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空家の怪事(3)_ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:「ああ、どうやら幽霊じゃないようだ。ねえ君、嬉しいよ、僕は。掛けてくれたまえ、そしてあの恐怖の断崖からどうやって生きて帰
(单词翻译:双击或拖选)

「ああ、どうやら幽霊じゃないようだ。ねえ君、嬉しいよ、僕は。掛けてくれたまえ、そ

してあの恐怖の断崖からどうやって生きて帰って来たか、聞かせてくれたまえ」

 彼は私と向きあって腰をおろすと、昔どおりのさりげなさで巻き煙草に火をつけた。服

はみすぼらしいフロックのままだが、彼を今まで古本屋に見せていたものは、もう、つけ

毛の白い毛も古本も、机の上に山にして積んであった。ホームズは昔よりもさらに痩 せて

明敏そうに見えたが、その鷲 わし のような顔は、最近の彼の生活の不健康さを物語るよう

に、青白かった。

「おかげでやっとのびのびできたよ。背が高いのに、何時間もぶっ続けに一フィートも体

を縮めているなんて、なまやさしいことじゃないからね。ところで、こうしたわけという

のも、今夜はこれから、むずかしくて、しかも危い仕事が控えているからなんで、できた

ら君にも手伝ってもらえないかと思ってね。話はすべて、それが終ってからにしたほうが

いいと思うんだ」

「僕は聞きたくてうずうずしてるんだぜ。いま話してほしいな」

「今夜手伝ってくれるかい?」

「いつ、どこだろうと、お望みのままだ」

「そいつはまるっきり昔のままじゃないか。出かける時間までには食事をひと口やる暇も

あるようだ。よかろう、あの岩の割れ目の話をしよう。あすこから出て来るのは何のこと

もなかった。なぜって、僕はあの滝に落ちこまなかったんだからね」

「落ちなかった?」

「そうだよ、ワトスン君。おっこちなかった。あのお別れの置き手紙は嘘でも冗談でもな

い。滝の上の安全なほうへ行く細道に、死んでしまったあのモリアーティ教授が立ってい

る姿を見て、僕はなんだか不吉な予感がした。もう僕の一生も終わりだなと思った。彼の

灰色の目を見て、情け容赦 ようしゃ のないことをしに来たのがわかった。だから僕は話をして、

君があとで受け取ったあの短い置き手紙を書く、仁義にかなった許しを得た。それを、シ

ガレットケースやアルペンストックとひとところに残して、細道を歩いて行ったわけ

だ。モリアーティ教授は、すぐ後ろからついて来る。道のはずれで、僕は追いつめられた

形で止むなく立ちむかった。武器を取り出すかと思ったら、彼は素手 すで でとびかかって、

長い腕でからみついてきた。自分は悪運尽き果てたとわかっているから、ただもう何とか

して僕に復讐したかったのだ。ふたりの身体は滝の絶壁の縁 ふち でよろめいた。

 しかし、僕は日本の柔道を少しばかり知っていた。これのおかげで危いところを助かっ

たことは一度や二度じゃなかったんだが、それを使って彼の腕をすり抜けると、奴 やっこ さん

は一瞬おそろしい悲鳴をあげながら、必死になって足をはね、両手で虚空 こくう をかきむしっ

た。しかし、とうとう身体の平衡 へいこう を取り戻せないで、真っさかさまに落ちていった。

崖っぷちからのぞきこむと、彼がはるか下まで落ちてゆくのが見えた。それから岩に当っ

てもんどりうつと、しぶきを上げて水に落ちた」

 私はホームズが煙草の煙を吐き出しながら語ってくれた以上の説明を、ただただ驚きあ

きれて聞いていたが、「だって足跡が! ふたりとも落ちていって戻った跡がないのを、

僕はこの目で確かめたんだぜ」と大声に言った。

「それはこういうわけだ。教授の姿が消えたとたんに、僕はふと思いついた。運命の女神

は何という幸運を授けてくれたことだろう。僕の命をつけ狙 ねら っている男は、決してモリ

アーティ一人じゃない。少くとも三人はいる。彼らは首領モリアーティが死んだと知った

からには、僕に対する復讐の念をかためるに違いない。みんなひどく物騒な連中だ。どい

つかが、きっと僕をやるだろう。

 ところがしかし、もし僕が死んだと世間に信じさせておけば、この男たちは勝手なこと

をやり始めるだろう。大っぴらにやるだろう。そうすれば、遅かれ早かれ僕は彼らを一網

打尽 いちもうだじん にできる。そのとき初めて、まだ生きているのだと打って出ればいいわけだ。

僕がこれだけのことを一瞬のうちに思いついてから、モリアーティ教授はやっとライヘン

バッハの滝壷の底に行きついたというわけだ。

 それから僕は立ち上がって、背後にそそり立つ岩壁を調べてみた。あのことを書いた君

の文章は、なかなか精彩があって、僕は数か月たってから興味深く拝見させてもらったん

だが、あそこで君が岩壁がまっすぐ切り立っているように書いているのは、文字どおり正

しいとは言えないね。ちっとは足掛りになるところもあったし、岩棚 いわだな も見えていたよ。

岩壁は高くて登りつめられないことがはっきりしていた。かといって、細道をとって返す

となると、地面が湿っているからどうしても足跡が残ってしまう。なるほど、靴跡をうし

ろ向きにつけて通る手がないではなかった。前にも同じようなことがあって、二、三度

やったこともあるがね。しかし足跡が三人分同じ方向に向かっているのを見たら、きっと

ごまかしに感づくだろう。結局そこで、危険でも絶壁を登るのがいちばんいいだろうと

思った。

 楽しい仕事じゃなかったよ、君。滝は足下でごうごういっている。僕は決して空想家

じゃないが、本当の話、モリアーティが深淵の底から僕に向かって絶叫しているのが聞こ

えるような気がした。ひとつ間違えばおしまいだ。つかんだ草の根が抜けてきたり、濡れ

た岩の小さな凹 へこ みにかけた足がすべったりして、もう駄目だと思ったことは一度や二度

じゃなかった。しかし僕は死物狂いで登っていって、とうとうひとつの岩棚にたどりつい

た。数フィートくぼんでいて、一面にやわらかい緑の苔 こけ が生えていた。そこで僕は人目

に隠れていい心地で横になることができた。

 ワトスン君、君や加勢の連中が同情にたえない様子で、僕の死の状況をまるきりへたく

そな調べ方をしているあいだ、僕はのうのうと手足をのばしていたわけだよ。君は当然、

まるで誤った結論を下してホテルに帰っていった。

 とうとう僕はひとりになった。僕のつもりじゃ、僕の冒険はそこでおしまいになるはず

だった。ところが、まったく思いもかけない事件が起こって、まだまだ驚くべきことが控

えているのがわかった。でっかい石が頭の上から落ちてくると、うなりを生じながら目の

前をよぎって細道にぶつかり、はずみをくらって深淵にとびこんでいった。ほんの少しの

あいだ、僕は偶然のしわざだと思った。すぐに気がついて上を見ると、暗い空を背にし

て、人間の頭がひとつ見えた。と、また石が落ちてきて、僕の寝ころんでいる岩棚に、し

かも僕の頭から一フィートと離れていないところにガンと当たっていった。

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