「そうでしたか!」ホームズはにこにこして言った。「あれは実に危険で向こう見ずな犯
行でしたから、あなたの家に侵入したのはおそらくアレックのほうでしょう。重要な書類
は見つからなかったので、普通の強盗に見せかけて自分から疑いをそらすため、手当たり
次第にそのへんの物を盗んでいったのです。というわけで、アクトン事件についてははっ
きりしましたが、まだ薄ぼんやりしている部分がたくさんありました。とりわけ紙切れの
残りになにが書いてあるのか、どうしても知りたいと思いました。あれを被害者の手から
引きちぎったのはアレックですから、とっさに着ていたガウンのポケットに突っこんだに
ちがいありません。ほかにどうしようもないでしょうしね。問題はまだポケットにあるか
どうかですが、探してみる価値はあります。それが皆さんとあの家へ出かけていった目的
だったのです。
覚えておいででしょうが、台所の外にいたところ、カニンガム親子がやって来ました。
当然、彼らには絶対に紙切れのことを思い出させてはなりません。ただちに処分してしま
うに決まっていますので。危うく警部が紙切れが重要な手がかりだと漏らしそうになった
のですが、僕が発作のふりをして倒れたので話題がそれ、幸い事なきを得ました」
「なんとまあ!」大佐は笑いながら言った。「あの発作は芝居だったんですか? いや
あ、心配して損をしましたよ」
「医者もだまされたほど、真に迫るあっぱれな演技だったよ」私はあきれてホームズを見
た。まったく彼ときたら、次々と新しい技をあみだしては私を面食らわせる。
「この技はけっこう役立つんですよ」ホームズは言った。「発作がおさまったふりをする
と、再び策略をめぐらせて、今度はカニンガム老人に twelve の単語を書かせました。紙
片にあった twelve と比較するためです」
「まいったな! ちっとも気づかなかったよ!」私は思わず叫んだ。
「僕が書きまちがえたんだと思って、心配しただろう?」ホームズが笑いながら言った。
「僕のために胸を痛めているきみが、気の毒でならなかったよ。
さて、そのあと全員で二階へ上がり、寝室へ行きましたね。あのとき化粧室のドアの裏
にガウンがかけてあるのに気づいたので、わざとテーブルを倒してカニンガム親子の注意
を引きつけ、その隙にこっそりガウンのポケットを調べに行ったのです。予想どおり紙切
れはそこにありました。
が、それを手に入れた瞬間、カニンガム親子が飛びかかってきたのです。あのときあな
た方が急いで駆けつけてくれなかったら、僕はまちがいなく殺されていたでしょう。カニ
ンガムの息子に絞められた喉のどはいまだにずきずきしますよ。父親までが紙切れをもぎ
取ろうと僕の手首をねじあげていました。連中はもうだいじょうぶと安心しきっていただ
けに、僕にすべて見破られたと知って自暴自棄になり、化けの皮がはがれたというわけで
す。
あのあとカニンガム老人に犯行の動機を問いただしました。老人は神妙にしていました
が、息子のほうは根っからの悪党ですよ。リヴォルヴァーを取り戻したら、今だって自分
か他人の頭を吹き飛ばしかねません。老人はもはやこれまでと観念し、洗いざらい白状し
ました。
真相はどうやらこういうことのようです。親子がアクトン家に侵入した晩、御者のウィ
リアムがこっそりあとをつけて、二人の秘密を握り、ばらされたくなかったら言うことを
聞けと恐喝した。しかし、いかんせん相手が悪かった。アレック・カニンガムは実に危険
な人間ですからね。悪賢いあの男は地元の強盗騒ぎを利用して、脅威である相手をうまい
こと始末する方法を考えた。そしてウィリアムはおびきだされ、射殺されたのです。ウィ
リアムが手紙の切れ端を握っていなかったら、そしてカニンガム親子がもっと細かく注意
を払っていたら、誰にも疑いを持たれることはなかったでしょう」
「で、手紙にはなんと?」私は訊きいた。
ホームズは残りの部分をつなぎつなぎ合わせ、私たちの前に広げた。
「予想どおりの文面でした」とホームズ。「もっとも、アニー・モリスンがアレック・カ
ニンガムやウィリアム・カーワンとどういう関係かはまだわかりませんがね。結果を見れ
ば、この手紙の罠わなにウィリアムはまんまと引っかかったわけです。どうです、〝p〟や
〝g〟のしっぽに遺伝的特徴がよく表われていると思いませんか? 父親のほうは〝i〟の点
が抜けるという明確な癖もありますね。
ワトスン、田舎での静養は効果てきめんだったよ。おかげで明日あしたには、元気はつ
らつとしてベイカー街へ帰れるだろう」