日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 大岡昇平 » 正文

野火08

时间: 2017-02-27    进入日语论坛
核心提示:八 川 幾日かがあり、幾夜かがあった。私を取り巻く山と野には絶えず砲声が響き、頭上には敵機があったが、私は人を見なかった
(单词翻译:双击或拖选)
 八 川
 
 幾日かがあり、幾夜かがあった。私を取り巻く山と野には絶えず砲声が響き、頭上には敵機があったが、私は人を見なかった。
 私がさまよい込んだ丘陵地帯は、ブラウエン、アルベラ、オルモックの各作戦地区を頂点とする三角形の中心に近く、いわば颱風の眼のように無事であった。
 或る明方北西に砲声が起り、青と赤の照明弾が、花火のように中空に交錯するのが見られた。その夜頂上から見渡すと、輝かしい燈火が、見馴れたオルモックの町の輪郭を描いていた。西海岸唯一の友軍の基地にも、米軍が上陸したのである。
 糧食はとうに尽きていたが、私が飢えていたかどうかはわからなかった。いつも先に死がいた。肉体の中で、後頭部だけが、上ずったように目醒めていた。
 死ぬまでの時間を、思うままに過すことが出来るという、無意味な自由だけが私の所有であった。携行した一個の手榴弾より、死もまた私の自由な選択の範囲に入っていたが、私はただその時を延期していた。
 熱帯の陽の下に単調に重畳した丘々を、視野の端に意識しながら、私は無人の頂上から頂上をさまよった。
 草の稜線が弧を描き、片側が嶮しく落ち込んでいるところへ出た。降りると、漏斗状の斜面の収束するところに木が生え、狭い掘れ溝が、露出した木々の根の間を迂まわっていた。空谷はやがて低い崖の上で尽き、下に水が湧いていた。
 崖の底の一つの穴から、吹き出すように湧いた水は、一間四方ほどの澄んだ水盤を作っていた。私は岸に伏し、心行くばかりその冷い水を飲んだ。
 水は細い瀬を作って、次の水盤に移り、また瀬となって、流れ出していた。小さな道が流れに沿って下っていた。私は降りて行った。流れが漸く音を立てるあたりで、道はそれを横切った。
 流れは暗い林に入り、道は林を迂廻した。林の奥で滝音が近づき、後になった。不意に水は林を破って迸り、再び道に沿い出した。
 前方に竹が密生していた。真直な幹をすかして陽光が輝き、崖に出た。新しい谷が横わっていた。広い水が礫の上を流れていた。私が伝って来た細い流れは、竹林の切れ目から、早瀬となって落ち込んでいた。
 河原には日が照り、嶺線に切り取られた輝かしい空を、雲が渡った。岸の斜面に竹が盛んに生い繁って、柔かな緑を風に揺っていた。雨季の増水の名残であろう、流木が砂と礫の上に干いていた。その間に、わずかに踏み固められた一条の道について、私は降りて行った。
 川は気紛れに岸に当って淵を作り、または白い瀬となって拡がった。日暮に暗い淵の蔭で河鹿が鳴き、夜明には岸の高みで山鳩が鳴いた。
 道は或る時、岸に登り、蔓草を縦横に張りめぐらした、叢林の中を行った。夜、林に寝ると枕の土が青白く光った。掬って見る掌の上でも、蛍のように光り続けた。それはいつの時代にか、この場所で死んだ動物の体から残った、燐であろうと私は空想した。
 或る時、川は岸からかしいだ大木の蔭で、巨大な転石の間を早瀬となって越し、渦巻いていた。私は靴を脱し、足を水に浸した。足の甲はいつか肉が落ち、鶏の足のように干からびて、水に濡れにくかった。手の皮膚も骨に張りつき、指の股が退いて、指が延びたように見えた。
 死は既に観念ではなく、映像となって近づいていた。私はこの川岸に、手榴弾により腹を破って死んだ自分を想像した。私はやがて腐り、様々の元素に分解するであろう、三分の二は水から成るという我々の肉体は、大抵は流れ出し、この水と一緒に流れて行くであろう。
 私は改めて目の前の水に見入った。水は私が少年の時から聞き馴れた、あの囁く音を立てて流れていた。石を越え、迂回し、後から後から忙しく現われて、流れ去っていた。それは無限に続く運動のように見えた。
 私は吐息した。死ねば私の意識はたしかに無となるに違いないが、肉体はこの宇宙という大物質に溶け込んで、存在するのを止めないであろう。私はいつまでも生きるであろう。
 私にこういう幻想を与えたのは、たしかにこの水が動いているからであった。
 
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%