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戦争はぼくをおとなにした(2)

时间: 2022-11-17    进入日语论坛
核心提示: 美(うつく)しいものには、すぐに飛(と)びついたであろうし、みにくいものは、すべておばけにみえたのでありました。ふたりの子
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 美(うつく)しいものには、すぐに飛(と)びついたであろうし、みにくいものは、すべておばけにみえたのでありました。ふたりの子(こ)どものみずみずしさにくらべて、このおばあさんは、またなんと、暗(くら)く、しなびきって、みじめでありましたでしょう。だれでも、年(とし)をとると、これがしぜんの姿(すがた)であり、この姿(すがた)は、やがてはてしない暗(くら)い方(ほう)へ向(む)かって歩(ある)くものだということをすくなくとも、この子(こ)どもらには、知(し)りようがなかったのです。どこか、森(もり)の中(なか)のお墓(はか)からでも、出(で)てきたおばけのようにしか見(み)えませんでした。
「やあ、おばけが泣(な)いてるぞう。」
「泣(な)いたりして、おかしいな。」
このとき、清吉(せいきち)は、
「こら!」と、遠(とお)くから、どなりました。
「なんで、おばあさんに、悪口(わるくち)をいうのだ!」
かれは、顔(かお)をまっ赤(か)にして、大(おお)きな声(こえ)で、しかると、子(こ)どもは、おどろいて、あちらへ逃(に)げていってしまいました。
おばあさんは、おばけだといわれたのが、くやしいのか、それとも、自分(じぶん)の姿(すがた)が、そんなに見(み)られるのは、もう先(さき)が長(なが)くないからであろうとさとって、悲(かな)しいのか、清吉(せいきち)は、おばあさんの、さめざめとして、泣(な)くありさまを見(み)ただけで、自分(じぶん)までが、罪(つみ)をおかしたように、からだへ冷(つめ)たい水(みず)をかぶるような思(おも)いがしました。
かれは、おとなのこうして泣(な)くのを見(み)る記憶(きおく)が、これで二度(ど)あります。その一つは、おかあさんでした。おかあさんが、あちらの赤(あか)い空(そら)をみながら、自分(じぶん)の家(いえ)が、焼(や)けてしまったといって、しくしくないたときです。それから、もう一つは、いまおばあさんが、こうして、泣(な)くのを見(み)たことです。かれは、おばあさんのそばへ近(ちか)づくのに、勇気(ゆうき)がいりました。
「おばあさん、かんにんしておやり。まだ小(ちい)さいんで、なんにもわからないのだから。」と、清吉(せいきち)は、かろうじていいました。こういっておばあさんを、なぐさめるつもりでした。
けれどおばあさんは、だまって、泣(な)きつづけています。下(した)を向(む)いて、目(め)から、にじみでる涙(なみだ)を、やせた手(て)でふいていました。
「小(ちい)さくて、まだなんにもわからないのだよ。」と、かれは、同(おな)じことをくりかえすより、いうことを知(し)りませんでした。
「わたしも、家(いえ)を焼(や)かれて、身寄(みよ)りはなし、知(し)り合(あ)いのところで、やっかいになっているが、寒(さむ)さのため、持病(じびょう)のリュウマチがでて、お薬(くすり)を買(か)いにいった……。」と、あとの言葉(ことば)は、よくきこえず、また、泣(な)いていました。
清吉(せいきち)に、おばあさんの心持(こころも)ちが、わかるような気(き)がしました。だから、自分(じぶん)の言葉(ことば)に力(ちから)をいれて、さも自信(じしん)ありげに、
「ねえ、おばあさん、おばあさんが、黒(くろ)い頭巾(ずきん)をかぶって、つえをついているので、おばけと思(おも)ったのだよ。きっと、そうだよ。いくら寒(さむ)くても、こっちでは、めったに、頭巾(ずきん)なんかかぶらないから。」
こう、清吉(せいきち)が、いうと、はたして、おばあさんは、胸(むね)のわだかまりがとけたらしく、やっと顔(かお)を上(あ)げました。その顔(かお)には、しわがよって、目(め)は、落(お)ちこんでいましたが、かすかに口(くち)のあたりへ、笑(わら)いをうかべて、
「そうかいな、わしのいなかでは、冬(ふゆ)になると、みんな頭巾(ずきん)をかぶるが。ああ、それで、おばけといったのかいな。」と、力(ちから)のない声(こえ)で、いいました。
「おばあさんきっとそうですよ。だから、かんにんしておやり。」と、清吉(せいきち)は、かれのせいいっぱいのちえをしぼって、なぐさめました。
「そうだったかいな。」と、おばあさんはもう一度(ど)しなびた手(て)で、目(め)のあたりをこすると、ふたたび、つえをつきつき、腰(こし)をまげて、歩(ある)きはじめました。
霜(しも)のとけかけた、ちかちかと光(ひか)る、一筋(ひとすじ)の道(みち)が、はるかかなたの、煙突(えんとつ)や、木立(こだち)の、黒(くろ)い棒(ぼう)きれをたてたごとくかすむ、地平線(ちへいせん)の方(ほう)へとのびていました。おばあさんは、どこまでいくのであろうか。その道(みち)を、だんだんと遠(とお)ざかってしまいました。清吉(せいきち)はぼんやり、一(ひと)ところに立(た)って、そのあわれな影(かげ)を見送(みおく)ったのでした。
「戦争(せんそう)が悪(わる)いのだ!」
かれの口(くち)から、しぜんに、この言葉(ことば)が、ついて出(で)ました。かれは、空想(くうそう)にふけりながらあちこちと、道(みち)を曲(ま)がって歩(ある)くうち、いつしか電車(でんしゃ)の通(とお)る、幅(はば)の広(ひろ)い路(みち)へ出(で)たのでありました。
あの夜(よ)、ここを通(とお)ったのだ、かれは、逃(に)げた日(ひ)のことを思(おも)い出(だ)しました。小(ちい)さな弟(おとうと)を負(お)っている母(はは)に手(て)をひかれて、燃(も)え狂(くる)う、火(ひ)に追(お)われながら、この道(みち)を、通(とお)ったのでした。
やはり、町(まち)から郊外(こうがい)へのがれる、人々(ひとびと)の群(む)れとまじって、逃(に)げたのでした。
「もう、ここまでくれば、だいじょうぶだ。」
小高(こだか)い丘(おか)のようなところへたどりつくと、みんなは、こういって休(やす)みました。
一方(ぽう)では、火(ひ)のむちで打(う)たれて、狂(くる)うように、烈(はげ)しい風(かぜ)が、暗(くら)く、青(あお)ざめた、夜(よる)の空(そら)を苦(くる)しそうな叫(さけ)びをあげて、吹(ふ)いていました。風(かぜ)は、すこしの間(あいだ)、一息(ひといき)いれると、その後(ご)は、かえって、すさまじい勢力(せいりょく)をあらわしました。そのたびに、たんぼのむぎや、まわりにしげる木立(こだち)の枝(えだ)が、いまにもちぎれて、闇(やみ)の中(なか)へさらわれそうにみもだえしたのです。焼(や)けくずれる町(まち)では、花火(はなび)のごとく、火(ひ)の粉(こ)が高(たか)く舞(ま)い上(あ)がり、ぴかりぴかりとして、凱歌(がいか)を上(あ)げるごとく、ほこらしげにおどっていました。

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