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不夜城(09)

时间: 2018-05-31    进入日语论坛
核心提示:9〈カリビアン〉を出ると、目を血走らせた元成貴のチンピラたちがいやでも目についた。手を出すなといい含められているのだろう
(单词翻译:双击或拖选)
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〈カリビアン〉を出ると、目を血走らせた元成貴のチンピラたちがいやでも目についた。手を出すなといい含められているのだろう、おれを見ると顔を強張らせるが、こんなやつにかまっている場合じゃないとでもいうように血走った目を左右に走らせ、どこへともなく歩いていくやつが多かった。
 風林会館脇の通りに出、大久保病院の跡地に建ったビルに入った。健康プラザ・ハイジアという顔が真っ赤になりそうな名前のビルだ。中にスポーツクラブがあって、おれはそこに毎月なにがしかの金を払っている。富春の出現で混乱していたおれの頭は、さっきの元成貴からの電話ですっかり怖気《おじけ》づいていた。こういうときには身体を目一杯こき使って、頭の中を真っ白にするのがいい。
 ロッカーから水着を取りだして着替えると、プールに向かった。おれは泳げない。肩までつかる深さのプールに入って、両手で水をかき分けながらひたすら歩くのだ。このスポーツクラブに通いはじめたころは他の利用客の笑い声が気になったが、視線を水中の足もとに固定させ、一心に歩いているとすべての雑念が頭から消え失せてしまう。
 一時間ほど歩きつづけると、空腹を感じはじめた。シャワーを浴び、バスローブに着替えてリラクゼイション・ルームでオレンジ・ジュースとハム・サンドをぱくついた。それで、ようやくものを考えることができるようになった。
 まずは〈薬屋〉だ。元成貴とあうことを、楊偉民に伝えておかなければならない。おれになにかがあった場合、手を下したのは元成貴だということを富春に伝えてくれるぐらいのことは、いくら業突くばりなあの爺さんだってやってくれるだろう。
 ロッカールームで着替え、エレベータに乗ろうとしたところで、脇にある公衆電話に気づいた。おれの知るかぎり、このスポーツクラブに北京語を理解する人間はいない。おれは受話器を取り、カードをスリットに押し込んだ。
「はい?」
 黄秀紅《ホヮンシウホン》の濡れたような上海語が電話に出た。
「健一だ。いま、ひとりかい?」
 北京語でいった。
「ええ。こんな時間に、いったいなに?」
 ふたたび受話器から聞こえてきたのは非の打ちどころのない北京語だった。口調の端に警戒の色がうかがえた。
「昨夜は元成貴と一緒だった?」
 おれは明るく訊《たず》ねた。こういうときのために、秀紅の店の女たちには特別に安くブツをおろしているのだ。せいぜい利用させてもらわないと割にあわない。
「あなたにどういう関係があるの?」
「元成貴に昼飯を食おうって誘われてるんだ」
 喉の奥で、ああ、という声が漏れるのが聞こえた。
「呉富春のことね。あの人、ずいぶんカッカしてたわよ。逃げた方がいいんじゃない」
「おれもそうしたいんだけどね、歌舞伎町以外で食っていける自信がないんだ」
 秀紅は少女のようにけらけらと喉を震わせて笑った。彼女のそんな笑い声を聞くのは初めてだった。おれたちはいつだって薄ぐらい店の中で顔をあわせている。
「おれのこと、なにかいってたかい?」
「呉富春の居場所を絶対に吐かせてやるって……そうね、楊偉民には話をつけてあるから多少痛めつけても大丈夫だっていってたような気がするわ」
「くそ!!」
 電話の側にあったゴミ箱。思いきり蹴りつけた。ゴミ箱は派手な音を立てて床に転がった。ちょうどエレベータから出てきた中年男が悪魔に出くわしたとでもいいたげな顔でおれを見、慌ててエレベータのドアを閉めた。
 楊偉民のやりそうなことだ。恐らく、おれが殺されることはない、と踏んだのだろう。おれを生贄《いけにえ》に差しだして、元成貴に貸しを作っておく腹づもりなのだ。
「だいじょうぶ?」
 秀紅がいった。おれを気遣っているのではなく、ゴミ箱のたてた音に驚いたような声。
「あ……ああ」
 おれは煙草を取りだし、火をつけて煙を深く吸いこんだ。
「逃げなさい、健一。元成貴を怒らせて、楊偉民にまでそっぽを向かれたら、歌舞伎町にあなたのいる場所はないわよ」
「富春とおれとはもう無関係なんだ」
 自分でも声が上ずっているのがわかった。それでも、いわずにいられなかった。
「あんたから元成貴に説明してやってくれ」
「元成貴は信じないわよ、そんなこと」
 突き放すような声だった。冷ややかなその声は、おれにいくぷん冷静さを取り戻させてくれた。
「そうだな……自分でなんとかするさ」
「殺されはしないと思うけど。怪我が治ったら、店に来てちょうだい。わたしのおごりで飲ませてあげるわ」
 電話が切れた。おれは静かに受話器を戻し、秀紅の言葉に思考を巡らせた。最悪の展開。だが、どこかに道はあるはずだ。細い、蜘蛛《くも》の糸のように頼りない道だとしても。おれはいつだってそんな道を見つけては生き延びてきた。今度だってなんとかなるはずだ。
 おれは煙草を踏み潰し、エレベータの下降ボタンを押した。
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