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とびよ鳴け(3)

时间: 2022-11-28    进入日语论坛
核心提示:こちらには、土管どかんや、人造石じんぞうせきが積つまれているし、またあちらには、起重機きじゅうきが置おいてありました。と
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こちらには、土管どかんや、人造石じんぞうせきが積つまれているし、またあちらには、起重機きじゅうきが置おいてありました。ところどころ木立こだちがあって、頭あたまの上うえを青あおい空そらが拡ひろがっていました。都会とかいでこんなにはるかな地平線ちへいせんの見みえるのは、珍めずらしいことです。
遠とおい煙突えんとつからは、黒くろい煙けむりが、上あがっていました。ちょうど、海うみをいく汽船きせんの煙けむりのようにも思おもわれました。あちらでも、こちらでも、町まちの子供こどもたちが、たこを上あげて遊あそんでいます。風かぜがないせいか、高たかく上あがっているたこがありません。そして、工夫こうふたちも、今日きょうは仕事しごとが休やすみなのか、地平機じならしきが投なげ出だされたままになっています。
「だれも、野球やきゅうをやっていないが、どうしたんだろう。」と、辰たつ一は、がっかりしたが、年末ねんまつであるので、なにか都合つごうがあってこられなかったのだろうと思おもいました。
ここからは駅えきが近ちかく、絶たえず電車でんしゃや、汽車きしゃの笛ふえの音おとがしていました。そして、停車場ていしゃばのあたりは、にぎやかな町まちでありました。辰たつ一は、暮くれの街まちの景色けしきを見物けんぶつして帰かえろうと思おもいました。
ガードをくぐると、そこだけは、一日にちじゅう日蔭ひかげで、寒気かんきがきびしく、肌はだを刺さしました。暗やみを照てらす電燈でんとうの光ひかりは、うす濁にごってぼうっとかすんでいます。出口でぐちの煉瓦れんがの壁かべに、出でかせぎ人夫にんぷ募集ぼしゅうのビラが貼はられていました。生活せいかつのために、未知みちの土地とちへいく人ひとのことを考かんがえると、なんとなく、胸むねをしめつけられるような気きがしました。
「健康けんこうであれば、どこへいっても生活せいかつができる。」と、学校がっこうの先生せんせいのおっしゃった言葉ことばが浮うかんできました。
さすがに戦時せんじであって、町まちは、いつもの暮くれとちがい、べつに飾かざりもなくてさびしかったのです。それでも歳末さいまつの気分きぶんだけは、どこにかただよっていました。アスファルトの道みちを人々ひとびとが忙いそがしそうに往来おうらいしています。くつの音おととげたの音おとが、入いりまじって耳みみにひびきました。
露店ろてんが、連つらなっていました。その一つには、ヒョットコ、きつね、おかめ、などの人形にんぎょうがむしろの上うえへ並ならべてありました。それを商あきなうおばあさんは、日ひがほこほこと背中せなかに当あたっているので、いい気持きもちで居眠いねむりをしていました。また、この寒さむいのに、どこから持もってきたものか、ふな、なまず、雑魚ざこなどの生いきたのを売うっている男おとこがありました。これらの川魚かわざかなは、底そこの浅あさいたらいの中なかに、半分はんぶん白しろい腹はらを見みせて、呼吸こきゅうをしていました。その隣となりでは、甘あまぐりを大おおなべで炒いっていました。四よつ辻つじのところへ出でると、雑沓ざっとうの中なかで、千人針にんばりを頼たのんでいる女おんながありました。通とおる女おんなの人々ひとびとが、そのそばに足あしを止とめていました。
「もう、お正月しょうがつがくるのに、出征しゅっせいする兵隊へいたいさんがあるんだな。」
辰たつ一は、感慨深かんがいぶかく思おもいました。戦地せんちへいく人ひとのことを考かんがえると、じっとしていられないような気きがしました。
このとき、突然とつぜん軍歌ぐんかの声こえが、停車場ていしゃばの方ほうにあたってきかれたのでした。彼かれは、はじかれたように、群衆ぐんしゅうから抜ぬけ出でて、急いそぎ足あしで、その声こえのする方ほうへと向むかったのです。国防婦人こくぼうふじんの制服せいふくを着きた人ひとたちが、小ちいさな日ひの丸まるの旗はたを振ふって、調子ちょうしを合あわせて歌うたっていました。戦闘帽せんとうぼうを被かぶった青年せいねんが、元気げんきいっぱいに大おおきな声こえで、音頭おんどを取とっていました。
紅あかいたすきをかけた、出征兵しゅっせいへいは、正ただしく、つつましく、立たって、みんなの厚意こういに感謝かんしゃしていました。それは、徳蔵とくぞうさんが、送おくられたときの姿すがたを思おもい出ださせます。まったく同おなじでありました。徳蔵とくぞうさんはこうして送おくられていったが、それぎり帰かえってこなかったのです。
そう考かんがえると、熱あつい涙なみだが、目めの中なかからわいてきました。いつのまにか、この人ひとと徳蔵とくぞうさんとが、同おなじ人ひとになってしまって、限かぎりない悲壮ひそうな感かんじが抱いだかれたのであります。
辰たつ一は、のども破やぶれよとばかりに、大声おおごえを上あげて、万歳ばんざいを三みたび唱となえたのでした。
彼かれは、帰かえりに、もう一度ど空あき地ちへ立たち寄よってみました。先刻さっきたこを上あげていた子供こどもたちは、どこへいったか、姿すがたが見みえなかったのです。寒さむい風かぜが、荒涼こうりょうとした広場ひろばを吹ふいていました。辰たつ一は、支那しなの戦場せんじょうの景色けしきを空想くうそうしました。また戦死せんしした徳蔵とくぞうさんを思おもい出だしました。
足あしもとの瓦かわらの破片かけらを拾ひろい上あげると、力ちからいっぱい大空おおぞらに向むかって投なげました。
高たかい、高たかい空そらに、とびが、町まちを見下みおろしながら舞まっていました。
自分じぶんが少年飛行家しょうねんひこうかであったら、飛行機ひこうきに乗のって、ああやって敵軍てきぐんを爆撃ばくげきするのだ。
「とび、とび! 大おおきな声こえで鳴ないてくれ!」
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