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グロリア・スコット号(5)_シャーロック・ホームズの回想(回忆录)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示: 息子よ、どうかあまり責めないでほしい。賭かけ事でこしらえた、いわゆる名誉の借金を清算せねばならず、つい出来心から会社の
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 息子よ、どうかあまり責めないでほしい。賭かけ事でこしらえた、いわゆる名誉の借金

を清算せねばならず、つい出来心から会社の金を流用したのだ。返すあてはあったから、

露見する前にもとどおりにしておくつもりだった。ところが、恐ろしい不運が重なって

な。入ってくるはずの金が入らなかったうえ、会計監査の予定が早まり、使いこみが発覚

してしまったのだ。言い渡された刑はきわめて重く、もう少し寛大でもよかろうにと思わ

ぬでもないが、三十年前の当時は法が今よりはるかに厳しかった。そんなわけで、二十三

歳の誕生日、わしは重罪人としてほかの三十七名の囚人とともに鎖につながれ、オースト

ラリアへ向かうバーク型帆船グロリア・スコット号の狭苦しい中甲板に押しこめられたの

だ。

 それはクリミア戦争まっただ中の一八五五年のことで、囚人護送船の大半は軍用輸送船

として黒海へ送られていた。そのため政府は、小型で専用設備のない船を囚人輸送にまわ

さざるをえなかった。グロリア・スコット号はかつて中国茶貿易で活躍していたが、船首

が重く船腹が広い時代遅れの船だったため、軽快なクリッパー型帆船が新たに登場したあ

とはお払い箱になっていたのだ。その五百トンの船には、三十八名の囚人のほかに二十六

名の乗組員、大尉一名と十八名の兵士、船長、三人の航海士、医者と教きよう誨かい師し

が一人ずつ、さらに四人の看守が乗船し、総勢百名近くでファルマスを出航した。

 通常の囚人護送船ならば、独房の仕切りは分厚いオーク材で造られているが、グロリ

ア・スコット号のものはもろくて薄っぺらだった。わしの独房の船尾側の隣に入っていた

男には、波止場で全員が集められたときから目を留めていた。ひげのない若者で、鼻び梁

りようが細く鼻筋が通り、頑丈そうな顎あごをしている。頭をそらして、意気揚々とふん

ぞり返るように歩き、おまけに身長が並外れて高い。肩まで届く者すら一人もいなかった

のではないか。おそらく六フィート半はあっただろう。ほかの囚人がそろって失意に打ち

のめされている中、その若者だけは不屈の闘志にあふれ、吹雪の中でかがり火を見つけた

思いだった。だから、隣の独房にいるのが彼だとわかったときは嬉うれしかったよ。真夜

中に耳もとで聞こえる誰かの声で目が覚め、仕切り板に彼が穴を開けたのだと知ると、さ

らに気分が明るくなった。

『よう、ダチ公、名前は? なにをやらかして、ぶちこまれた?』

 わしはそれに答えたあと、こっちも相手の名前を尋ねた。

『ジャック・プレンダーガストだ。おれさまと近づきになれたことを、じきに感謝するよ

うになるぜ』

 彼がどんな事件を起こしたかは知っていた。ちょうどわしが逮捕される直前に国中を騒

然とさせた大事件だったからな。家柄が良く、才能もあるのに、悪事ばかり働く救いがた

いほどのならず者で、巧妙な詐欺によってロンドンでも指折りの商人たちから巨額の金を

だましとったのだ。

『おまえ、おれの事件を覚えてるだろう?』プレンダーガストは得意げな口調だった。

『ああ、よく覚えてる』

『じゃあ、あの事件はどこかおかしいと気づいたんじゃないか?』

『どういうことだ?』

『おれは二十五万ポンドばかりせしめただろう?』

『らしいな』

『ところが、金はびた一文、押収されなかった』

『そうだったな』

『ふふん、金はどこへ行っちまったと思う?』

『さあな』

『こっちの懐にしっかり残ってるのさ。おれが持ってる金は、おまえの頭の毛より多いん

だ。よく聞けよ、ダチ公。金がたんとあって、その使い方とばらまき方を心得てりゃ、で

きないことはひとつもねえんだ! そのおれさまが、ネズミやゴキブリがうろちょろする

中国航路のかび臭いおんぼろ船で、監獄に座ったままいつまでもズボンの尻しりをすり切

らせてると思うか? いいか、おれのような人間は自分で自分の面倒をみるし、ダチ公ど

もの面倒もみられる。だから悪いことは言わねえ、そういう人間にすがりついとけ。聖書

に誓っておれをあがめれば、必ず救いだしてもらえるさ!』

 そんな調子だったので、初めのうちはてっきり大口を叩たたいているのかと思った。だ

がしばらくして、わしを信用できると見こんだのか、仰々しい誓いを立てさせたあと、実

はこの船を乗っ取る計略が進行中なのだと明かした。十数名の囚人で乗船前から企たくら

んでいたらしい。首謀者はプレンダーガストで、彼の隠し金が軍資金だった。

『頼りになる相棒がいるんだ。最高にいいやつだぜ。おれたちは銃身と銃床みてえに一心

同体だ。金はそいつに預かってもらってる。で、その相棒は今どこにいると思う? この

船だよ。教誨師になりすましてるのさ! 黒い服で化けて、身分証明書をきちっとそろ

え、竜骨からメインマストまでそっくり買えるだけの大金をこっそり持ちこんでな。乗組

員は全員手なずけてある。現ナマを気前よくはずんで買収したってわけよ。あいつらが船

員契約にサインする前にな。看守二名と二等航海士のマーサーにもしっかり鼻薬を嗅かが

せてある。味方に引き入れる価値があると判断すりゃ、船長だって抱きこむだろうよ』

『じゃあ、おれたちはなにをするんだ?』わしは訊きいた。

『そう、それだよ。ここに乗ってる兵隊を血で真っ赤っかにしてやるのさ。軍服よりも濃

い色にな』

『だが、向こうは銃を持ってる』

『ダチ公よ、おれたちだって持ってるんだぜ。一人につき二挺ちようずつピストルが行き

渡る算段だ。乗組員を味方につけてるのに船を乗っ取れねえなら、男じゃねえだろう。女

学校の寄宿舎にでも入れってんだ。今夜、左隣の仲間に話しかけて、あてになる男かどう

か探っておけ』

 言われたとおりにすると、その囚人はわしとよく似た境遇の若者だった。偽造罪でつか

まったそうだ。本名はエヴァンズだが、のちにわしと同じように名前を変え、現在は南イ

ングランドで悠々自適に暮らしている。助かる道はほかにないからと、彼も陰謀に加担し

た。そんなこんなで、湾を出る頃には、秘密を知らされていない囚人は二人だけになって

いた。一人は頭が弱いので足手まといと判断され、もう一人は黄おう疸だんを患っていて

使い物にならないからだ。

 船の乗っ取りを阻むものは初めからなにひとつなかった。乗組員はこのたくらみのため

に選ばれた悪党ばかりだ。プレンダーガストの相棒だという偽教誨師は、宗教のパンフ

レットが入っているふりをして黒かばんを持ち歩き、独房を説教して回った。それをまめ

に繰り返したので、三日目には囚人全員がやすり一本とピストル二挺、火薬一ポンド、さ

らに弾丸二十発を各自のベッドの裾すそに隠していた。看守のうち二人はプレンダーガス

トの味方で、二等航海士にいたっては腹心の部下だった。残る敵は船長と航海士二人、看

守二人、マーティン大尉率いる十八人の兵隊、それから船医が一人だけだ。むろん、どれ

だけ有利な態勢であろうと油断せず万全を期し、夜中に奇襲をしかけることになってい

た。ところが、突発事態により、決行の時期が思いがけず早まってしまったのだ。

 詳しく書こう。出航して約三週間後のある晩、病気になった囚人を診察に来た船医が、

ふとベッドの裾に手を置いて、ピストルに感づいたのだ。船医が何食わぬ顔で独房を出て

いたら、乗っ取り計画は頓とん挫ざしていたかもしれん。しかし臆おく病びようだったせ

いで船医はあっと叫び、顔面蒼白になった。囚人はすぐさま事情を察知して相手を押さえ

つけた。船医はまわりに急を告げる間もなく猿ぐつわを嚙かまされ、ベッドに縛りつけら

れた。

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