一口坂(ひとくちざか) (東京都千代田区)
土地の所有をあらわす記号「 □」に由来したという一口
東京都千代田区神田駿する河が台だいに、「淡あわ路じ坂」という場所がある。聖ひじり橋ばしの南詰から神田川に沿って東に下る坂道だ。かつてはここを、「一口坂」と書いて「いもあらいざか」と読んだという。なんとも不思議な地名だが、いったいどんな由来があるのだろうか。
「一口」という文字は、かつて坂の上にあった神社を起源とするものらしい。一四五八(長禄二)年に太田道どう灌かんが、娘の疱ほう瘡そう(天然痘)の治癒を祈願し、京都の「一いも口あらいの里」の稲荷を勧かん請じようして建立したため、そこは「一口稲荷」と呼ばれた。それにちなんで一口坂という地名ができたのだという。
また、同じ一口坂という坂は、千代田区九段北三丁目と四丁目のあいだを新見み附つけ橋のほうへ下る場所にもある。こちらも明治以降に「ひとくちざか」という読み方に変わったものの、それ以前はやはり、「いもあらいざか」だった。
このように、「一口」を「いもあらい」と読むのは、一説には、「土地の所有」に関係しているのではないかとされる。昔は、土地の所有権を確定する場合に、そこに棒を立てて区画し、「 □」の印を付けた。「 」は境で、「□」はその土地をもらったことを意味する記号だ。つまり、「 □」とは「地ちもらい」のことであり、そのうちに「 □」の印が「一口」になり、「ちもらい」も「いもあらい」に転てん訛かしたというわけである。