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第1章 アルカリ土壌の大平原(3)

时间: 2023-10-31    进入日语论坛
核心提示: 力を振りしぼって必死に峡谷を下り、この小高い場所までやっとのことでたどり着いたのは、もしや水が見つかるのではないかと一
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 力を振りしぼって必死に峡谷を下り、この小高い場所までやっとのことでたどり着いたのは、もしや水が見つかるのではないかと一いち縷るの希望を抱いたからだった。ところが、いま眼前にあるのは茫ぼう洋ようと広がる塩の大平原と、はるか遠くに連なる険しい山脈だけで、水分の存在を示す樹木や草むらは影も形もない。広々とした大地のどこを探しても、希望はひとかけらも転がっていない。男は狂おしい目つきで、北から東へ、さらに西へと眺め渡した。やがて、放浪の旅はとうとう終点に行き着いたのだと悟った。あとは草木が一本も生えないこの岩山で死を待つのみである。「どうせ同じことだ。いまここで死のうが、二十年後に羽毛の寝床で死のうが」そうつぶやくと、男は大きな丸石の陰に座りこんだ。

 もはや無用の長物となったライフル銃を地面に置いた。灰色のショールにくるんだ大きな荷物も、右肩から下ろした。衰弱しきった身体にはずいぶん重荷だったのだろう、地面に置こうとしたが満足に力が入らず、どさりと落としてしまった。とたんに細いうめき声が聞こえ、荷物から明るい茶色の目をした小さな顔が恐る恐るのぞき、そばかすのあるふっくらとした手も現われた。

「痛い!」泣きべそをかく子供の声がした。

「それは悪かった。わざとではないんだ」男はすまなそうに言って、ショールの包みを開いた。そこから現われたのは五歳くらいの愛らしい女の子だった。しゃれた靴や、リネンの小さなエプロンがついたピンクの上品なワンピースに、母親の深い愛情が感じられる。顔は青白いが、手足は血色がよく健康そうで、連れの男ほど過酷な目には遭っていないようだ。

「だいじょうぶかい?」少女が金色の巻き毛に手をやり、しきりに後頭部をさすっているので、男は心配げに尋ねた。

「キスしてくれたら、きっと治るわ」少女はぶつけたところを男のほうへ近づけ、大真面目な口調で言った。「ママはいつもそうしてくれるの。ねえ、ママはどこ?」

「お出かけしてるんだ。もうじき戻るよ」

「えっ、お出かけ? 変なの。どうして行って来ますを言わなかったのかな。お茶の時間にちょっとおばちゃまのおうちへ行くときだって、いつも言ってたのに。もう三日も帰ってこないね。あたし、喉がからから。お水も食べ物もないの?」

「ああ、ないんだ、すまないね。だがあと少しの我慢だよ。じきに楽になる。さあ、頭をおじさんの肩にもたせかけてごらん。そう、力を抜いて。口が乾ききってうまくしゃべれんが、本当のことをおまえに話そう。おや、なにを持ってるんだい?」

「とってもいいものよ! きれいでしょう!」幼い娘はきらきら輝く雲うん母ものかけらを二枚、嬉しそうに差しだした。「おうちに帰ったら、ボブおにいちゃんにあげるの」

「もうじき、もっときれいなものを見られるよ」男はきっぱりと言った。「あとちょっとの辛抱だ。では話の続きだよ。川のそばから離れて、ここまで来ただろう? 覚えてるかい?」

「うん、覚えてる」

「あのときは、すぐに別の川に出ると思ってたんだ。ところが予想どおりには行かなくてね。方位磁石が狂ってたのか、地図がまちがってたのか、川はいっこうに見つからなかった。ついに持っていた水が底をつき、子供のおまえに飲ませるほんのわずかな量を残すばかりとなった。それで──」

「それで、おじちゃんは顔を洗えなくなっちゃったのね」少女は垢あかで汚れた男の顔を見上げ、真剣な表情で言った。

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