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どこかに生きながら(2)

时间: 2022-11-28    进入日语论坛
核心提示:いきかけた母ははねこは、ふりむいて、「きょうは、あとから、いいお天気てんきになるよ。また、遊あそんであげましょうね。」と
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いきかけた母ははねこは、ふりむいて、
「きょうは、あとから、いいお天気てんきになるよ。また、遊あそんであげましょうね。」といいました。
この屋根やねの下したには、どういう人ひとたちが、住すんでいるかわからなかったけれど、朝あさと晩ばんには、若わかやかに、元気げんきのある話はなし声ごえや、笑わらい声ごえがし、昼間ひるまは、まったくしんとしているのをみると、若わかい者ものたちは、どこへか働はたらきに通勤つうきんし、老人ろうじんが留守るすをするごとく思おもわれました。たぶん、老人ろうじんは、一人ひとりいるのでしょう、ときどきしゃがれたせき声ごえがきこえ、流ながしもとで水みずを流ながす音おとがしたのでありました。ほかにいたずらをするような子供こどもがいなかったのは、なによりのしあわせでした。
近傍きんぼうにある、高たかいかしの木きの落おち葉ばが、風かぜに飛とんできて、といや、ひさしの奥おくに、たまっていました。おりおり、それらが、龍巻たつまきのごとく、おどり出だすことがありますが、二匹ひきのねこは、ひさしのすみの方ほうで、風かぜをさけながら、それをながめていました。
ある日ひのことでした。太陽たいようのよくあたる屋根やねの上うえで、母ははねこと子こねこが、きげんよく、からかいあって、遊あそんでいました。すると、どこからか、
「やせたお母かあさんの、お乳ちちしかのまないのに、あの子こねこは、よくふとっているのね。」と、いう話はなし声ごえが、きこえてきました。それは、あちらの高たかい窓まどのところで、するのでした。こちらを見みながら、一人ひとりの少女しょうじょが、うしろの妹いもうとにいったのです。無心むしんでいるのを、おびやかしてはならぬと、二人ふたりは、姿すがたをねこに見みられぬようにしていました。少女しょうじょは、手てに持もっていた、パンをちぎりました。とつぜん、なにか音おとがして、ねこのそばへ落おちました。おどろいた母ははねこは、背せを円まるくして、不意ふいの来襲者らいしゅうしゃに備そなえて、身構みがまえをしました。逃にげるより、子供こどもを守まもらなければなりません。四方ほうを見みまわしたけれど、敵てきらしいものの影かげはなく、落おちたのは、なんと香こうばしい、バターのついたパンではありませんか。
「だれが、こんなものを投なげたのだろう。」と、疑うたがいながら、母ははねこは、高たかい窓まどを見上みあげると、姉妹きょうだいの少女しょうじょが、こちらを見みて、笑わらっていました。そのようすで、悪意あくいのないのを悟さとりはしたけれど、なお母ははねこは、油断ゆだんをせず、餌えさに近ちかづこうとしませんでした。
「あげたんだから、お食たべ。」と、少女しょうじょが、安心あんしんさせるように、いいました。子こねこはついに我慢がまんがしきれず、パンに近ちかづきました。母ははねこは、それを許ゆるすごとく、見みていました。そして、自分じぶんは、子供こどもにやるつもりか、食たべようとしませんでした。少女しょうじょが、また、パンをちぎって投なげました。
「こんどは、あんたにあげるのよ。」
母ははねこは、前まえに落おちたのを、はじめて、静しずかに口くちへ入いれたのであります。
冬ふゆの間あいだじゅう、二匹ひきのねこは、このあたりの屋根やねをすみかとし、終日しゅうじつ、日当ひあたりをさがして、歩あるいていました。そのうち、春はるとなるころには、子こねこは、もうだいぶ大おおきくなっていました。
町裏まちうらに、隣組となりぐみの人々ひとびとによって、耕たがやされた田圃たんぼがありました。そこには、黄色きいろの菜なの花はなが咲さいていました。他たの人ひとには、気きを許ゆるさなかった子こねこも、かわいがってくれる少女しょうじょには、なつくようになりました。
そのころ、白しろい雲くものあわただしく走はしる、空そらの下したで、子こねこは、菜なの花はなにとまろうとする、白しろい胡蝶こちょうを葉蔭はかげにかくれて、ねらっていました。こうして、ふたたび、地上ちじょうに降おりても、いままでのように、母ははねこは、後あとを追おおうとせず、なるたけ離はなれて、気きままに遊あそぶ子こねこを見守みまもるというふうでありました。
「もう、じきひとりまえになるのだもの、私わたしは、そうついて歩あるくまい。」と、いわぬばかりに、目めを細ほそくして、子こねこが、うまくちょうをとらえるかどうかと、ながめていました。
これを、またそばから見みていた少女しょうじょは、子こねこのようすが、あまりかわいらしいので、足音あしおとをたてぬよう、うしろへまわり、いきなり抱だき上あげると、ほおずりをしました。母親ははおやは、これも見みていました。そして、このとき、子こねこの行ゆく先さきを見みぬいたのであろうか、「ニャオ。」と、悲かなしそうに、一声ひとこえ高たかくなきました。そして、その声こえを残のこして、どこへとなくいってしまいました。それぎり、母ははねこの姿すがたを、このあたりで、見みなかったのであります。
「お母かあさん、この子こねこを飼かってちょうだい。」と、姉妹きょうだいが、いいはったため、ついにその願ねがいが、かなえられたのでした。
その後ご、子こねこは、雨あめにさらされることもなく、また飢うえのために、眠ねむれぬということもなかったのでした。
「おまえのお母かあさんは、どこへいったでしょう。おまえは、みんなから、かわいがられてしあわせなんだよ。きっと、どこかに、おまえのお母かあさんは、いるでしょうに?」
こう、少女しょうじょは、子こねこに向むかって、いうのでした。たとえ、こうして、向むかい合あっていても、そこには、人間にんげんと動物どうぶつのへだたりがありました。考かんがえ方かたにも、ちがいがあるとみえて、畢竟ひっきょうなにをいっても通つうじなかったのが、少女しょうじょには、悲かなしかったのです。
いよいよ冬ふゆが去さるのか、あらしの吹ふき荒すさんだ夜よるのことでした。風かぜは、空そらから、屋根やねの上うえを吹ふきまくり、窓まどの戸とへつき当あたりました。じっと、耳みみをすました子こねこは、急きゅうにいらいらしだして、へやじゅうを騒さわぎまわり、外そとへ出でようとしました。
「なんだかようすが変へんだから、早はやく出だしておやり。」と、お母かあさんまでが、おっしゃいました。姉あねのほうの少女しょうじょが雨戸あまどを細目ほそめに開あけると、すきまから、烈はげしい風かぜが、内うちへ吹ふき込こみました。
「この風かぜの中なかを、どこへいくの?」と、少女しょうじょが、いいました。子こねこは、闇やみの中なかへ飛とび出だして、さまよいながら、目めに見みえぬ影かげを慕したうごとく、悲かなしい声こえで、なきつづけました。
「ああ、きっと、母ははねこのことを思おもい出だしたのだわ。」と、姉あねと妹いもうとは、顔かおを見合みあわせました。
あの屋根やねから、屋根やねを、子供こどもをつれて歩あるいていた、やせた母ははねこの姿すがたが、二人ふたりの目めにはっきりと浮うかびました。
子こねこは、遠とおくの方ほうまで、母ははを捜さがしにいったとみえ、風かぜのとぎれに、そのなく声こえが、かすかにきかれました。かつて、寒さむい、寒さむい、木枯こがらしの吹ふく夜よる、そして、霜しものしんしんと降ふる夜明よあけ方がた、母ははねこに抱だかれて、安やすらかに眠ねむった、なつかしい記憶きおくが、はしなくも風かぜの音おとによって、思おもい起おこさせられたのでありましょう。
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