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第二のしみ(5)

时间: 2024-02-20    进入日语论坛
核心提示:「うん、朝の間にゴードルフィン街へ行って、警視庁の連中とぶらぶら時間をつぶそう。われわれの問題の解決がエデュアルド・ルー
(单词翻译:双击或拖选)

「うん、朝の間にゴードルフィン街へ行って、警視庁の連中とぶらぶら時間をつぶそう。

われわれの問題の解決がエデュアルド・ルーカスにかかっているのだ。もっとも、それが

どういう形でかかっているかについては、いささかも感づいてはいないのだがね。事実に

先立って理論を組み立てるのは、ひどい間違いを起こすものだよ。ワトスン君、留守を頼

むよ、誰か訪問客があったら、よろしく。できれば昼食には戻ってくる」

 その日と次の日とその次の日と、ホームズは友だちから見ればむっつりとして見えよう

し、そうでないものが見れば気むずかしい人に見えたであろう。急いで出て行ったり、

帰って来たり、ひっきりなしに煙草を吸ったり、ヴァイオリンをかき鳴らしてみたり、物

思いに沈んだり、とんでもないときにサンドイッチをむさぼり食ったり、ときたま、何か

たずねてみても、ろくに返事もしなかった。彼がうまく問題を解決できないでいるのは明

らかだった。

 もっとも事件のことは何も言わなかった。死んだルーカスの執事が捕まったが、すぐ釈

放されたことなど、こまごまとした取調べの内容は、私はすべて新聞で知ったのである。

検屍陪審員は《故意の殺人》であるという明白な判決を下しただけで、犯人は前と同様わ

からなかった。動機が何かもつかめなかった。部屋には貴重品がたくさんあったのに、何

も取られていないのである。殺された男の書類にも手をつけていなかった。

 書類を注意深く調べてみると、ルーカスは国際政治の熱心な研究家で、飽くなき雑談家

であり、すぐれた語学者であり、そして疲れを知らずによく手紙を書く人であることがわ

かった。彼は数か国の指導的政治家と親密な関係を持っていた。しかし、抽出しいっぱい

の書類の中から、何も大騒ぎするほどのものは発見されなかった。女性関係はごたごたし

ていたが、深いものはないらしかった。彼は知り合いの者は多かったが、友だちはほとん

どなく、彼が愛した女などはなかった。規則正しい習慣をもち、日常の行動も目立たない

ものであった。彼の死はまったくの神秘で、おそらく未解決で残るのかもしれなかった。

 執事のジョン・ミトンの逮捕については、警察が何も行動をおこさないことの申しわけ

として、無理矢理に意図したものに過ぎなかった。しかし、この訴訟事実は確認されな

かった。あの晩、彼はハンマースミスに友人を訪ねていたのであるから、アリバイは完全

である。犯罪の行なわれる時刻の前に、ウェストミンスターに帰りつけるはずの時刻に友

人の家を出たのは事実だけれども、彼が途中の一部を歩いて帰ったので遅くなったという

彼自身の説明も、その夜がすっきりした、天気のよい夜であったのだから、充分考えられ

ることだと思った。実際、彼は十二時に帰った。そしてこの思いがけぬ悲劇に圧倒された

ようであった。彼は常に主人とは仲が良かったが、故人の持ち物のいくつかが……とく

に、小さな剃刀 かみそり の箱が……執事の箱の中から出てきた。しかし、それはルーカスからの

贈り物だと言い、家政婦もそのことを証言した。

 ミトンは三年間ルーカスに雇われていた。その間ルーカスは一度も彼を大陸に連れて行

かなかったというのは、注目すべきである。ときには彼は三か月、引き続いてパリに旅行

することがあったが、ミトンはゴードルフィン街の家に留守番に残された。家政婦につい

ては、その夜は、何ひとつ物音を聞かなかった。もし訪問客があったとすれば、主人が自

ら入れたものと思うという。

 私が新聞で読みとった限りでは、三日間というものは、事件の不可思議さは依然 いぜん 、残

されたままであった。ホームズがもっと多くを知っていたとしても、彼は自分の意見を秘

めて語らなかった。しかし、レストレイド警部が捜査の秘密を自分に打ちあけたとホーム

ズが語ったとき、彼が事件の発展に密接な関係を持っていることを知ったのである。四日

目にパリから長い電報がきたが、それによって、問題がすっかり解決してしまったように

思われた。

「デイリー・テレグラフ」は次のように報じている。

 ウェストミンスターのゴードルフィン街で、月曜の晩、惨殺されたエデュアルド・ルー

カス氏の悲劇的最期につきまとう秘密のヴェールをはぎとるような発見が、パリ警察に

よってなされた。

 読者は記憶されているだろうが、同氏は自室で刺し殺され、嫌疑 けんぎ はその執事にかかっ

たが、アリバイがあったため、釈放されたのである。

 ところが昨日、パリのオーステルリッツ街の小さな別荘に住むアンリ・フールネイ夫人

といわれる一婦人が発狂したと、召使いの者から当局へ報告があった。調べてみると、彼

女は危険な不治の狂人であることがわかった。また警察の調べによると、同人はこの火曜

日にロンドン旅行から帰って来たばかりで、ウェストミンスターの殺人と彼女とは関係の

あることが明らかとなった。

 すなわち写真の比較の結果、アンリ・フールネイ氏とエデュアルド・ルーカス氏は実際

は同一人物であり、同氏は理由があってか、ロンドンとパリで二重生活を送っていたので

ある。

 フールネイ夫人については、アメリカ生まれの黒人の血をひき、極端に興奮しやすい性

質で、過去において、嫉妬のあまり逆上したこともあった。ロンドンでセンセーションを

まき起こした犯罪も、その点で彼女がやったと推察されるわけである。

 彼女の月曜の夜の足どりは不明であるが、火曜日の朝、チャリング・クロス駅で、彼女

の人相に符合するような一婦人が、だらしのない恰好や、挙動が乱暴なために人目を引い

たということもある。それゆえ、同人が発狂時に犯行がなされたともいえるし、犯行に

よって発狂したとも考えられる。

 目下、彼女は過去の筋道の通った説明はできない状態であり、回復の望みはないと医師

は言っている。また月曜の夜、ゴードルフィン街の家を数時間見守っていた一婦人があっ

たという証言もあり、これがフールネイ夫人だったかも知れないのである。

「これをどう思う、ホームズ君」彼が朝食をすます間に、私はこの記事を声高に読んで

やった。

「ワトスン君」とホームズはテーブルを離れ、歩調正しく、部屋を行きつ戻りつしなが

ら、

「君はずいぶん辛抱しただろうが、この三日間、君に何も話さなかったのは言うことがな

かったからなんだよ。今でもパリからこんな電報が来ても、たいして役にたたないしね」

「でも、あの男の死に関することだけは決定的なものがあるよ」

「あの男の死なんか、この文書を発見して、ヨーロッパを破局から救うというわれわれの

真の仕事と比べたら、単なる出来事……些末 さまつ なエピソードに過ぎないのだよ。この三日

間にひとつ重要なことが起こったといえば、それは何も起こらなかったということだ。僕

はほとんど一時間おきに政府から報告を受けているが、ヨーロッパのどこにでも、トラブ

ルの起こりそうな徴候はない。

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