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海軍条約文書(11)

时间: 2024-02-13    进入日语论坛
核心提示:「ハドスン夫人は機転の利く人でね」ホームズがそう言いながら皿の蓋ふたを取ると、カレー味のチキンが現われた。「料理のレパー
(单词翻译:双击或拖选)

「ハドスン夫人は機転の利く人でね」ホームズがそう言いながら皿の蓋ふたを取ると、カ

レー味のチキンが現われた。「料理のレパートリーはそれほど多くないが、朝食のアイデ

アはスコットランドの女性に負けないくらい豊富なんだ。ワトスン、きみの料理はなん

だった?」

「ハムエッグだよ」私は答えた。

「よかったじゃないか! フェルプスさんはなにを召しあがります? チキン? 卵?

ご自分で好きなのをお取りになりますか?」

「せっかくですが、なにもほしくないんです」フェルプスは答えた。

「まあまあ、そう言わず、あなたの前にある料理をぜひお試しください」

「すみません、どうしても無理なんです」

「そうですか、それじゃあ」ホームズはいたずらっぽく瞳ひとみを輝かせた。「代わりに

僕がもらってもかまいませんね?」

 フェルプスは料理の蓋を取った。とたんに鋭い叫び声をあげ、皿と同じくらい蒼そう白

はくな顔で目の前のものを見つめた。皿の真ん中には、灰色の丸めた書類がのっていた。

フェルプスはそれを手に取ると、むさぼるように眺めてから胸にしっかりと抱きしめ、嬉

うれしさに奇声を発しながら部屋の中をぴょんぴょんはね回った。やがて興奮しすぎたせ

いで急に肘ひじ掛かけ椅子に倒れこみ、ぐったりとしてしまった。ホームズと私は気付け

薬代わりにブランデーを喉のどに流しこんでやった。

「さあ、ほら、しっかり!」ホームズはフェルプスの肩を優しく叩たたいて言った。「あ

なたにはちょっと刺激が強すぎたようですね。ここにいるワトスンがよく知っています

が、僕はついつい、こういう芝居がかったことをやってしまうんですよ」

 フェルプスはホームズの手を握りしめ、キスをした。「本当になんてお礼を言ったらい

いか! あなたのおかげでわたしの名誉は守られました」

「いやいや、実は僕自身の名誉も風前の灯ともしびでした」ホームズは言った。「あなた

が任務の遂行に失敗するとおつらいように、僕も事件の捜査に失敗すると悔しくてたまら

ないんです」

 フェルプスは大切な文書を上着の一番奥の内ポケットにしまった。

「これ以上あなたの朝食を邪魔したくないんですが、これをどこでどうやって取り戻した

のか、早く知りたくてうずうずしています」

 ホームズはコーヒーを飲み干し、ハムエッグをたいらげると、テーブルから立ちあがっ

てパイプに火をつけ、いつもの椅子に腰を下ろした。

「まずは僕のやったことをお話しします。そのあとで、なぜそういう行動を取ったか説明

しましょう」と前置きして、ホームズは語り始めた。

「駅であなた方と別れてから、サリー州の美しい景色の中で散歩を楽しみながら、リプ

リーという小さな村に着きました。そこの宿屋でお茶を飲んだあと、水筒をいっぱいにし

て、サンドイッチをひと包みポケットに入れました。そして夕方になると、再びウォーキ

ングへと出発したのです。ちょうど日が暮れた直後にブライアブレイ荘の脇を通る街道に

到着しました。

 それから、あたりに人けがなくなるのを待って──もともと人通りのあまり多くない道で

すが──柵さくを乗り越えて敷地の中へ入りました」

「門は開いていたはずですが」フェルプスがふいに口をはさんだ。

「ええ、開いていました。しかし、今回は一風変わった趣向が必要だったんですよ。柵を

よじのぼるときは三本の樅もみの木が立っている場所を選びました。木の裏に隠れれば、

家の中にいる人から見られずに済むからです。敷地内に下りると、すぐに藪やぶの陰にか

がみ、そこからは藪から藪へ四つんばいで進みました。ご覧ください、おかげでズボンの

膝ひざはこのありさまです。やがて、あなたの寝室の窓と向かい合っているシャクナゲの

茂みにたどり着きました。あとはそこにしゃがんで、事態の展開を待つだけです。

 窓の鎧よろい戸どは閉まっていなかったので、ハリスン嬢がテーブルのそばに座って読

書しているのが見えました。十時十五分、彼女は本を閉じて部屋を出ていきました。ドア

の閉まる音に続き、鍵をかける音がはっきりと聞こえました」

「鍵を?」フェルプスが驚いた。

「そうです。ハリスン嬢に、夜ご自分の寝室へ行くときはあの部屋のドアを外側から施錠

し、鍵は決して手放さないよう頼んでおいたのです。彼女は僕の指示どおり正確に行動し

てくれました。今あなたの上着のポケットに文書がおさまっているのは、彼女の協力が

あったからこそです。さて、ハリスン嬢が出ていって、部屋は真っ暗になりましたが、僕

は窓の外のシャクナゲの茂みでしゃがみ続けていました。

 気持ちのいい晩とはいえ、やはり寝ずの番というのはきついものです。もちろん、川辺

に潜んで大きな獲物を待つ狩猟家のように気分は高揚していましたが、なにしろ長期戦で

すからね。ワトスン、《まだらのひも》事件のとき、二人で例の辛気くさい部屋で張りこ

んだことがあったろう? あれに匹敵する長さだったよ。それはともかく、ウォーキング

の教会の時計が十五分おきに打っていましたが、それが止まってしまったんじゃないかと

何度も思いました。しかし、午前二時頃になってようやく、ボルト錠をそっとはずすかす

かな音と、鍵がきいっと回る音が聞こえました。その直後、勝手口の扉が開いて、月明か

りの中にジョゼフハリスンが姿を現わしました」

「ジョゼフが!」フェルプスが思わず叫んだ。

「帽子はかぶっていませんでしたが、黒いマントを肩に引っかけていました。いざという

ときはすぐに顔を隠せるようにしていたわけです。彼は家の影づたいに忍び足で進み、問

題の寝室の窓まで来ると、窓枠に刀の長いナイフを差しこんで掛け金をはずしました。窓

を開けると、今度は鎧戸の隙間にナイフを突っこんでかんぬきを持ちあげ、鎧戸も開けま

した。

 僕のいる場所からは室内をすっかり見渡すことができ、ハリスンがなにをやっているか

もすべてわかりました。まず彼はマントルピースの上の二本のろうそくに火をつけ、ドア

のほうへ移動し、床の絨じゆう毯たんの角をめくりました。そして、その場にしゃがんで

床板を一枚持ちあげました。配管工がガス管の継ぎ目を点検する際にはずせるよう、床の

一部を四角く切ってあるのです。その部屋では板の下にT字形の継ぎ手があり、一本は台

所の下まで伸びています。ハリスンはその隠し場所から小さな丸まった書類を取りだす

と、床板をはめて絨毯をもとどおりにしました。最後にろうそくを吹き消し、窓の下で待

ちかまえていた僕のほうへまっすぐ飛びこんできたというわけです。

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