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波荒くとも(3)

时间: 2022-11-29    进入日语论坛
核心提示:三みつ子こは、歩あるきながら、自分じぶんの弟おとうとのことを思おもい出だしていました。ちょうど年としごろもあの小僧こぞう
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三


みつ子こは、歩あるきながら、自分じぶんの弟おとうとのことを思おもい出だしていました。ちょうど年としごろもあの小僧こぞうさんと同おなじくらいです。雪ゆきまじりの北風きたかぜの吹ふきつける窓まどの下したで、弟おとうとは父親ちちおやのそばでわらじを造つくったり、なわをなったりしているであろう。下したを向むいて、だまっている父親ちちおやは、
「すこし休やすめや。」と、ときどき顔かおを上あげていうであろう。そして、炉ろに枯かれ枝えだや、松まつの落おち葉ばなどを入いれるであろう。しばらく、青あおい、香かおりのする煙けむりが、もくもくとしているが、そのうちにぱっと火ひが燃もえついて、へやのすみまで明あかくなる。遠とおくで、からすの鳴なき声ごえがする。弟おとうとは、自分じぶんから送おくった少年雑誌しょうねんざっしを出だして、さも、大事だいじにして楽たのしそうにして開ひらいて見みる。弟おとうとは、めずらしい写真しゃしんに見入みいったり、また書かいてあるおもしろそうな記事きじに、心こころを奪うばわれて、いろいろの空想くうそうにふけるであろうと思おもったのでした。
「あの小僧こぞうさんは、あれからどうなったろう。」と、彼女かのじょは、一日にち仕事しごとをしながらも思おもっていました。
そのうちに日ひが暮くれて、その日ひの用事ようじが終おわると、彼女かのじょは、自分じぶんのへやへ入はいって、このあいだ、弟おとうとの清二せいじからきた手紙てがみを出だしてなつかしそうに、また読よみ返かえしていたのです。
「姉ねえさん、僕ぼく、雪ゆきの消きえるのを待まっているんだよ。そうしたら今年ことしはお父とうさんと裏うらのかや山やまを開墾かいこんして、畑はたけを造つくるのだ。枯かれ草くさに火ひをつけてたいたり、根ねを掘ほり起おこしたりするのが、いまから楽たのしみなんだ。そして、兄にいさんが、凱旋がいせんしていらっしゃるまでに豆まめをまいたり、芋いもを作つくったりしておいて、兄にいさんをびっくりさせるんだ。なぜなら、兄にいさんだって、あのかや山やまには、ちょっと手てがつけられなかったのだからな。姉ねえさん、僕ぼくは、満洲まんしゅうへでも、どこへでもいけるよ。僕ぼくがいくときは、隣となりの徳とくちゃんも、いっしょにいくというんだ。二人ふたりでなら、うちのお父とおさんも許ゆるしてくださると思おもっている。姉ねえさん、なにか満洲まんしゅうのことを書かいた本ほんがあったら、どうか送おくってください。僕ぼく、とても見みたいのだから……。」と、書かいてありました。
みつ子こは、いつも弟おとうとの元気げんきでいるのをうれしく思おもいました。そして、たえず希望きぼうにもえているのをなんとなくいじらしく思おもいました。しかし、これからの世よの中なかへ出でて、ひとり立だちしていくには、どこにいても、今朝けさの小僧こぞうさんのように辛つらいめにもあうことがあるだろう……。そして、それに打うち勝かっていかなければならぬのだと思おもうと、また、心こころの中なかが暗くらくなるのでした。
「どうぞ、神かみさま、小ちいさな弟おとうとや、弟おとうとのような少年しょうねんをば助たすけてやってください。」と、みつ子こは、へやの中なかでしばらく瞑目めいもくして合掌がっしょうしていたのであります。
翌日よくじつ、みつ子こは、用達ようたしの帰かえりに、わざわざ交番こうばんへ立たち寄よりました。小僧こぞうさんのようすを聞ききたかったからです。やはり病気びょうきをがまんして、重おもい荷にを負おって出でたためにたおれたのだということでした。そして、小僧こぞうさんは、主人しゅじんを呼よび出だして引ひきわたされたというのであります。
「小ちいさくて、家いえのため、親おやのために働はたらくような子供こどもは、みんな感心かんしんな子供こどもだから、よくめんどうをみて、しんせつにしてやらなければならぬと、主人しゅじんにいいわたした。」と、巡査おまわりさんは、いわれました。
「ほんとうに、そうです。」と、みつ子こは、深ふかく感かんじたので、丁寧ていねいに頭あたまを下さげて、交番こうばんを出でましたが、道みちを歩あるきながら、もし、その主人しゅじんというのが、薄情はくじょうで、もののわからぬ人物じんぶつであったらどうであろう。自分じぶんのしかられたことを恨うらみにもって、かえって哀あわれな小僧こぞうさんをいじめはしないかしらと考かんがえると、やさしいみつ子この心こころにはまた新あたらしい心配しんぱいが、生しょうじたのでした。
「そんなことはないわ。そんなことがあれば、またしかられるでしょう。きっと、主人しゅじんは、ああ自分じぶんが悪わるかった、不注意ふちゅういだったとさとって、これから、あの小僧こぞうさんや、ほかの小僧こぞうさんたちをかわいがるにちがいない。みんな日本人にっぽんじんですもの……。」
彼女かのじょは、自分じぶんの心配しんぱいが、つまらない心配しんぱいであることを知しったのであります。
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