忍阪(おつさか) (奈良県桜井市)
日本最古の地名は、奈良県にある平凡な坂
JRと近鉄が交差する桜井駅から東に二キロほどの場所にあるのが、「忍阪」だ。住宅街のなかのなだらかな坂で、同名のバス停もある。
ここは現在「おっさか」と読まれているが、かつては「おしさか」という地名で、「忍坂」とも書いていたという。
しかし、それ以前、『古事記』が著される前からこの地名はあり、現存する最古の地名だといわれている。
和歌山県橋本市の隅す田だ八幡宮にある人物画像鏡に、「意お柴し沙さ加かの宮みや」の銘が刻まれているのだが、これは国宝に指定されているほど価値があるもので、あの『古事記』よりも成立年代の古いことがたしかめられている。
また、近年の発掘調査で、忍阪のあたりに宮が築かれていた痕跡も見つかっており、この地が最古の地名であることは間違いないものとされた。
『古事記』『日本書紀』が著された頃になると、万葉仮名で「於佐箇」「意佐加」「押坂」「忍坂」といった表記で登場している。
「おしさか」という音は、「し」が強意で使われることが多いので、そこから「大」の意味が生じる。それゆえ、ここには大きな坂があったのだろうとも推測される。いまはなだらかな坂だが、かつては険しい山道だったようだ。