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入院患者(4)

时间: 2024-02-01    进入日语论坛
核心提示: ブレッシントンは私たちを寝室へ案内した。広々として快適そうな部屋だった。「これをご覧ください」そう言って部屋の主が指し
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 ブレッシントンは私たちを寝室へ案内した。広々として快適そうな部屋だった。

「これをご覧ください」そう言って部屋の主が指したのは、ベッドの裾すそに置いてある

大きな黒い金庫だった。「ホームズさん、わたしはたいして金持ちではありません。トレ

ヴェリアン先生がよくご存じですが、投資も今回が生まれて初めての経験でしてね。しか

し銀行は信用できん。どうしても信用する気になれんのです。それで、ここだけの話です

がね、わずかばかりの財産をこの金庫にしまってあるんですよ。知らないやつらが部屋に

忍びこんだとわかったとき、取り乱したのはそういうわけでして」

 ホームズはさも疑わしげにブレッシントンを見てから、かぶりを振った。

「僕をだまそうとする人の相談になど応じられませんね」きっぱり言い渡した。

「なにをおっしゃる。包み隠さずお話ししましたよ」

 ホームズは不機嫌そうに背中を向けた。「ではこれで失礼します、トレヴェリアン先

生」

「助言はいただけないんですか?」ブレッシントンがかすれ声で叫ぶ。

「真実を話しなさい、という助言を差しあげます」

 一分後、私たちは通りに出て徒歩で家路に着いた。オックスフォード街を横断し、ハー

レー街を半ばまで進んだとき、ホームズがようやく口を開いた。

「あんなくだらない用事につきあわせて、すまなかったね、ワトスン。根底の部分はなか

なかおもしろい事件なんだが」

「私にはどんな事件なのか、さっぱりわからないよ」正直に言った。

「はっきりしているけどね。まず、なんらかの動機からブレッシントンに危害を加えよう

としている男が二人いる。本当はもっと多いだろうが、少なくとも二人だ。例の二人組は

医院を二度にわたって訪れたが、二度とも若い男のほうがブレッシントンの部屋へ侵入し

たにちがいない。もう一人がトレヴェリアンをうまいこと引き止めているあいだにね」

「じゃ、カタレプシーは?」

「仮病だったんだよ、ワトスン。専門家であるトレヴェリアンの前では言いにくかった

が、あの病気のふりをするのはいとも簡単だからね。僕も以前やったことがあるよ」

「それで?」

「たまたまブレッシントンは二度とも散歩に出かけていた。二人組が診察を受けるには遅

い時刻にやって来たのは、その頃なら待合室にはもうほかの患者はいないだろうと思った

からだ。ところが、偶然にもそれはブレッシントンが留守のときと重なった。連中はブ

レッシントンの生活習慣をよく知らなかったらしいね。目的がただの盗みなら室内に物色

した跡があるはずなのに、見あたらなかった。それにブレッシントンの目を見れば、身の

危険におびえていることくらいすぐにわかる。あれほど執念深い敵が二人もいながら、そ

れに気づかないなんてことはあるはずがない。よって、あの男は二人の正体を知っている

が、なにかの理由でそれを隠している、と結論づけたわけだ。ま、明日になれば、洗いざ

らいしゃべる気になるだろう」

「別の解釈も成り立つんじゃないかな」と私は言ってみた。「途方もなくばかげた考えだ

が、絶対にないとは言いきれないと思うんだ。ひょっとしたら、カタレプシーのロシア人

が息子と訪ねてきたというのは全部トレヴェリアン医師の作り話で、本当は彼がブレッシ

ントンの部屋へ忍びこんだ張本人かもしれないよ」

 ガス灯の明かりの中で、ホームズが私のうがった意見ににやりとするのが見えた。

「ワトスン、実を言うとね、僕も初めはそう考えたんだ。だがすぐに作り話ではないと確

信した。階段の絨毯に残っていた足跡がなによりの証拠だ。部屋の中を見せてもらうまで

もなかったんだよ。いいかい、ブレッシントンの靴は爪つま先さきが細かったが、足跡の

爪先は角張っていた。それに大きさもトレヴェリアン医師の足よりゆうに一インチと三分

の一は上回っていた。これできみも、別の人物が実在していたことに納得が行っただろ

う? さあ、今日はもう休もうじゃないか。朝になれば、ブルック街からまたなにか知ら

せてくるはずだ」

 間もなくホームズの予言どおりになった。それも劇的な形で。翌朝七時半頃、朝日が

うっすらと射し始めたとき、気がつくとホームズがガウン姿で私のベッド脇に立ってい

た。

「迎えの馬車が来たよ、ワトスン」

「どうしたんだい?」

「ブルック街の事件だ」

「なにか動きがあったのか?」

「悪いことが起きたようだが、詳しいことはわからない」ホームズは窓のブラインドを上

げた。「これを見てくれ。手帳から破り取った紙だ。〝お願いします、すぐに来てくださ

い。P・T〟と鉛筆で走り書きしてある。トレヴェリアン先生はお取りこみ中だったらし

い。行くぞ、ワトスン。緊急事態だ」

 私たちは十五分と経たないうちに再びトレヴェリアンのもとへ駆けつけた。当人が恐怖

に引きつった顔で出迎えた。

「ホームズさん、大変なことに!」トレヴェリアンはこめかみを両手で押さえて叫んだ。

「なにがあったんです?」

「ブレッシントンが自殺しました!」

 ホームズは短く口笛を吹いた。

「夜中に首を吊つったんです」

 トレヴェリアンは私たちを明らかに待合室とわかる部屋へ案内した。

「いったいどうすればいいんでしょう」トレヴェリアンは悲痛な声で言った。「警察は二

階にいます。なんて恐ろしいことだろう」

「発見したのはいつですか?」

「彼はいつも朝早く部屋へお茶を運ばせていました。それで七時頃、メイドが部屋の真ん

中で首を吊っている彼を発見したんです。普段は重いランプをかけている天井の鉤はりに

ロープを結わえつけ、昨日ご覧になった金庫から飛び降りたようです」

 ホームズは少しのあいだじっと考えこんだ。

「さしつかえなければ」とおもむろに切りだした。「二階へ上がって現場を見たいのです

が」私たちはトレヴェリアンのあとについて階段をのぼった。

 寝室へ一歩入ったとたん、ぞっとする光景が目に飛びこんできた。ブレッシントンの身

体はたるんだ感じだったとすでに話したが、鉤からぶら下がっているとそれがよけい強調

され、やけにだらんとして見え、とても人間の姿とは思えなかった。首は羽をむしられた

鶏のように細く伸びきっているため、それ以外の部位が不気味なほど膨張して見える。身

につけているのは丈の長い寝間着だけで、裾の下からぱんぱんに腫はれあがったふくらは

ぎと不ぶ恰かつ好こうな足が突きだしている。死体のかたわらに明敏そうな警部が立っ

て、手帳になにか書きこんでいた。

「やあ、ホームズさん」警部は入ってきたホームズに愛想よく挨拶した。「お会いできて

光栄です」

「おはよう、ラナー警部。お邪魔でないといいんだが。こういう事態になるまでのいきさ

つは聞いているかい?」

「はい、だいたいは」

「きみの見解は?」

「おそらく恐怖で頭がおかしくなったんでしょう。ご覧のとおり、ベッドには寝た形跡が

あります。身体の重みでくぼんでいますからね。言うまでもなく、自殺は明け方の五時前

後が一番多いんです。この男が首を吊ったのもだいたいその時刻でしょう。覚悟のうえの

自殺と思われます」

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