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背中の曲がった男(2)_シャーロック・ホームズの回想(回忆录)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示: バークリー大佐の家庭生活はこれまで順風満帆だった。僕にいろいろと情報を授けてくれたマーフィー少佐によれば、大佐夫妻が不
(单词翻译:双击或拖选)

 バークリー大佐の家庭生活はこれまで順風満帆だった。僕にいろいろと情報を授けてく

れたマーフィー少佐によれば、大佐夫妻が不仲だという噂は一度も聞いたことがないそう

だ。少佐の見るかぎりでは、伴はん侶りよに対する愛情の度合いは夫人よりバークリー大

佐のほうが強かったらしい。夫人が一日中外出するときは、大佐は落ち着かない様子だっ

たという。一方、夫人は貞淑で献身的な妻ではあったが、夫のように愛情をおおっぴらに

表現するようなことはない。それでも二人は連隊の誰もがあこがれる理想的な中年夫婦

で、今回のような悲劇を予感させるものはひとつもなかったんだ。

 ただ、バークリー大佐はちょっと複雑な性格だったようでね。普段はいかにも闊かつ達

たつで陽気な軍人だが、たまに粗暴になって、執念深さをあらわにしたそうだ。といって

も、それが夫人に向けられることは一度もなかった。もうひとつ、マーフィー少佐が気に

なっていた面がある。これは僕が話を聞いたほかの将校五人のうち三人も異口同音に言っ

ていたことなんだが、バークリー大佐はときおりむっつりとふさぎこんでいた。マー

フィー少佐の表現を借りれば、まるで見えない手に払い落とされたかのように、口もとか

ら笑いがふっと消えることがたびたびあったらしい。たとえば将校仲間とにぎやかに語

らったり、冗談を言ってふざけ合ったりしている最中などにね。いったんふさぎの虫に取

りつかれると、何日間も鬱うつ々うつと沈みこんでいた。このほか迷信深かったことも、

将校仲間が奇妙に感じていた点だ。とりわけ日が沈んで暗くなってからは、一人でいるの

をいやがったそうだから、奇妙といえば奇妙だね。そういう子供じみた恐怖は勇ましい軍

人にはまるでそぐわないので、しばしば周囲の噂や憶測を呼んでいた。

 ロイヤル・マロウズ歩兵隊の第一大隊、すなわち旧第百十一部隊は、オルダーショット

に数年前から駐留している。妻帯者の将校は兵舎の外に居をかまえるため、バークリー大

佐は北兵舎から半マイルほどのところに建つラシーン荘という別荘風の家に住んでいた。

まわりを庭に囲まれた家だが、敷地の西側は街道から三十ヤードと離れていない。使用人

は御者が一人にメイドが二人。ラシーン荘に住んでいるのはこの三人の使用人と主人夫婦

の五人だけだ。バークリー夫妻に子供はなく、長逗とう留りゆうの客もめったになかった

そうだ。

 さて、ではいよいよ問題の月曜の晩の九時から十時にかけて、ラシーン荘でなにが起

こったかを話そう。

 バークリー夫人はローマ・カトリック信者のようで、聖ジョージ組合の活動に熱心に参

加していた。これは貧しい人々に古着を配ることを目的に、ワット街礼拝堂の協力で設立

された慈善団体だ。事件の晩はその会合が八時に開かれる予定だったので、夫人は急いで

夕食を済ませた。御者の話によると、出かける前の夫人はいつもと変わらぬ様子で、遅く

ならないうちに戻りますと夫に告げていたそうだ。夫人はそのあと隣の家に住む若いモリ

スン嬢を訪ね、連れ立って会合へ向かった。会合は四十分ほどで終わり、バークリー夫人

はモリスン嬢と帰途に着いて九時十五分前に自宅へ戻った。

 ところで、ラシーン荘のモーニング・ルーム( 訳注:昼間に使う居間 )は道路に面していて、

ガラスの大きな両開きドアから芝生に出られるようになっている。芝生は三十ヤードほど

の広さで、その向こうの街道とのあいだには鉄てつ柵さくのついた低いレンガ塀があるだ

けだ。バークリー夫人は帰宅するとまっすぐこの部屋へ行った。夜はめったに使わない部

屋なので、窓のブラインドは閉まっていなかった。夫人は自分でランプをつけたあと呼び

鈴を鳴らし、メイドのジェーン・スチュワートにお茶を持ってくるよう言いつけた。これ

は夫人の習慣とはまったくもって異なる。大佐はダイニングルームにいたが、妻が帰って

きた音に気づき、モーニング・ルームへ向かった。大佐が廊下を横切ってその部屋へ入る

のを、御者が見ている。それが生きている大佐の見納めとなった。

 それから十分ばかりのち、メイドがお茶を運んでいった。ところが部屋に近づくと、

びっくりしたことに室内から主人夫婦の激しい口論が聞こえてきた。ドアをノックしたが

返事はない。ノブを回してみると、内側から鍵がかかっていた。そこで、ただちに女の料

理人のところへ行って事情を伝えた。そのあとメイドと料理人は御者と一緒にモーニン

グ・ルームの前へ駆けつけた。口論はおさまる気配がなかった。使用人たちは三人とも、

聞こえたのは二人の声だけで、バークリー夫妻のものにまちがいないと証言している。

 大佐のほうは早口で押し殺した声だったため、なんと言っているかはわからなかったそ

うだ。だが夫人のほうはかなり辛しん辣らつな口調で、声が甲高くなったときは内容まで

はっきりと聞こえた。『卑ひ怯きよう者!』と、ののしり言葉が何度も飛びだしたそう

だ。『どうしてくれるのよ。わたしの人生を返して。あなたと同じ空気を吸うのはもう一

秒だって耐えられない! 卑怯者! 卑怯者!』

 こんな調子で夫人の言葉が断片的に聞こえていたと思ったら、いきなり身の毛がよだつ

ような男の叫び声が響いた。続いてガチャンという音、さらには耳をつんざくような女の

悲鳴。

 これは一大事と、御者はドアに飛びついてなんとか開けようとした。そのあいだも中で

は繰り返し悲鳴があがっている。けれども御者はどうしてもドアを開けることができず、

料理人とメイドもおびえきって手を貸すどころではない。そのとき、御者は別の方法を思

いついた。玄関から外へ走りでて芝生をまわりこみ、モーニング・ルームの大きなフラン

ス窓へ向かったんだ。夏だから当然なんだろうが、ガラス扉は片方だけ開いていた。御者

はそこをすぐさま通り抜けて部屋へ入った。悲鳴はすでにやみ、女主人は寝椅子の上で気

絶していた。主人はというと、肘ひじ掛かけ椅子の横に足を斜めに投げだして倒れ、頭は

暖炉の炉格子に近い床に横たえていた。不運な軍人は、自身の血だまりの中で完全に事切

れていたんだ。

 主人がもはや手のほどこしようのない状態だとわかると、当然ながら御者が次に考えた

のは廊下のドアを開けることだった。ところが思わぬ事態にぶつかり、簡単には行かな

かった。鍵かぎはドアの内側に差しこまれておらず、室内を探してもどこにも見あたらな

かったのだ。そこで御者はフランス窓から外へ出て、警察と医者を呼んで引き返した。言

うまでもなく真っ先に疑われたのはバークリー夫人だが、気を失ったままひとまず自室へ

運ばれた。大佐の死体はソファに移され、悲劇の現場が隅々まで捜査された。

 バークリー大佐の致命傷は後頭部にあった長さ二インチほどのぎざぎざの裂傷で、鈍器

によって殴打されたことは明らかだった。用いられた凶器の特定も難しくなかった。とい

うのも、死体のそばの床に、骨の柄がついた、彫刻をほどこしてある硬い木製の風変わり

な棍こん棒ぼうが転がっていたんだ。大佐は戦場から持ち帰った世界各地の珍しい武器を

蒐しゆう集しゆうしていてね。その棍棒も大佐の戦利品の中にあったものだろうと警察は

推測した。使用人たちは見覚えがないと否定したが、邸内には珍しいコレクションがたく

さんあるから、見過ごされていたとしても不思議はない。警察が室内をくまなく探した

が、ほかに事件と関わりのありそうな物はなにも見つからなかったよ。部屋の鍵のありか

はとうとうわからずじまいで、バークリー夫人も被害者も身につけていなかったという不

可解な謎を除けばね。結局、ドアは地元の錠前屋を呼んで開けさせた。

 僕は火曜日の朝、マーフィー少佐の依頼を受けて、警察の捜査を支援するためオルダー

ショットまで出かけていったんだが、その際の現地の状況はこれで全部だ。ワトスン、興

味深い事件だということは充分わかってもらえたと思うが、僕は実際に自分の目で確認し

て、これは一見しただけではわからない実に奇々怪々な事件だと悟ったよ。

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