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三人の学生(6)

时间: 2024-02-15    进入日语论坛
核心提示:「誰もいなかったのです」「ああ、バニスター、残念だよ。今まで君はずっと本当のことを言ってたんだろうが、いま嘘をついてしま
(单词翻译:双击或拖选)

「誰もいなかったのです」

「ああ、バニスター、残念だよ。今まで君はずっと本当のことを言ってたんだろうが、い

ま嘘をついてしまったね」

 バニスターの顔には不機嫌な反抗の色がうかんだ。

「誰もいなかったのです」

「ねえ、おい、バニスター」

「いいえ、だれもいなかったのです」

「じゃあ、これ以上、何も口を割ってくれないんだね。ここにいてくれたまえ、その寝室

のドア近くに立っていたまえ。さて、ソームズさん、ギルクリスト青年の部屋に行って、

ここまで来くれるように伝えていただけませんか」

 指導教師はすぐに学生を連れて戻って来た。彼は容姿の美しい青年で、背が高くしなや

かで敏活であり、足取りははずむように、快活で鷹揚 おうよう な顔をしていた。彼は困惑した眼

差しで、ちらちらとわれわれ一人一人に目をやったが、最後に呆然 ぼうぜん と狼狽 ろうばい の表情を

浮かべて、向こうの隅に立っているバニスターに目をとめた。

「ドアをしめたまえ」ホームズは言って、「さて、ギルクリスト君、ここにはわれわれだ

けしかいません。われわれの取り交す言葉は、ひと言もほかにはもれないのです。お互が

心から率直になれますね。ギルクリスト君、あなたのように名誉ある人が、どうして昨日

のような行為を犯すようになったかが知りたいのです」

 不幸な青年はよろめいて後ずさりしたが、恐怖と抗議に満ちた顔付きをバニスターに向

けた。

「いいえ、いいえ、ギルクリスト様、私はひと言もしゃべりませんでした。ひと言だっ

て」と、召使いは叫んだ。

「いいや、だが今、言ってしまったよ」とホームズは言った。「さて、今のバニスターの

言葉で、あなたの立場はのがれる望みはないことや、救われるチャンスはただ率直に告白

することだけだということがおわかりでしょう」

 ちょっとのあいだギルクリストは、片手をあげたまま、顔のゆがみをなんとかおさえよ

うとしていたが、次の瞬間、テーブルのそばに膝 ひざ をつくと、両手に顔をうずめて、はげ

しくすすり泣きはじめた。

「さあさあ」と、ホームズは優しく言った。「あやまちは人間にありますよ。少なくとも

君を厚顔な犯罪者などと責めるものはないんですからね。僕が話したほうがあなたも楽で

しょうね。僕が間違っていれば、訂正できますからね。そうしましょうね? よろしい、

よろしい、無理に答えようとしなくてもいいんですよ。さあ、聞いて下さいよ。君の人格

を誤解したりはしませんからね。

 ソームズさん、あなたの部屋に試験用紙があるってことは誰も、もちろんバニスターで

さえも知らないんだと言ったそのときから、私の心には事件の明確な形が浮かんできまし

た。もちろん印刷屋は除外できます。印刷屋なら自分のところで調べてみることができる

でしょうからね。私はインド人学生も何の関係もないと思いました。もし紙が巻いてあっ

たら、たぶん彼にはそれがなんだかわからなかったでしょうからね。ところで、一人の男

が部屋に押し入って来たら、たまたまその日に試験紙がテーブルの上にあったなどという

ことは、あまりに偶然の一致がすぎて考えられません。それも除外しました。入って来た

人間は用紙がそこにあるのを知っていたのです。

 じゃ、どうして彼は知っていたか? 部屋に近づいたとき、私は窓を調べてみました。

あなたは向かい側の部屋から人が見ている白昼に犯人が窓から入りこむことができるかど

うか、考えていられたらしいのでおかしくなりました。そんな考えはばかばかしいもので

す。私は真ん中のテーブルにどんな紙が置いてあるかを窓ぎわを通りながら見るのに、ど

の位、背があったらできるかをはかっていたのです。私は六フィートありますが、背のび

しなくては見えません。六フィート以上なければ、そのチャンスはないでしょう。三人の

中で人並みはずれた人はいないか、いればいちばん目をつけなければならない人間だと考

えていいわけがあったのです。私は家に入ると、サイドテーブルが暗示していることをう

ちあけてお話ししました。あなたがギルクリストの人物を述べておられる際、彼が幅跳び

の選手だとおっしゃるまでは、中央テーブルからは何もわかりませんでした。それで私に

はすべてがわかったのです。私はただ確定的な証拠がほしいだけになったのです。それは

すぐに手に入りました。

 事件はこういう次第です。この青年は午後運動場ですごし、幅跳びの練習をしていまし

た。彼は幅跳び用の靴を持って戻って来ましたが、ご存じのように、それは底に釘が打っ

てありました。あなたの部屋の窓ぎわを通るとき、並はずれて背が高い彼は、いかにも試

験用紙らしいものがテーブルの上にあるのに目をとめました。しかし、もしあなたの召使

いが鍵を不注意に差し込みっ放しにしておいてあるのに気づかなかったら、何の災 わざわい も起

きなかったでしょう。彼は突然に、それをのぞいて見てやろうという衝動におそわれまし

た。しかしそれも、さほど危険な離れ業 わざ というわけでもありませんでした。もしとがめ

られても、いつでも質問があって入ったふりをよそおえましたからね。

 さてそこで、それが本当に試験用紙だということを知ったのですが、彼が誘惑にかかっ

たのはそのときなのです。靴をテーブルの上に置きました。あなたが窓の近くの椅子に置

いたものは何だったのですか」

「手袋です」と青年は答えた。

 ホームズは勝ち誇ったようにバニスターを見た。

「彼は手袋を椅子の上に置きました。そして問題を写すために、一枚一枚とっていったの

です。指導教師は正門から帰って来るのだから見えると思っておりました。ところがソー

ムズさんは横門から帰って来たのです。突然先生がドアのところへ来たのを知りました。

とっさには逃げられそうもなかったので、靴をつかんで寝室へかけこみましたが、手袋を

忘れてしまいました。テーブルの上の掻き傷は片方が浅かったけれど、寝室に近いほうは

深くなっているのをご存じでしたね。それだけでも靴が寝室のほうへひっぱられたという

ことや、犯人がそこへ逃げこんだのだということがわかります。釘のまわりについていた

土がテーブルの上に残りました。次のゆるくなった土は寝室に落ちました。私は今朝、運

動場に出かけましたが、黒い粘土は幅跳びのピットに使われているのを知りました。そこ

で見本をひとつ持って来たのですが、粘土には良質のタン皮殻 ひかく やおがくずが混じってい

ました。すべりを防ぐためにまき散らしたものなのですね。ギルクリストさん、間違いな

いでしょうね」

 彼は真直ぐに身をおこした。

「そうです。それに違いありません」

「まったく驚いた! 君、何かつけ加えることはないかね」とソームズは言った。

「ええ、あるのです。しかしこの面目ない暴露 ばくろ で、ひどくショックを受けたので、気持

が乱れています。ソームズ先生、ここに手紙がございます。昨夜落ちつかぬままに、夜明

けになってからあなた宛に書いておいたものです。これは私の罪があらわれる前に書いて

おいたものです。これです。ここに書いてありますが、《私は試験を受けないことに決め

ました。ローデシアの警察から警部の職で招かれているのです。すぐに南アフリカに出発

するつもりです》」

「不正な便宜 べんぎ を得て利用するつもりのなかったことを聞いて、とても嬉しいよ。しか

し、どうして目的を変えたのだね?」ソームズが言った。

 ギルクリストはバニスターを指さした。

「この男が、私を正道 せいどう にもどしてくれたのです」

「では、バニスター」ホームズは言った。「彼を逃がしてやれるのは君だけなんだという

ことは、僕が今言ったことからすぐにわかるだろう。君が部屋にいて、出るときに鍵をか

けたのだからね。窓から逃げるなんてことはできない話だ。この不思議な事件で不明なと

ころをはっきりさせて、なぜそんな行動をとったのか話してくれないか」

「おわかりになってしまえば、まったくあっけないことなんです。しかしあなたの全知能

をもってしても、これだけはおわかりになりませんでした。私はこのお若い方のお父上に

あたるサージェイベズギルクリストの執事を勤めたことがあるのです。あの方が破産

なさったとき、私はこの学寮に召使いとしてやって参りました。しかし私は決して以前の

主人を忘れはいたしませんでした。と申しますのは、あの方が零落 れいらく なさってしまったか

らです。私は昔の恩義のため、できる限り、ご子息の面倒をみさせていただきました。

 昨日ここにやって参りまして、何かおこったといわれましたとき、最初に目についたの

は、ギルクリスト様の茶色の手袋が椅子の上にのっていることだったのです。私はその手

袋をよく知っていましたし、それがそこにある意味も悟りました。ソームズ様がそれをご

覧になれば万事休すです。私はその椅子の上に倒れました。私はソームズ様があなた様の

所へお出かけになるまで、どんなことがあっても、そこから身動きいたしませんでした。

それから気の毒な年若のご主人が出て来ました。あの方は私の膝にすがり、全てをうちあ

けて下さいました。旦那様、私があの方をお助けするのは当然ではございませんか? そ

れにあの方の亡くなられたお父上がなさったようにお話しして、そんなことで利益を得る

ことはできないということをわかっていただこうとしたのも当然じゃございませんか?

それでも私のとがめにはなりますまい」

「いや、どうして、どうして!」ホームズは心から言って立ち上がった。「さて、ソーム

ズさん。これであなたの小さな問題も解決したようです。私どもも家では朝食がまってお

りますから。さ、行こうよ、ワトスン君! ああ、それからあなたにはローデシアですば

らしい未来がひらけるだろうと信じていますよ。一度は堕落なさったが、どうか今後、ど

んなに立派になられるか、私たちに見せて下さい」

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