、どこが出口(でぐち)やら、また、入(はい)って、あるいてきたところやら、わからなくなってしまいました。すると、そのすももの林(はやし)のなかに、一軒(けん)のわら屋(や)がありました。その家(うち)には、しらがのおばあさんと、三人(にん)の姉弟(きょうだい)がありました。いちばん上(うえ)の姉(あね)は、十四で、つぎの妹(いもうと)は、十二で、下(した)の弟(おとうと)は、八つばかりでありました。
 この三人(にん)は、ほかにお友(とも)だちもなかったから、姉弟(きょうだい)で、なかよくあそんでいました。
「お父(とう)さんや、お母(かあ)さんは、いつになったらかえっていらっしゃるだろう?」と、妹(いもうと)と弟(おとうと)は上(うえ)の姉(ねえ)さんにむかってたずねたのです。すると、姉(ねえ)さんは、やさしい目(め)をして二人(ふたり)を見(み)ながら、
「私(わたし)だって、かすかに、お母(かあ)さんのかおや、お父(とう)さんの顔(かお)をおぼえているばかりなのよ。春(はる)の晩方(ばんがた)のこと、こうして、すももの花(はな)の咲(さ)いたじぶんに、みんながランプの下(した)で、たのしく、お話(はなし)をしたことだけをおぼえているのよ。」と、姉(ねえ)さんはこたえました。
 二人(ふたり)は、ぼんやりとしたかおつきをして、姉(ねえ)さんのいうことをきいていましたが、
「お父(とう)さんは、どこへいかれたのだろう……。」と、弟(おとうと)がいいました。
「お母(かあ)さんは、どこへおいでになったのでしょう……。」と、妹(いもうと)がたずねました。
 すると、姉(ねえ)さんが、
「お父(とう)さんも、お母(かあ)さんも、街(まち)のほうへおいでになったのよ。それは、街(まち)は、きれいなんですって。そして、いろいろな花(はな)が、もっと、もっと、ここよりか美(うつく)しく咲(さ)いているということです。」とこたえました。
「ここよりか?」
「ここには、白(しろ)い花(はな)ばかりですけど、街(まち)へゆけば、紅(あか)い花(はな)や、青(あお)い花(はな)や、黄色(きいろ)い花(はな)が、咲(さ)いているといいます。」
「ぼくも、街(まち)へいってみたいな。」と弟(おとうと)がいいました。「あたしも……。」と妹(いもうと)がいいました。
「私(わたし)だって、いってみたいことよ……。もしや、お母(かあ)さんや、お父(とう)さんにあわれないものでもないから。」と、姉(あね)がいいました。
 そこで、三人(にん)は、おばあさんのいなさるところへやってきました。おばあさんは、子供(こども)たちの着物(きもの)のほころびをつくろっていられました。
 姉弟(きょうだい)は、街(まち)へゆきたいということを、おばあさんに話(はな)しますと、おばあさんは、
「おまえたちは、このすももの花(はな)の林(はやし)を世界(せかい)として、生(う)まれてきたのだから、もし、あちらの街(まち)へゆくようなら、みんな、そのすがたでは、ゆかれません。そして、もし、あちらの街(まち)へいってしまえば、お父(とう)さんや、お母(かあ)さんのように、もう二度(ど)とこのすももの花(はな)の国(くに)へ、かえってくることができないかもしれない。よくよくかんがえてからになさい。」といわれました。
 三人(にん)は、気(き)をつけてゆきます。そして、お母(かあ)さんや、お父(とう)さんをさがして、きっとふたたび、この家(うち)へかえってくるから、どうか、やってくださいとたのみました。
「それほどまでにいうなら、三人(にん)の姿(すがた)をかえて街(まち)のほうへ、とんでゆけるようにしてあげよう……。」と、おばあさんはいわれました。おばあさんは、ふしぎな術(じゅつ)を知(し)っていました。それですぐに、いちばん年上(としうえ)の姉(あね)をちょうに、妹(いもうと)を蛾(が)に、末(すえ)の弟(おとうと)をみつばちにしてしまったのです。
「さあ、三人(にん)は、なかよく、たがいにたすけあい、気(き)をつけてとんでおゆき。」と、おばあさんはいわれました。黄色(きいろ)なちょうと、白(しろ)い蛾(が)と、かわいらしいみつばちの、三人(にん)の姉弟(きょうだい)は、白(しろ)いすももの花(はな)の国(くに)からたびだって、あちらの街(まち)のあるほうを指(さ)してとんでいったのです。街(まち)には、公園(こうえん)がありました。また、街(まち)の郊外(こうがい)には、花園(はなぞの)がありました。そして、そこには、かつて見(み)たことのないような、美(うつく)しい花(はな)が咲(さ)き乱(みだ)れいました。
 三人(にん)の姉弟(きょうだい)は、それらの花(はな)を一つ一つおとずれて、美(うつく)しい色(いろ)をながめ、みつをすって、また香(にお)いに酔(よ)いながら、楽(たの)しく、春(はる)ののどかな日(ひ)をおくったのであります。いちばん上(うえ)の姉(ねえ)さんのちょうは、あとの蛾(が)とみつばちにいろいろの注意(ちゅうい)をしました。そして、三人(にん)がはなればなれにならないように、とんだのでありました。三人(にん)は、こうして、たのしい日(ひ)をおくるうちにも、お母(かあ)さんや、お父(とう)さんに、どうかしてめぐりあいたいとおもっていました。また、ふるさとのすももの園(その)とおばあさんのこともわすれることができませんでした。ある日(ひ)の晩方(ばんがた)、美(うつく)しい、花(はな)よりも、もっとみずみずしい赤(あか)い燈火(あかり)を、三人(にん)は目(め)のまえに見(み)ました。
「あすこに、お母(かあ)さんや、お父(とう)さんが、いなされはしないか。」と姉(あね)がいって、三人(にん)はそのほうにとんでいきました。
 その燈火(とうか)の下(した)には、男(おとこ)の子(こ)や、おじいさんや、また、いろいろの人(ひと)たちが、あつまって話(はなし)をしていました。
 しかし、三人(にん)の、お父(とう)さんや、お母(かあ)さんはいないので、引(ひ)き返(かえ)してさらにあちらの花壇(かだん)のほうへいって、やすらかな眠(ねむ)りに、つこうとしました。

――一九二五・二作――

 

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