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最後の事件(4)_シャーロック・ホームズの回想(回忆录)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示: もう一度あたりを見渡してから車室へ戻ると、貸し切りの札がかかっているのにポーターがまちがえて案内したのか、さっきのよぼ
(单词翻译:双击或拖选)

 もう一度あたりを見渡してから車室へ戻ると、貸し切りの札がかかっているのにポー

ターがまちがえて案内したのか、さっきのよぼよぼの司祭が澄ました顔で座っていた。こ

こは貸し切りですよと説明しようにも、私のイタリア語は相手の英語よりもおぼつかな

い。しかたなく肩をすくめて座席に腰かけ、そわそわしながら窓の外にホームズを探し続

けた。まだ現われないということは、昨夜あれからまた襲われたのではないだろうか。そ

う考えると背筋が寒くなった。とうとう列車のドアはすべて閉められ、発車のホイッスル

が鳴り渡った。そのとき──

「やあ、ワトスン」と呼ぶ声がした。「つれないじゃないか。おはようも言ってくれない

のかい?」

 私はぎょっとして振り向いた。目の前にあったのは老いた聖職者の顔だ。と思ったら、

たちまち顔のしわが消え、垂れていた鼻は上を向き、突きでた下唇は引っこんで口ももぐ

もぐと動くのをやめた。とろんとした目は輝きを取り戻し、曲がっていた背中もぴんと伸

びている。だが次の瞬間にはすべてが崩れて再び老いさらばえ、ホームズは出現したとき

と同様に一瞬で消えた。

「びっくりしたなあ!」私は思わず叫んだ。「まさかきみだったとは!」

「まだ油断はできないよ」ホームズは声をひそめた。「やつらは躍起になってあとを追っ

てきているからね。おっと、モリアーティじきじきのお出ましだ」

 汽車はすでに動きだしていた。プラットホームを振り返ると、背の高い男が人込みを乱

暴にかきわけながら進み、腕を振って汽車を止めようとしている。だがもう遅い。われわ

れを乗せた汽車はどんどん速度をあげ、あっという間に駅から遠ざかった。

「あれだけ用心しても、ぎりぎりだったんだからなあ」ホームズは笑いながら言った。そ

のあと黒い司祭服と帽子を脱いで変装を解き、それらを手提げかばんにしまった。

「ワトスン、朝刊を見たかい?」

「いいや」

「じゃあベイカー街のことはまだ知らないんだね?」

「なにかあったのかい?」

「昨夜、あの部屋に放火されたんだ。被害はたいしたことなかったようだが」

「なんだって! まったくひどいやつらだ」

「棍棒の男が逮捕されたあと、僕の足取りを見失ったんだろう。でなければあそこに放火

するはずがない。僕が自宅に戻っていると思ったんだよ。だがモリアーティがヴィクトリ

ア駅に現われたということは、きみを用心深く見張っていたにちがいない。ここへ来る途

中、へまはしなかったろうね?」

「きみに言われたとおりにやったよ」

「四輪箱馬車はいたかい?」

「ああ、ちゃんと待っていた」

「御者が誰だかわかったかい?」

「いいや」

「兄のマイクロフトだよ。こういうときは金で動く人間に頼むわけにはいかないからね。

しかし、結局はモリアーティに見つかってしまった。これからどうすべきか、じっくり策

を練らないといけないな」

「これは急行列車で、しかもちょうど船と接続しているんだから、もう追っ手を振りきっ

たと考えていいんじゃないか?」

「ワトスン、よく考えてごらん。モリアーティは僕にまさるとも劣らない頭脳明めい晰せ

きな男なんだよ。もし僕が追っ手だったら、これしきのことで旗を巻くと思うかい? 思

わないだろう? なのになぜモリアーティのことは過小評価するんだい?」

「じゃあ、やつはどうするだろう?」

「同じ立場だったら僕がやりそうなことをやる」

「きみならどうする?」

「臨時列車を手配する」

「もう間に合わないだろう」

「いや、それが間に合うんだよ。この汽車はカンタベリーで停車するし、船との乗り継ぎ

時間は最低十五分あるから、そこでわれわれに追いつくだろう」

「なんだかこっちが犯罪者みたいだな。警察を張りこませて、やつがわれわれに追いつい

たところで逮捕させたらどうだい?」

「それでは三カ月間の努力が水の泡だ。大魚をとらえても、小魚はいっせいに網の目をく

ぐり抜けて逃げてしまう。月曜日に一網打尽にしたいから、それまで逮捕はおあずけだ」

「じゃあ、どうするんだい?」

「カンタベリーで下車しよう」

「そのあとは?」

「そうだな、陸路でニューヘイヴンへ南下し、そこから船でディエップに渡ろう。獲物を

見失ったモリアーティは、また僕が考えつきそうなことをやるにちがいない。まっすぐパ

リへ行って僕らの荷物を探しだし、駅で二日ばかり待つはずだ。こっちはそのあいだに布

製の軽い旅行かばんを二個調達して、のんびりと汽車旅を楽しもうじゃないか。必要な物

はその土地の職人が腕をふるった商品を途中で買い足していけばいい。ルクセンブルクと

バーゼルを経由して、スイスまで行く」

 私は旅慣れているので、荷物がなくなってもたいして困らないが、これまで悪のかぎり

を尽くしてきた極悪人に追われて逃げ隠れしなければならないと思うと、正直言って気が

滅入った。だがホームズは私以上に現状をしっかり把握しているはずだ。そこで彼の言う

とおりにしてカンタベリーで降りたが、ニューヘイヴン行きの汽車まで一時間も待たなけ

ればならないとわかった。

 私の着替えを積んでぐんぐん遠ざかっていく荷物車を恨めしい思いで見送っていると、

ホームズに袖そでを引っ張られ、線路の先を見ろと合図された。

「敵はもうお出ましだ」ホームズが言った。

 ケント州の森のはるか向こうに、煙が一筋立ちのぼっているのが見える。一分後には客

車を一両だけ引いた機関車が駅の手前の大きなカーブに勢いよくさしかかった。私たちが

慌てて荷物の山に隠れた直後、汽車は熱い蒸気を私たちの顔に吹きかけながら、轟ごう音

おんとともに目の前を通過していった。

「モリアーティだよ」とホームズは言い、二人して線路のポイントで横揺れしている臨時

列車を見送った。「どんなに頭が切れるといっても限界はあるようだね。もし彼が僕と

そっくり同じことを考えて行動していたら、それこそ一大事だったよ」

「ここでわれわれをつかまえていたら、どうしただろうね」

「まずまちがいなく僕を殺そうとしただろう。だがこっちも勝負を受けて立ったんだ、

あっさり負けるつもりはない。ところで、さしあたっての問題は、ここで早めの腹ごしら

えをするか、ニューヘイヴンまで空きっ腹を抱えていくかだな」

 その晩、私たちはブリュッセルに着いた。そこで二日間過ごしてから、三日目にストラ

スブールへ移動した。月曜の朝、ホームズはスコットランドヤードへ電報を打ち、夕方

にホテルへ戻ると、返信が来ていた。ホームズは封を切って読んだが、いまいましげに悪

態をついてそれを暖炉へ投げこんでしまった。

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