20数年前、私はクイズ番組の収録のためテレビ局へ来ていた。初めてのカメラや照明に気押され完全に平常心を無くし、一度も答えられずにリハーサルが終わった。
取り乱してスタジオ脇の公衆電話で実家に電話すると、あなたがいつもの鷹揚な調子でこの言葉をかけてくれた。不思議にスーっと気持ちが落ち着き、本番ではあれよあれよという間に答え続け、優勝して海外旅行までゲットしていた。
その後も、仕事や子育てなどいろんなことにつまずき悩んだ私は、この言葉を胸になんとか乗り越えてきた。
子供の頃、丸い小さな卓袱台にのりきらないほどの手料理と笑い声で、家の中は明るかった。自慢のちらし寿司をご近所へ配るエプロン姿。クーラーのない時代、職人の父の仕事場に冷凍室で凍らせたおしぼりを日に何度も運んでいたあなた。無口で頑固、昭和の父親を絵に描いたような父に優しく尽くして自分のことは後回しで家族のためにいつも台所の湯気の中にいた。そんな何でもない日々の映像が、全部宝物になって心の中に詰まってる。
娘や孫に目に見える財産は残してあげられそうにないけれど、私も手料理の思い出と心に残る言葉を残してあげられたらと思う。
天国のお母さん、魔法の言葉をありがとう!