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時計のない村(1)

时间: 2022-11-28    进入日语论坛
核心提示:時計のない村小川未明町まちから遠とおく離はなれた田舎いなかのことであります。その村むらには、あまり富とんだものがありませ
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時計のない村

小川未明


町まちから遠とおく離はなれた田舎いなかのことであります。その村むらには、あまり富とんだものがありませんでした。村むらじゅうで、時計とけいが、たった二つぎりしかなかったのです。
長ながい間あいだ、この村むらの人々ひとびとは、時計とかいがなくてすんできました。太陽たいようの上のぼりぐあいを見みて、およその時刻じこくをはかりました。けれど、この文明ぶんめいの世よの中なかに、時計とけいを用もちいなくては話はなしにならぬというので、村むらの中うちでの金持かねもちの一人ひとりが、町まちに出でたときに、その町まちの時計屋とけいやから、一つの時計とけいを求もとめたのであります。
その金持かねもちは、いま、自分じぶんはたくさんの金かねを払はらって、時計とけいを求もとめることを心こころの中うちで誇ほこりとしました。今日きょうから、村むらのものたちは、万事ばんじの集あつまりや、約束やくそくの時間じかんを、この時計とけいによってしなければならぬと思おもったからであります。
「この時計とけいは、狂くるうようなことはないだろうな。」と、金持かねもちは、時計屋とけいやの番頭ばんとうにたずねました。
「けっして、狂くるうようなことはありません。そんなお品しなではございません。」と、番頭ばんとうは答こたえました。
「それなら、安心あんしんだが。」と、金持かねもちは、ほほえみました。
「この店みせの時間じかんは、まちがいがないだろうな。」と、金持かねもちは、またききました。
「けっして、まちがってはいません。標準時ひょうじゅんじに合あわせてございます。」と、番頭ばんとうは答こたえました。
「それなら、安心あんしんだ。」と、金持かねもちは思おもったのであります。
金持かねもちは、買かった時計とけいを大事だいじにして、自分じぶんの村むらへ持もって帰かえりました。
これまで、時計とけいというものを見みなれなかった村むらの人々ひとびとは、毎日まいにちのように、その金持かねもちの家うちへ押おしかけてきました。そして、独ひとりでに動うごく針はりを見みて、不思議ふしぎに思おもいました。また、金持かねもちから時間じかんの見方みかたを教おそわって、彼かれらは、圃はたけにいっても、山やまにいっても、寄よると時計とけいの話はなしをしたのであります。
この村むらに、もう一人ひとり金持かねもちがありました。その男おとこは、村むらのものが、一方ぽうの金持かねもちの家うちにばかり出入でいりするのをねたましく思おもいました。時計とけいがあるばかりに、みんなが、その家うちへゆくのがしゃくにさわったのであります。
「どれ、俺おれも、ひとつ時計とけいを買かってこよう。そうすれば、きっと俺おれのところへもみんながやってくるにちがいない。」と、その男おとこは思おもったのです。
男おとこは、町まちへ出でました。そして、もう一人ひとりの金持かねもちが時計とけいを買かった店みせと、ちがった店みせへゆきました。その店みせも、町まちでの大おおきな時計屋とけいやであったのです。男おとこは、いろいろな形かたちの時計とけいをこの店みせで見みました。なるたけ、珍めずらしいと思おもったのを、男おとこは選えらびました。
「この時計とけいは、狂くるわないだろうか。」と、男おとこは、店みせの番頭ばんとうに問といました。
「そんなことは、けっしてございません。保険付ほけんつきでごさいます。」と、番頭ばんとうは答こたえました。
「その時計とけいの時間じかんは、合あっているだろうか。」と、男おとこはたずねました。
「標準時ひょうじゅんじに合あっています。」と、番頭ばんとうは答こたえました。
「ねじさえかけておけは、いつまでたってもまちがいはないだろうか。」と、男おとこは、念ねんのために問といました。
「この時計とけいは、幾年いくねんたっても、狂くるうようなことはございません。」と、番頭ばんとうは答こたえました。
男おとこは、これを持もって帰かえれば、村むらのものたちが、みんな見みにやってくると思おもって、その時計とけいを買かって大事だいじにして村むりへ帰かえりました。
もう一人ひとりの金持かねもちが、別べつの時計とけいを町まちから買かってきたといううわさが村むらにたつと、はたして、みんながやってきました。
「時計とけいをどうぞ見みせてください。」と、村むらのものたちが、口々くちぐちにいいました。
男おとこは、そういってくるだろうと思おもっていたところへ、みんながやってきましたから、得意とくいになって、
「さあ上あがって見みなさい。なかなか機械きかいのいい時計とけいなんだから、この時間じかんばかりは安心あんしんしていいのだ。」と、男おとこはいいました。
村むらのものたちは、時計とけいの形かたちが変かわっていましたので、
「やあ、これは珍めずらしい。」といって、その時計とけいの前まえに頭あたまを集あつめてほめそやしました。
しかるに、不思議ふしぎなことには、村むらに二つ時計とけいがありましたが、どうしたことか、二つの時計とけいは約やく三十分ぷんばかり時間じかんが違ちがっていました。どちらが違ちがっているのか、だれもそれを知しることができないのであります。
「この時計とけいは狂くるっていない。標準時ひょうじゅんじに合あっているのだ。」と、一人ひとりの金持かねもちがいいますと、
「この時計とけいこそ合あっているのだ。上等じょうとうの機械きかいで、町まちの時計とけいにちゃんと合あわしてきたのだ。」と、他たの金持かねもちがいいました。
二人ふたりの金持かねもちは、たがいに自分じぶんの時計とけいを正ただしいといって譲ゆずりませんでした。ちょうど、二つの時計とけいは厳おごそかなおきてのように、村むらのものは、二つに分わかれて、一方ぽうは、甲こうの金持かねもちの時計とけいを正ただしいといいました。一方ぽうは、乙おつの金持かねもちの時計とけいを正ただしいといいました。
いままで、平和へいわであった村むらが、時計とけいのために、二つに分わかれてしまいました。時計とけいは神かみさまのようになってしまったのです。
「今夜こんや、六時じから集あつまる。」と、いい合あわしても、一方ぽうのものは、乙おつの金持かねもちの時計とけいが六時じになると会場かいじょうに集あつまりましたが、一方ぽうのものは、甲こうの金持かねもちの時計とけいが六時じにならないので集あつまりませんでした。それで、三十分ぷんあまりも、二つの時計とけいの時間じかんが違ちがっていましたから、前まえに集あつまったものは、後あとからきたものに対たいして、待またされた小言こごとをいいました。
「俺おれたちは、ちゃんと六時じにきたのだ。こちらの時計とけいに狂くるいはないはずだ。それは、おまえさんたちの時計とけいがまちがっているからだ。」と、後あとからきたものはいいました。
「いいや、私わたしたちのほうの時計とけいはまちがっていない。おまえさんたちのほうの時計とけいこそまちがっているのだ。」と、前まえに集あつまったものがいいました。
 
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