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野火36

时间: 2017-02-27    进入日语论坛
核心提示:三六 転身の頌「やい、帰って来い」 と声がした。振り返ると、林の縁に永松がいて、銃で覘っていた。私は微笑んだ。私は演技す
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 三六 転身の頌
 
「やい、帰って来い」
 と声がした。振り返ると、林の縁に永松がいて、銃で覘っていた。私は微笑んだ。私は演技する自由を持っていた。今は私の所有しない手榴弾を握る振りをし、構える振りをした。
「よせ。よせ。わかった」
 永松は笑って、銃口を下げた。我々は近寄った。彼の頬の筋肉が引き攣っていた。
「見たか」
「見た」
「お前も食ったんだぞ」
「知っていた」
「猿を逃がした」
「残念だった」
「こんどまた、いつ見附かるかわかんねえんだ。猿はなかなか通らねえ」
 彼は私の空の手を見た。
「おや、手榴弾はどうした」
「ない」
「ない?」
「あるって思ったのは、お前の勝手だ」
「どうしたんだ」
「安田に取られた」
「取られた?」永松は真赤になった。「馬鹿野郎、何故取られたんだ。あんなにいっといたのに」
「うっかりしたんだ」
「そりゃ大変だ。もうしようがねえ。彼奴をやっつけるよりしようがねえ。やらなきゃ、こっちがやられちゃう」
「俺をやったらどうだ」
「お前やるんなら、最初にやってる。俺はもうこんなことやってるのが、いやになったんだ。あのじじいに操られて、うっかり始めたが、もう沢山だ——お前、そのオルモックへ行く道、知ってるんだな」
「憶えてない」
「どうでもいい。とにかく一緒に行こう。安田をやって、食糧を作ってから、米さんとこへ行こうじゃねえか」
「そうやすやす降服さしてくんねえぜ」
「いや、とにかく、俺は今まであの野郎に威張られたのが癪にさわって、しようがねえんだ。このままじゃ済まされねえ」
「このまま、どっかへ行っちまえばいい」
「駄目だ。さし当って食糧がねえ」
「しかし俺は降服しねえぜ。お前一人で行ってくれ。俺はその気はねえんだ」
「つまんねえこというな。俺だって猿の肉食った体だが、何、黙ってりゃ、わかるもんか」
 手榴弾を持った安田を殺すために永松が考えた方法は、彼の若さに似合わぬ、狡猾なものであった。彼の予想では、武器を握った以上、安田は必ず我々を殺しに来るのであった。そしてそのためあのテントを立ち退いて、どこかで我々を待伏せているのであった。
「大袈裟にいやがって、彼奴の足、結構役に立つんだ。ただ俺をこき使おうと思って、そら使ってやがるんだ」
 我々は慎重に林に入って行った。
「いいか、まず彼奴に手榴弾を使わしちまわないとまずい。声を出せば、きっと抛って来やがるから、怒鳴って、途端に逃げるんだぞ。いいか」彼は林の奥へ叫んだ。「おーい、安田。獲って来たぞ」
 そして踵を返して急に駈け下りた。後で炸裂音が起った。破片が遅れた私の肩から、一片の肉をもぎ取った。私は地に落ちたその肉の泥を払い、すぐ口に入れた。
 私の肉を私が食べるのは、明らかに私の自由であった。
 それから我々は安田の捜索にかかった。しかし半日念入りに探しても、安田の姿はどこにもなかった。
「畜生、何処へ行きやがったかな」永松の飢えには憎悪が混っていた。「そうだ、あそこがいい」
 彼は私を泉に導いた。
「この辺じゃ、水はここっきゃねえ。あの野郎、そのうちにゃ、きっと来やがるから、ここで待っててやろう」
 林の果て、崖の根元から一つの水が湧いて、細流となって流れ去っている。永松は石で流れを堰いた。
 泉を見下す高みに我々は隠れた。三日目の夕方、遠く安田の泣くような声を聞いた。
「永松、田村」と声は呼んでいた。「おーい。出て来い。俺が悪かった。仲好くやってこうじゃねえか。火もあるぞ」
「火ぐれえ、こっちにだってあらあ」と永松は自分の飯盒に貯えた、小さな燠を吹きながらいった。
「出て来い。煙草もみんなやるぞ」
「いやだ。もうお情けは沢山だ。手前をやっつけて、捲き上げてやる」
「出て来い。俺がここに煙草持ってると思うと、大間違いだぞ。いいとこへ、ちゃんとしまってあるんだ。仲好くしよう」
「畜生。なんて悪賢い野郎だ」永松は歯ぎしりした。
 遂に声は止んだ。ただ草を匍う音が近づき、泉の向うの崖の上に、頭が現われた。暫くそうしてじっとしていたが、不意に、全身を現わし、滑り降りた。
 永松の銃は土にもたせて、そこへ照準をつけてあった。銃声と共に、安田の体はひくっと動いて、そのままになった。
 永松が飛び出した。素速く蛮刀で、手首と足首を打ち落した。
 怖しいのは、すべてこれ等の細目を、私が予期していたことであった。
 まだあたたかい桜色の肉を前に、私はただ吐いていた。空の胃から黄色い液だけが出た。
 もしこの時既に、神が私の体を変えていたのであれば、神に栄えあれ。
 私は怒りを感じた。もし人間がその飢えの果てに、互いに食い合うのが必然であるならば、この世は神の怒りの跡にすぎない。
 そしてもし、この時、私が吐き怒ることが出来るとすれば、私はもう人間ではない。天使である。私は神の怒りを代行しなければならぬ。
 私は立ち上り、自然を超えた力に導かれて、林の中を駈けて行った。泉を見下す高みまで、永松が安田を撃った銃を、取りに行った。
 永松の声が迫って来た。
「待て、田村。よせ、わかった、わかった」
 新しい自然の活力を得た彼の足は、私の足より早いようであった。私は辛うじて、一歩の差で、彼が不注意にそこへおき忘れた銃へ行き着いた。
 永松は赤い口を開けて笑いながら、私の差し向けた銃口を握った。しかし遅かった。
 この時私が彼を撃ったかどうか、記憶が欠けている。しかし肉はたしかに食べなかった。食べたなら、憶えているはずである。
 次の私の記憶はその林の遠見の映像である。日本の杉林のように黒く、非情な自然であった。私はその自然を憎んだ。
 その林を閉ざして、硝子絵に水が伝うように、静かに雨が降り出した。
 私は私の手にある銃を眺めた。やはり学校から引き上げた三八銃で、菊花の紋がばってんで刻んで、消してあった。私は手拭を出し、雨滴がぽつぽつについた遊底蓋を拭った。
 ここで私の記憶は途切れる……
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