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とびよ鳴け(2)

时间: 2022-11-28    进入日语论坛
核心提示:「いっしょに戦たたかって、いっしょに死しにたいものだ。」と、徳蔵とくぞうさんに、いいました。もとより温あたたかな、誠まこ
(单词翻译:双击或拖选)
 
「いっしょに戦たたかって、いっしょに死しにたいものだ。」と、徳蔵とくぞうさんに、いいました。もとより温あたたかな、誠まことの情なさけを持もった徳蔵とくぞうさんですから、
「ほんとうに、そうしよう。」と、いって、その兵隊へいたいさんの手てを、堅かたく握にぎったのであります。
上陸じょうりくすると、すぐに、彼かれの部隊ぶたいは、前線ぜんせんに出動しゅつどうを命めいぜられました。そこでは、激はげしい戦闘せんとうが開始かいしされた。大砲たいほうの音おとは山野さんやを圧あっし、銃弾じゅうだんは、一本ぽん残のこさず草くさを飛とばして雨あめのごとく降ふり注そそいだ。そして、最後さいごは、火花ひばなを散ちらす、突撃戦とつげきせんでありました。敵てきを散々さんざんのめにあわして潰走かいそうさしたが、こちらにも多おおくの死傷者ししょうしゃを出だしました。戦闘せんとうの後あとで、徳蔵とくぞうさんは、あの兵士へいしは、無事ぶじだったかと見みて歩あるきました。けれど、その姿すがたが、見みつかりませんでした。
「やられたか、それとも傷きずを負おって倒たおれてはいないか?」と、戦場せんじょうの跡あとを敵てきの屍かばねを越こえて、探さがして歩あるきました。すると、その兵隊へいたいさんが、やぶの中なかに倒たおれているのを見みいだしたのです。けれど、そのときは、すでに息いきが絶たえかかっていました。
「おい、しっかりせい。おれだ! いっしょに死しぬ約束やくそくをしたのに、先さきにいったな。よし、かならず敵かたきを打うってやるぞ。おれも、花々はなばなしく戦たたかって、じきに後あとからいくから待まっていろ。」と、徳蔵とくぞうさんは戦友せんゆうの死体したいを抱いだき起おこして、涙なみだを落おとしたのです。
その後のちのこと、我わが軍ぐんは、河かわをはさんで敵てきと対峙たいじしたのでした。その結果けっか、敵前上陸てきぜんじょうりくを決行けっこうしなければならなかった。なにしろ、敵てきはトーチカに閉とじこもり、機関銃きかんじゅうを乱射らんしゃして、頑強がんきょうに抵抗ていこうするのです。ついに、決死隊けっしたいが募つのられました。我先われさきにと申もうし出でたので、たちまちの間あいだに定員ていいんに達たっしたのです。この人ひとたちは、全軍ぜんぐんのために犠牲ぎせいとなるのを名誉めいよと思おもって、喜よろこび勇いさんですぐ仕度したくにとりかかりました。
このとき、蒼白あおじろい顔かおをして、一人ひとりの兵士へいしが、部隊長ぶたいちょうの前まえへ進すすみ出でて、自分じぶんもぜひこの中なかに加くわえてくださいといったのです。それは、徳蔵とくぞうさんでした。
「後あとから、おまえ一人ひとりを入いれると、ほかのものの申もうし出でも許ゆるさなくてはならぬ。」と部隊長ぶたいちょうは、言葉ことばにそういいながら、いずれ劣おとらぬ忠勇ちゅうゆう決死けっしの、我わが兵士へいしの精神せいしんに感心かんしんしました。だが、徳蔵とくぞうさんの熱心ねっしんは、その一言ひとことで翻ひるがえされるものではありません。戦死せんしした友ともとの誓ちかいを告つげたので、ついに部隊長ぶたいちょうも許ゆるしたのでした。
決死隊けっしたいが、敵てきに飛とび入いると、敵てきはそれを目めがけて、弾丸たまを集中しゅうちゅうしました。河かわの中なかほどまで達たっするころには、人数にんずうが目めに見みえて減へっていました。陸りくまで、もう一息ひといきというところで、無念むねんにも弾丸たまを受うけて、徳蔵とくぞうさんは、
「天皇陛下てんのうへいか 万歳ばんざい!」と叫さけぶとともに、水みずを紅あけに染そめて見みえなくなったのでした。
辰たつ一は「殉国じゅんこく英霊えいれいの家いえ」と、立たて札ふだのしてある家いえの前まえを通とおるたびに、目めに熱あつい涙なみだをためて、丁寧ていねいに頭あたまを下さげました。
「どうしても、あの自転車じてんしゃを買かうのだ。あと、一週間しゅうかんばかり、売うれなければいいが。」
ある日ひ、自転車屋じてんしゃやの前まえへいってみると、その自転車じてんしゃが見みえなかった。辰たつ一は、びっくりして、おじさんにきいてみると、昨日きのう売うれたというのです。
「なに、あれくらいの車くるまなら、また出でますよ。」と、なにも知しらない自転車屋じてんしゃやのおじさんは、力ちからを落おとしている辰たつ一を見みて、そういったのでありました。
その後ごのことです。辰たつ一は、お友ともだちと、キャッチボールをやっていて、ふと戦死せんしした徳蔵とくぞうさんのことを思おもい出だすと、急きゅうに目頭めがしらが熱あつくなりました。
「僕ぼくを自転車じてんしゃにのせて、この原はらっぱを走はしってくれたことがあったなあ。」と、いろんなことが、心こころに浮うかんでくるのです。
「あの自転車じてんしゃはだれが買かったろうか。たしか、七円えんと札ふだがついていたが、惜おしいことをした。お父とうさんが自分じぶんの働はたらいた金かねで買かってもいいといったのに。」
彼かれの投なげる球たまがだんだん熱ねつを持もってくるのでした。
「辰たっちゃん、すげえ球たまを出だすなあ。」
見みている友ともだちまでが、目めをみはって、いいました。その球たまを受うけ取とる勇吉ゆうきちも、顔かおを赤あかくして、額ひたいに汗あせばんでいました。強つよい球たまで、なかなか骨ほねがおれるからです。
「君きみ、いい球たまを出だすね。しっかり勉強べんきょうすると、ピッチャーになれるぜ。」
さっきから、そばで見みていた、角帽かくぼうを被かぶった学生がくせいらしい青年せいねんが、いいました。
辰たつ一は、ほめられたので、ちょっとはずかしかったのです。
「僕ぼくら、毎日曜まいにちようの午後ごごから××の空あき地ちで、けいこをしているから、君きみもぜひやってきたまえ。そのうちにこの方面ほうめんのものだけで、チームを作つくろうと思おもっているのだ。」と、青年せいねんは、辰たつ一にいったのであります。
辰たつ一は、そういわれると、なにか急きゅうに明あかるく、力ちからづけられたような気持きもちがしました。
(ほんとうかしらん、おれは、ピッチャーになれるだろうか。)
「ありがとう。」といって、辰たつ一は、青年せいねんに頭あたまを下さげました。そうだ、おれは、徳蔵とくぞうさんのことを考かんがえればいつだって気持きもちがしゃんとして、どんないい球たまでも出だしてみせるぞと、心こころに叫さけんだのです。
十二月がつの日曜日にちようびでした。風かぜのない静しずかなお天気てんきであります。辰たつ一は、午後ごごから、××の空あき地ちへいってみようと思おもいました。
「あの学生がくせいさんは、きょうも野球やきゅうをやっているかな。」
自分じぶんの住すむ町まちから、だいぶそこまで離はなれていました。空あき地ちへいくと、今度こんど広ひろい道路どうろが通とおるので、多数たすうの家屋かおくが取とりはらわれた跡あとでありました。
あたりを見みると、まだ半分はんぶん壊こわされたままになって、土台どだいのあらわれている家いえもあったし、すでに、一方ぽうの端はしでは、新あたらしく建築けんちくにかかった家いえもあります。見みわたすかぎりの広場ひろばの中なかは、いろいろの風景ふうけいが雑然ざつぜんとして見みられました。

辰たつ一は、胸むねの底そこからこみ上あげてくる感激かんげきを、どうすることもできなくて叫さけびました。
 
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