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第六卷 第二話 焼きおにぎり 1

时间: 2024-03-05    进入日语论坛
核心提示:  1  七年ぶりにJR京都駅に降り立った三み橋はし秀しゅう一いちは、慣れた足取りで新幹線の東乗換口から地下へ降り、地下
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  七年ぶりにJR京都駅に降り立った三み橋はし秀しゅう一いちは、慣れた足取りで新幹線の東乗換口から地下へ降り、地下東口から改札を出た。
  紅葉のシーズンにはまだ早いのだが、それでも多くの人がコンコースを行き来している。七年前に比べると、ずいぶん外国人観光客が増えたようで、大きなキャリーバッグを転がすアジア人の姿が目立つ。三橋が学生生活を送った半世紀ほど前には、考えられなかった光景だ。
  水道橋の三橋の研究室から直行したこともあって、旅行者らしくない出いで立たちだ。
  小ぶりのボストンバッグを手にして、グレーのスーツ姿で歩く三橋は、周囲から見れば異質な存在に映っているかもしれない。
  思い立ったが吉日とばかり、新幹線に飛び乗ってから、京都へ行くことを妻にメールで伝えた。若いころから衝動的に旅をすることが多かったせいか、大して驚くふうもなく、妻の秋あき子こは「わかりました」とだけ短い返事をしてきた。なぜ、だとか、何をしに、などとは一切訊きかない。さもそれが当たり前だと言わんばかりのメールに、三橋は苦笑するしかなかった。
  地下通路を真っすぐ北に歩けば七条通に行き当たるはずだ。七年前に訪れた京都では『東本願寺』へ参拝したこともあり、その道筋はしっかりと記憶に残っている。
  京都駅から離れるにつれて、店舗もない地下通路は人通りが少なくなり、突き当たるころには三橋の耳に入るのは自分の足音だけになった。
  突き当たって地上に出る通路は左右ふたつに分かれている。しばらく迷っていた三橋は右側を選び、階段をゆっくり上がっていった。
  七条通をわたり、左手に『東本願寺』を見ながら北へ歩く。ふた筋目の正面通を東に曲がる。三橋は頭のなかにある地図のとおりに歩いて、目当ての店を捜した。
  たった七年だが、街の様子は様変わりしている。
  「この辺りに食堂があったはずだが」
  ひとりごちて三橋が見まわすと、自転車のブレーキ音が響き、サドルにまたがったまま、若い女性が声を掛けてきた。
  「どこか捜してはるんですか?」
  「たしかこの辺に食堂があったと思うのですが」三橋は正面通の右側を見ながら首をかしげた。
  「ひょっとしたら『第だい矢や食堂』さんのことと違います?」「ああ、そんな名前だった気がする。おばあさんがひとりでやっていて、きつねうどんがとても美お味いしかったんだよ」
  「それやったら第矢さんに間違いないわ。もうお店は閉めてしまわはったんですよ。そこに碑が建ってますやろ」
  自転車のスタンドを立て、屈かがみこんだ女性が小さな石碑を指さした。
  「たしかに書いてありますね。第矢食堂跡地。さすが京都。食堂の跡にまで石碑が建つんだ」
  女性の隣に三橋が屈んだ。
  「それだけファンが多かったていうことですやろね。同業者としてはうらやましい限りですわ」
  女性が立ちあがった。
  「同業者ということは、あなたも飲食業をなさっているんですね。店はお近くですか?」白いシャツに黒いパンツをはいて、黒のソムリエエプロンを着けた女性に三橋が訊いた。
  「すぐそこで食堂をやってますねん」
  女性はサドルにまたがった。
  「ひょっとして『鴨川食堂』のかたですか?」地べたに置いたボストンバッグを持って、三橋が女性に顔を向けた。
  「うちの店のことを知ってはるんですか」
  高い声をあげた女性はまた自転車を降りた。
  「これから伺おうと思っていたところなんです」三橋はボストンバッグから名刺入れを取りだして女性に名刺を渡した。
  「なんや、三橋さんやったんですか。もっとお年寄りやと思うてました。うちは鴨川探偵事務所の所長の鴨川こいしです。どうぞよろしゅうに」こいしは名刺を両手に持ったまま、深く腰を折った。
  「お会いできてよかった。どうやってお店を捜そうかと思案していたところなんです。見つからなかったらどうしようかと」
  三橋の言葉はまんざら噓うそではなかった。
  思い出の食を捜そうとして、ふと目に入ったのは「料りょう理り春しゅん秋じゅう」なる雑誌の〈食捜します〉の一行広告。これだとばかり、伝つ手てを辿たどって、雑誌の編集長経由で連絡は取れたものの、場所は不確かなままで京都に来てしまった。三橋はてっきり『第矢食堂』が『鴨川食堂』だと思い込んでいたのだ。
  「茜あかねさんからは、ノーベル賞を取らはるかもしれん偉い学者さんやて聞いてたんですけど、うちに来はる保険屋さんによう似てはるわ」言葉にしてから、しまったと思ったのか、こいしはあわてて口元を両手で押さえた。
  偶然出会った「料理春秋」の編集長、大だい道どう寺じ茜とは飲み友達だが、三橋が雑誌を読むことはめったにない。たまたま手に取ったバックナンバーで『鴨川探偵事務所』の広告を見つけ、すぐに茜に問い合わせたのだった。
  「ホテルのワインバーで知り合いになったんですが、茜さんはいつも大げさなんですよ。
  ノーベル賞なんてとんでもない。中学校の皆勤賞以来、賞とは縁のない人生を歩んできましたから」
  三橋は、自転車を押すこいしと並んで歩いた。
  「候補に上がるだけでもすごいことなんやて、茜さんからは聞いてます。うちらにはまったく分からへん、難しい世界のことやと思いますねんけど」両手でハンドルを持ち、ゆっくりと自転車を押すこいしが振り向いた。
  「簡単なことをいかに難しくするか、なんていうくだらない学会には辟へき易えきしているのですよ。一生、賞とは無縁で過ごしたいものです」「うちのお父ちゃんがいっつも言うてます。ほんまにすごい人は、さりげのう、やってのけはる、て」
  こいしの声は心地よく耳に響いたが、三橋は何も言葉を返さなかった。
  父と娘に見えなくもないが、歳としの離れたカップルにも見える。自転車を押して歩くこいしを横目で見て、三橋ははにかみながら『鴨川食堂』の前に立った。
  「狭い店ですけど、どうぞお入りください」
  「おじゃまします」
  なかを覗のぞきながら三橋が敷居をまたいだ。
  「ようこそ。なんや、こいしも一緒やったんか」和帽子を脱いで、作さ務む衣え姿の男性が三橋に一礼したあと、こいしに目を向けた。
  「『鴨川食堂』の主人をしてるお父ちゃん、鴨川流です」こいしが流を三橋に紹介した。
  「三橋秀一さん、でしたな。話は茜から聞いとります。まぁ、どうぞお掛けください」流が赤いビニール張りのパイプ椅子を奨すすめた。
  「三橋です。わたしも、茜さんから鴨川さんのお話はよく聞いております」床にボストンバッグを置いて、三橋がパイプ椅子に腰かけた。
  「お腹なかの具合はどないです。いちおうご用意はしとるんですが」バッグを三橋の隣の椅子に置いてから、流は帽子をかぶり直した。
  「是非お願いします。茜さんからも、お腹を空すかせて行ったほうがいい、と奨められましたので」
  三橋は上着を脱いでパイプ椅子の背に掛けようとした。
  「お掛けしときます。こんな店ですけどコート掛けだけはありますねん」こいしが三橋の上着をハンガーに掛けた。
  「ほな、ちょっと用意してきますんで。そうそう。ワインがお好きやて茜から聞いてますさかい、ちょこっと準備しときました。よかったら」厨ちゅう房ぼうとの境に掛かる暖の簾れんをくぐって、流がこいしに目で合図をした。
  「ワイン通のかたのお口に合うかどうか自信ないんですけど、白と赤とどっちがよろしいやろ」
  こいしが二本のボトルを三橋に見せた。
  「また茜さんが大げさにおっしゃったのかもしれませんが、わたしはワイン通でもなんでもありません。ただの飲のん兵べ衛えでワインが好きだというだけです」ボストンバッグから眼鏡ケースを取りだした三橋は、ボトルを手にして眼鏡を掛けた。
  「お父ちゃんは最近、日本のワインに凝ってはりますねん。ワインのことはさっぱり分からへんうちでも、このワインは美味しいと思いますわ」うしろに立つこいしが、三橋の手元を覗きこんだ。
  「『リュナリス』と『ソラリス』。名前もいいですな。どちらもまだ飲んだことはないのですが太陽のほうにします」
  三橋が赤ワインをこいしに渡した。
  「うちはワインセラーもありませんし常温ですねんけど、このままでよろしい? それともちょっと冷やしましょか?」
  「そのままでけっこうです」
  「グラスを持ってきますんで、ちょっと待っててください」ワインボトルを手に、厨房へ入っていったこいしの背中を見送って、三橋は店のなかをゆっくりと見まわした。
  店仕舞いしたという『第矢食堂』もこんなふうだった。
  庶民的という言葉がよく似合うが、美味しいものが食べられる店に共通する、穏やかな空気が流れている。しかめっ面をして料理と格闘するような食通は決して訪れないだろう。かと言って、腹におさまればなんでもいい、というような客も来ない。
  五十年ほども前に下宿していた、大家の台所を思いだし、三橋は目を細めて神棚を見上げた。
  「ちゃんとしたワイングラスを買わんとあかんな、ていっつもお父ちゃんと言うてるんですけど、つい忘れてしもうて。こんな安もんですんません」「いえいえ、これで充分ですよ。きれいに磨いてもらって」三橋がグラスのステムを指ではさんで、くるりと回した。
  「お注つぎしてよろしい?」
  「ありがとう」
  緊張した面持ちでボトルを傾けるこいしの横顔を見て、三橋が頰をゆるめた。
  「そんなにかたくならなくてもいいですよ」
  「慎重に注がんとお父ちゃんに られますねん」ボトルをテーブルに置いて、こいしがホッとしたように小さく息を吐いた。
  「どんなことでも、ていねいにせなあかん。そう言うてるだけや。うるさいァ′ジやと思われるやないか」
  大皿を両手に抱えて、流が目で置き場所をたしかめている。
  「なんだかすごいものが登場しましたな。最近はめっきり小食になってしまったので、残したりすると申しわけないのですが」
  「たいした量やおへん。品数が多いさかい、ようけに見えるかもしれまへんけど」山水画が描かれた伊い万ま里り焼の大皿を三橋の前に置いて、流はワイングラスをその横に置きなおした。
  「聞きしにまさる、とはこのことでしょうか。茜さんから聞いてはいましたが、まさか食堂でこんな料理が出てくるとは」
  皿の上を見まわして、三橋が目を輝かせた。
  「料理の説明をさせてもらいます。左の上は松まつ茸たけの牛肉巻きです。塩がしてありますさかい、酢す橘だちを絞って食べてください。その右は干し柿。間にチーズを挟んであります。右端は殻付きの牡か蠣き。軽ぅ燻くん製せいにしてます。ライムを絞ってもろても、そのままでも。その下は鶏とりの胸肉のビール揚げ。さつま芋のチップと一緒にタルタルソースをつけて召しあがってください。和風フィッシュアンドチップスていう感じですわ。その左は浅あさ葱つきを巻いた鯛たいの昆こ布ぶ〆じめです。ポン酢のジュレを上に載せてます。左端は小芋の柚ゆ子ず味み噌そまぶし。一味を振ってもろても美味しおす。その下の小鉢は秋あき茄な子すと鴨ロースの揚げ煮。辛子がよう合います。その右は秋あき鯖さばの小こ袖そで寿ず司し。背の青いとこだけ焙あぶってます。酢飯に醬しょう油ゆを混ぜ込んでますんで、そのまま食べてください。右端は鮑あわびのワイン蒸し。柚子胡こ椒しょうをちょびっとつけてもらうと、味に変化がでて愉たのしおす」料理の説明をする流に、三橋は何度もうなずきながら、つばを飲み込んでいる。
  「どうぞゆっくり召しあがってください。秋さ刀ん魚まの炊きこみご飯を用意してますんで、適当なとこでお声を掛けてください」
  「お茶が要るようやったら言うてくださいね」言い置いて、流とこいしは厨房に戻っていった。
  ひとり残った三橋は、ワインで喉を潤したあと、利休箸を割って干し柿に伸ばした。
  「いいワインだ。干し柿との相性も抜群だな」食べながらひとりごちるのは三橋のクセだ。結婚当初はいぶかっていた妻も、今では同じようなことをしている。会話ではなく、ふたり別々のことを言っているのに、時おり顔を見合わせて苦笑いするありさまである。
  「ほう。鶏でフィッシュアンドチップスか。なかなか旨うまそうじゃないか」茶色く揚がった鶏肉を指でつまんだ三橋は、ぽいと口に放りこんだ。
  「魚よりこっちのほうがいいかもしれん」
  ワイングラスを傾けながら、三橋は次々と料理に箸を伸ばした。
  いつもより飲むピッチが速いことに気付き、箸とグラスを置いて、あらためてワインボトルを手に取った。
  「『ソラリス ユヴェンタ?ルージュ』。メルローを使っているのか。それにしても飲みやすいワインだな。すぐに一本空いてしまいそうだ」しげしげとラベルを見た三橋は、ボトルをもとの位置に戻し、あらためて大皿を見まわした。
  まさに秋のご馳ち走そう尽しだ。京都の大学を卒業して、すぐに東京に出たものの、しばらくは食うや食わずの暮らしが続いた。運よく東都国際大学の教員として勤め始めた三十歳まで、こんなご馳走とはまったく無縁だった。
  島根県の浜田にある実家へ帰省するたびに、東京土産を持ち帰ったが、両親ともに、バチが当たると言って、仏壇に供えてからしか口にしなかった。銀座の鮨すし屋でこしらえてもらった折詰を、夜行列車で持ち帰ったときなどは、傷むからすぐに食べるよう奨めたが、ご先祖さまが先だと言って頑かたくなに拒んだせいで、結局傷ませてしまったのも苦い思い出だ。
  秋鯖の小袖寿司を指でつまみ、口にぽいと放りこんだ三橋は天井を見上げた。
  お金がなかったせいでもあるが、若いころは空腹さえ満たせれば、どんな食事でもよかった。それではいけない。そう教えてくれたのは下宿先の大家だった。お金のあるなしにかかわらず、どうせ食べるならできるだけ美味しいものを。そう願うことが大事なのだと教わった。
  七十を超えて、そろそろ終活に入らねばとなって、気がかりなことはただひとつ。
  「どないです。お口に合おうてますかいな」
  厨房から出てきた流の声で我に返った。
  「美味しくちょうだいしております。美味しすぎて、肝心のことを忘れてしまいそうです」
  「よろしおした。ご飯もそろそろ炊き上がりますんで、いつでもお声を掛けてください」「ありがとうございます。美人探偵さんにお待ちいただいているのではありませんか?」三橋が厨房に向けて首を伸ばした。
  「娘のほうもいつでもええように準備しとりますけど、急せいてもらうような話やおへん。ゆっくり召しあがってください」
  「歳をとると何ごともスローペースになっていけませんな。若いお嬢さんを長いあいだお待たせして申しわけありません。ご飯のほうもすぐにいただきますので」「なんや、急かしたみたいですんまへんなぁ。ご飯とお汁つゆをお持ちしますけど、ほんまに急ぎまへんのやで」
  念を押してから、流が厨房に戻っていった。
  殻付きの牡蠣、鮑のワイン蒸しと、急いで口に入れながら、ワインで流し込む。気が急くと腰まで浮いてしまう。
  「お待たせしました」
  流が小さな土鍋を運んできてふたを取った。
  「こりゃ旨そうだ。秋刀魚は好物なのですが、いつも小骨を喉に刺さらせてしまう。こうして身をほぐしていただくとありがたいですな」「わしもそうですねん。へたしたら鰻うなぎの蒲かば焼やきでも小骨が喉にひっかかるくらいですわ。よう家内に笑われましたわ。不器用やなぁて」「いやぁ、実に旨い。今年は秋刀魚が豊漁だそうですが、脂の乗りもいいみたいだ。お汁も秋刀魚によく合う。大根おろしの味噌汁は初めてですよ」三橋はまるで若者のように炊きこみご飯をかき込み、味噌汁をすすった。
  「ええ食べっぷりですな。さすがはノーベル賞候補の学者はんや。どんなことにでも手を抜かはらん」
  「お嬢さんにも申しあげたのですが、茜さんは大げさなんですよ。ノーベル賞なんて夢のまた夢です」
  三橋が箸を置いて、手を合わせた。
  「お茶は温ぬるめにしときました」
  「ありがとうございます。じゃあ参りましょうか。たしか食堂の奥に探偵事務所があるんですよね」
  茶を飲んで三橋が立ちあがった。
  三橋はふだんからせっかちな性格なので、かき込むような食事でもまったく苦痛は感じない。恐縮する流は、探偵事務所に続く廊下を歩きながら、何度も振り返って頭を下げている。
  「お気になさらんでください。早メシには慣れていますから。研究に夢中になっているときなんかは、三分と掛からず昼飯を済ませてしまうくらいです」廊下の両側の壁に貼られた写真に目を向けながら、三橋は流のあとをついて歩く。
  「それやったらええんですけど、ゆっくり味おうてもらえなんだんと違うかなと反省しとります」
  「この写真は鴨川さんがお作りになった料理ですか」「わしはレシピてなしゃれたもんを残しまへんので、写真で残してますんや。備忘録っちゅうやつです」
  「先ほど、奥さんによく笑われた、と過去形でおっしゃいましたが」旅行先らしい宿で撮られたとみられる家族写真に、三橋の足がとまった。
  「先にあっちへ行ってしまいよりましてな」
  流が天井を指さした。
  「そうでしたか。お辛つらいことでしょう」
  「三橋さんの奥さんは?」
  「元気過ぎて困っています」
  「ありがたいことですがな。だいじにしてあげなはれや」短い会話を交わすうち、廊下の突き当たりまで辿り着いた。
  「どうぞお入りください」
  流がノックすると、こいしがドアを開けて、三橋に笑顔を向けた。
  探偵用のユニフォームなのか、こいしは黒いパンツスーツに着替えている。
  「あとはこいしにまかせますんで」
  流が廊下を戻っていった。
  「ご面倒ですけど、これに記入してもらえますか?」ローテーブルをはさんで向かい合って座るこいしが、三橋にバインダーを手渡した。
  「申込書ですか。なんだか携帯電話の契約みたいですな」ロングソファのまん中に腰かける三橋が、浅く座りなおして眼鏡をかけた。
  「形だけなんですけどね」
  こいしは急須のふたを押さえながら茶を淹いれている。
  「記録を残すというのはだいじなことです」
  三橋は角ばった筆跡で、ていねいに記入し、バインダーをこいしに返した。
  「三橋秀一さん。七十二歳。東都国際大学名誉教授。東京にお住まいで奥さんとふたり暮らし。新聞やらで見ることはありますけど、名誉教授のかたにお会いするのは初めてですわ。お手柔らかに」
  こいしが頭を下げた。
  「名誉と名が付けば、もう御用済みが近いってことですよ。こちらこそよろしく願います」
  三橋がこいしに倣った。
  「どんな食をお捜しなんです?」
  タブレットの横に置いたノートを開き、こいしがペンをかまえた。
  「焼きおにぎりです」
  「おにぎりを焼いただけ、のあれですか?」
  「そうです。具は入っておりません。おにぎりに醬油を塗って焼いただけのものです」「どこで、いつ食べはったもんですか?」
  ノートにおにぎりのイラストを描いて、こいしが三橋に訊いた。
  「少し話が長くなりますが、よろしいでしょうか」「もちろんです」
  両膝を前に出して、こいしが三橋の目を真っすぐ見つめた。
  「わたしは島根県の浜田という田舎で生まれましてね。実家は祖父の代からお茶の栽培をして生計を立てておりました。浜田は、京都や静岡のような名産地ではありませんから、高値で売れるわけもなく、裕福とはほど遠い暮らしでした。どういうわけか、わたしは何より勉強が好きという変わった子どもでした」「勉強が好きな子どもなんて、うちには信じられへんわ」「科目を問わず、本当におもしろいと思ったんです。なぞ解きというのか、答えを見つけるというのは、こんなに愉しいのかと」
  茶をひと口飲んで話を続ける。
  「中学、高校と進んで、うちの経済状況から考えれば、ここまでだとわたしはあきらめていたのですが。そうとう無理をしてくれたんでしょうな。京都大学に入ることができたんです。家計がそんな状態でしたから、一番安い下宿を学生課で捜してもらって」「ありがたいことですね、ほんまに。親て子どものために、ものすごい無理してくれるんですね。そのときは分からへんけど、あとになったら、よう分かる」「おっしゃるとおりです。どんな思いで、どんな工面をして、下宿代を捻出してくれていたのか。もう少し早く気付くべきだったと思いました」三橋がそう言ったあと、しばらくの沈黙が続いた。
  「そのおかげで偉い先生にならはったんやから、感謝しかありませんね」「若いというのは愚かなことで、そのときは少しでも仕送りが遅れると、母に手紙で催促したりしましてね。下宿代も滞りがちでしたから、毎日顔を合わせる大家さんに申しわけなくて」
  「コーヒー淹れますわ」
  本題に入るまではまだ時間が掛かりそうだと読んで、こいしが立ちあがった。
  「申しわけないね。話が長くなってしまって。きちんとお伝えしたほうが、捜していただきやすいだろうと思ってのことなんですが」
  三橋がソファの背にもたれかかった。
  「ええんですよ。これがうちの仕事ですし。ミルクとお砂糖はどうしはります?」「両方お願いします。お砂糖はたっぷりで」
  「甘党なんですか?」
  「昔のことを思いだしたり、お話ししたりすると、頭が甘いものを要求してくるんですよ」
  三橋が身体からだを起こして頭を指さした。
  「甘いもんは頭にええんや。ええこと聞かせてもろた。安心して食べられますわ」苦笑いしながら、こいしがローテーブルにコーヒーをふたつ置いた。
  「下宿していたおうちは、割と大きなお宅でしてね。庭も広くて、一階が大家さんの住まいになっていて、二階に六畳の部屋が三つ。うちひとつは納戸らしく、あとのふた部屋が下宿。わたしともうひとり京大生が暮らしていました」三橋はクリームを入れ、スティックシュガーを二本カップに入れた。
  「下宿てしたこともないし、見たこともないんですけど、大家さんとはどんな感じの付き合いなんですか? 一緒にご飯食べたりとかするんですか?」こいしがコーヒーカップに口を付けた。
  「まかない付きの下宿もありましたが、うちは違いました。基本的に食事を一緒に摂とることはありませんでしたが、おやつはよくいただきました。試験勉強中に夜食を作ってもらったことも何度かありました」
  「今みたいにコンビニとかがない時代やから大変やったでしょう」「大学のなかの食堂とか売店とかをよく利用しましたが、下宿の近所にも安い食堂があったんです。そこで食べて下宿に戻ることが多かったですね」「お風呂とかは?」
  「大学へ通う道沿いに銭湯が二軒ありましてね。お風呂は不自由しませんでした」「下宿生活いうのが、なんとなく想像できるようになりましたわ」こいしはコーヒーカップをソーサーに置いた。
  「とーとーこ、ってご存じですか?」
  コーヒーカップを持ちあげて、三橋が訊いた。
  「とーとーこ? 聞いたことないですわ。なんのことですか」焼きおにぎりとどういう関係があるのか。いぶかりながら、こいしはノートに書きつけた。
  「うちの辺りでは、トウモロコシのことを、とーとーこと呼ぶんです。仕送りが遅れて、家賃を滞納すると、お茶だとか、畑で穫とれたものを、大家さんのところに送ってきましてね。夏場はたいてい、とーとーこでした」
  「トウモロコシをとーとーこ。なんや外国語みたいですね。でも、きっと美味しいトウモロコシなんやろなぁ。大家さんはなんていうかたなんです? 覚えてはりますか?」こいしがノートのページを繰った。
  「忘れるわけありません。石いし川かわ郁かおるさん。その当時六十歳くらいだったと思います。早くにご主人と死別されたようで、わたしが知る限り、ずっとおひとりでした。
  捜して欲しいのは、その石川さんが作ってくださった焼きおにぎりなんです」「下宿はどこにあったんです?」
  本題に入って、こいしが背筋を伸ばした。
  「京都府京都市左京区東福ノ川町四十八の三。『金こん戒かい光こう明みょう寺じ』のすぐ西側でした」
  「『金戒光明寺』ていうたら、黒くろ谷だにさんのことですね。この辺りですか?」タブレットの地図アプリを開き、こいしが人差し指で画面をスワイプした。
  「ええ。この辺りです。この石段を下りて、北へ歩いて左側、ここです。京都帝國大学医学部の納骨墓地の南側に石川さんのおうちがあったんです。今はもう影も形もありませんで、駐車場になっていましたが」
  「最近、見に行かれたんですか?」
  「うんと前です。結婚して家内と京都へ旅行したときに、様子を見に行ったときですから、三十五年ほど前になりますね」
  「三十五年前やったら、まだ石川さんも七十代でお元気やったんと違うんかなぁ」「わたしもそう思って訪ねてみたので、ショックでした。周りもすっかり様変わりしてしまっていて、新しい家ばかり。石川さんの消息を訊たずねようにも、訊ねる術すべもないありさまでした」
  「一九八〇年代ていうたら、京都の街が劇的に変わったころなんやろなぁ。石川さんの行方が分からへんかったら、焼きおにぎりも手がかりなしですね」こいしが肩を落としてペンを置いた。
  「もう少し早く訪ねていたら、と後悔しましたが、どうしようもありませんでした」「記憶を辿ってもらうしかありませんね。どんな焼きおにぎりだったんですか?」「さっきお話しした、とーとーこなんですが、石川さんがとても気に入ってくれて、いつも焼いて食べさせてくれました。家のなかに芳こうばしい匂いが広がって、お腹が空くわけですよ。もうひとり、一緒に下宿していた山やま添ぞえというのが厚かましい男でね、何本もお代わりをねだるんです。でも石川さんはいやな顔するどころか、嬉うれしそうにとーとーこを焼いて、同じタレで焼きおにぎりまで作ってくれたんです」三橋が遠い目をして天井を見上げた。
  「ということは、焼きトウモロコシとおんなじ醬油味やったんですね」「そうです。ただ、それがどうやらふつうの醬油ではなく、石川さんの特製だったと思うんです。石川さんは秘密の醬油と言ってましたが、なにか瓶詰のなかのタレというか煮汁のようなものを小皿に取って、それを刷毛でとーとーこやおにぎりに塗るんです」「ふつうの醬油と違うんやったら、どんな味がしたんですか? 特別な匂いとか」もどかしげにこいしが訊いた。
  「わたしはまったく料理をしない人間なので、よく分からないのですが、冷凍食品なんかの焼きおにぎりとは違いますし、居酒屋で出てくるものとも違います。わたしが懐かしがるものだから、家内もときどき作ってくれるのですが」三橋が首を横に振った。
  「どこがどう違うんやろ。味噌と違ちごうて、醬油味やったら、どんな焼きおにぎりでも似たような味になると思うんやけどなぁ」
  こいしがノートに描いた焼きおにぎりのイラストを何度もなぞった。
  「ヒントになるかどうか分かりませんが、鰻の蒲焼を食べると、似たような味に感じることがときどきあるんです。いつもではないのですが」「鰻の蒲焼。ということは甘辛いということか。醬油に味み醂りんでも混ぜてあったんやろか」
  「家内も同じようなことを言って、蒲焼のタレだとか、すき焼きの割り下なんかで試してみてくれたのですが、似て非なるものでした」「違うんか。そしたら鰻そのものかもしれん。鰻の骨を醬油に漬け込んだとか。けど、そんなん聞いたことないなぁ」
  ノートにイラストを描きながら、こいしがひとりごとを並べた。
  「あいまいなことで申しわけないですな」
  三橋がコーヒーを飲みほした。
  「ちょっとお話を整理させてもらいますね。三橋さんが京大の学生やったじぶんに下宿してはった、大家の石川さんが作ってくれはった焼きおにぎりを捜してはると。時期的には今から五十二年ほど前になるのかなぁ。下宿の場所は黒谷さんのすぐ傍そば。トウモロコシと同じタレで焼いてはった。醬油味やけど、ふつうとは違う。鰻の蒲焼と似たような味やと思うけどそうでもない。こんな感じですか」ノートを繰りながらこいしが話すと、三橋は何度もうなずいた。
  「けど、五十年以上も前に食べた焼きおにぎりを、なんで今捜そうと思わはったんですか?」
  こいしが正面から見すえると、三橋はふっと目をそらした。
  饒じょう舌ぜつだった三橋が急に黙りこむのを見て、こいしが言葉を足した。
  「話し辛いことやったらパスしてもろてもいいですよ」一分も経たっていないだろうが、ふたりには長い沈黙に思えた。ようやく三橋が重い口を開いた。
  「本当に貧しい学生生活を送っていましてね。今のような時代なら学生アルバイトもたくさんあるのですが、当時は家庭教師くらいしかなかったんです。時給に換算すれば悪くないのですが、自分の学業を最優先にしていましたから、日数も少なく、大した収入にはなりません。いっぽうで、ますます勉強がおもしろくなって、欲しい本は増えるばかり。専門書になればなるほど高価になる。どうする手立てもなくて毎日イライラしていました」昔のことを思い出しながら語る三橋は、何度もため息をはさんだ。
  「遊ぶお金欲しさにバイトする話はよう聞きますけど、昔の学生さんは偉かったんですねぇ」
  重い話の合間に、どう言葉を返していいのか戸惑いながら、こいしは無難な合あい槌づちを打った。
  「忘れもしません。三回生の冬休みでした。夜行列車で浜田に帰省する日の夕方でした。
  届けものをするあいだ、少しだけ留守番をしてくれと石川さんに頼まれました。時間も充分あるので、断る理由もなく引き受けて、いつもの茶の間でラジオを聞きながら留守番をしていました。すみません、お水をいただけますか」緊張した面持ちで、三橋が話を中断した。
  ホテルの客室に備えてあるような、小ぶりの冷蔵庫から冷水ポットを取りだして、こいしがグラスに水を注いだ。
  「ありがとう」
  三橋はそれを一気に飲みほしてから話を続けた。
  「魔が差した、としか思えんのですよ。貧しい家庭に育ちましたが、絶対に人さまのものに手を出しちゃいかん。うらやましがるのもいけない。厳しく育てられましたから、まさか自分がそんなことをするとは思っていませんでした。気が付くと、石川さんの大きながま口を開けて、なかから数枚のお札を抜き取っていました。少しだけ言い訳をするなら、がま口が膨らんでいて閉じるのに苦労するほど、お札がぎっしり入っていたのです。それを見た瞬間に、すーっと罪悪感が消えていった感覚は、今でもはっきり覚えています。数えることもなく、お札を無造作にズボンのポケットに仕舞って、がま口をもとの位置に戻しました。自分でも驚くほど冷静でした。常は論理的に物ごとを考えるのに、このときはなぜか感情が優先していました。あんなにたくさんお金があるのだから、数枚盗んでもきっと気付かないだろう。石川さんが困ることはないだろう。自分でそう決めこんでしまったのです。待っているあいだもドキドキもしませんでしたし、悪いことをしたともまったく思わずに、石川さんの帰りを待ちました。十分くらいして石川さんが戻ってこられたときも動揺しなかった。留守番のお礼だと言って、新聞紙に包んだ焼き芋をもらって、素知らぬ顔で二階の部屋に戻りました」
  小さく咳せき払ばらいした三橋は、こいしが注ぎ足した冷水を、喉を鳴らしながら飲んだ。
  「どう言うたらええのか。苦い思い出としか言いようがないですね」どんな言葉をはさんだらいいのか、こいしの困惑は深まるばかりだった。
  「夜行列車に乗っても、さすがに眠れませんでした。少しずつ罪の意識が芽生えてきたのです。いっぽうでそれを打ち消そうとする気持ちも湧いてくるのです。当時の学生仲間には、富の分配なんていう言葉を使うやつがたくさんいて、学生運動まではいきませんが、そんな思想に少しばかり影響を受けていたせいでもあるのでしょう。今から思えば、本当に馬鹿げたことなのですが」
  「どんな理由があっても、盗みは盗みですもんね。いくらくらい抜き取らはったんですか?」
  「寝台車で浜田まで往復する汽車賃に、帰省土産を買って、まだまだ余っていました。正月明けに京都へ戻ってきて、欲しくてたまらなかった研究書を買って、ようやくなくなったくらいですから、かなりの大金でした」
  三橋がゆがめた顔を天井に向けた。
  「そのことはどなたかに話されたんですか?」「誰にも言えなかったから苦しんできたんです。当の石川さんにはもちろん、両親にも友人にも誰にも言いませんでした。家内にもずっと言わずにきたのですが、この夏に信州へ旅行したときに、なぜか話してしまったんです」「奥さんもびっくりしはったやろねぇ」
  「結婚して初めて家内に大声で られました。なぜ今までだまっていたのかと。犯してしまった罪は仕方ないとして、懺ざん悔げしないと死ぬまでその罪を背負い続けなければいけない。まったくもってそのとおりなのですが。その勇気をこれまで持てなかったのです」
  「ええ奥さんやと思います」
  こいしが短く言葉をはさんだ。
  「わたしがなぜ焼きおにぎりにこだわっているのか、やっと分かったとも言っていました。ただ、どういう形で懺悔すればいいのかが、わたしには分かりませんでしてね。そこで思いついたのが、石川さんの焼きおにぎりなんです。それを捜しだすことができれば、なんらかの形で懺悔できるのではないか。そう思ったのです」「そういうことやったんですか。うちもやっと分かりました。なんで焼きおにぎりを捜してはるのか」
  こいしがノートにペンを走らせた。
  「石川さんが作ってくださった、あの焼きおにぎりをもう一度食べて、ちゃんと味わうことが懺悔の第一歩になると思うのです」
  「もしも石川さんが生きてはったら、捜しだしてレシピを教わるのが一番の早道やと思いますねんけど」
  「ご存命なら、百十歳を超えておられることになりますから、可能性としてはないに等しいでしょう」
  三橋がゆっくりと首を二、三度横に振った。
  「肝心なことを訊き忘れてました。石川さんて京都のかたでしたか?」「たぶん、そうだと思います。〈何をしはんのや〉とか、〈気い付けて〉とか、関西弁をよく使ってましたから」
  「何をしはんのや……」
  小さくつぶやいて、こいしが小首をかしげた。
  「関西弁といっても、京都と大阪では微妙に違いますよね」「ええ。でも、京都の人やとしたら、なんとか捜せるかもしれません。お子さんかお孫さんまで辿り着けたら、分かるんと違うかな。どっちみちお父ちゃんの腕次第ですけどね」「実際に捜しだすのはお父さんの仕事だそうですね。茜さんから聞いてます。わたしが死ぬまでになんとかお願いします」
  ソファから腰を浮かせて、三橋が頭を下げた。
  「あんじょうお聞きしたんか?」
  ふたりが食堂に戻るのを待ちわびたように、流がこいしに声を掛けた。
  「長々とお話をしてしまいました」
  三橋がこいしに微笑ほほえみかけた。
  「茜からも頼まれてますさかい、せいだい気張って捜させてもらいます」「どうぞよろしくお願いいたします。今日の食事代と、探偵料をお支払いさせていただきますので」
  三橋がボストンバッグから長財布を取りだした。
  「うちは後払いになってますねん。お捜しのもんを見つけてきて、納得いただいてからお支払いいただきますので、今日はけっこうです」「せめて食事代だけでも払わせてください」
  「それも探偵料に含まれてますんや」
  流に念を押されて、三橋は渋々財布をバッグに仕舞った。
  「だいたい二週間くらいでお捜しして連絡させていただきます」「そんなに早く見つけていただけるのですか」驚いた三橋は、大きく見開いた目をこいしに向けた。
  「これまでの経験からすると、二週間ほどで見つけられなんだら、一年経っても見つからんのですわ」
  「そういうものなんですかね」
  首をかしげながら上着を羽織った三橋が店の外に出た。
  「さっき記入してもらった申込書の電話に連絡させてもらいます」「電話に出ないことが多いものですから、メールアドレスにお願いします」「承知しました」
  短いやり取りをして、三橋が正面通を西に向かって歩いて行った。
  「ものはなんやった?」
  店に戻るなり流が訊いた。
  「焼きおにぎり」
  こいしが答えた。
  「えらい難問やな。シンプルなもんほど難しい。どこぞの店で食べはったもんか?」カウンター席に腰かけた流が、こいしから渡されたノートを開いた。
  「下宿の大家さんが作ってくれはったんやて」隣に座って、こいしが細かな説明をした。
  「今回はえらいようけメモしたぁるやないか」「三橋さんのお話を聞いてて、雲つかむみたいやなぁと思うたさかい、できるだけヒントを集めとこうとがんばったんよ」
  「ようやった。こんだけあったら、なんとか捜せそうや」流がこいしの肩をポンポンとたたいた。
  「ほんまに? こんなんで捜せるん?」
  「これくらい、やけど光が見えてきた」
  流は親指と人さし指のあいだに一センチほどのすき間を作った。
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