日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 大岡昇平 » 正文

野火25

时间: 2017-02-27    进入日语论坛
核心提示:二五 光 雨は依然として湿原を曇らせつつ、次第に暗くなって行った。まず遠い「歓喜峰」が消え、アカシヤの木が消え、次いで前
(单词翻译:双击或拖选)
 二五 光
 
 雨は依然として湿原を曇らせつつ、次第に暗くなって行った。まず遠い「歓喜峰」が消え、アカシヤの木が消え、次いで前面の林が消えて、やがて何も見るもののない闇となった。米軍の車輛の往来もとまった。
 待ち構えたように、暗闇の中で物音が起った。重い物が濡れた土を滑り降りる音に、呟く声が交った。伍長も動く気配であった。
「みなさん、出掛けますか」
「うるせえ。これからは決して口を利くんじゃねえ。さもないと、叩殺すぞ」
 木にぶつかり、叢に引っかかりながら、私は足から先に滑って斜面を降りた。両側にも同じ音が連続するのを意識していたが、降り切ると音が絶えた。人がいるのかいないのか、わからなかった。伍長達は無論探しようがなかった。
 前方の湿原にも何も動く気配がなかった。何かの手違いで、みなは突破を中止したのではないだろうか、と恐怖が私を捉えた。
 その時前方の暗闇で音がした。飯盒と剣の触れ合うような音であった。音に誘われるように私の足は前へ出た。
 深い草の繁みがあり、水の流れる音がした。私の裸の足は冷い水を感じ、脛まで漬った。次の足は草の根の束に載った。それから二尺ほど落ち込み、そしてはっきり泥が始った。
 泥は脛まであった。ずるずる入る足裏は、固定した基盤に触れなかった。そこまで踏みおろした泥の厚さで、やっと支えている、そういう不安定な感じであった。肩に担いだ銃の重さが、それだけ足を沈めるように思われた。進むにつれて、泥は深くなった。
 右も左も、ただ闇が拡がっていた。雨はいつか止み、遠く犬の鳴く声が断続して、湿った空気の底を伝って耳に届いた。
 頭を下げると、国道の土手の線が前方の闇を横に長く切って、ほのかに空と境しているのが見えた。それが目標であった。しかしなかなか近くならない。
 泥はますます深く、膝を越した。片足を高く抜き、重心のかかった他方の足が、もぐりそうになるのをこらえ、抜いた足で、泥の上面を掃くように、大きく外に弧を描いて前へ出す。その足がずぶずぶと入る勢に乗って、後に残した足を抜き、同じように前へ出す。
 私は疲れて来た。もし前方の泥がこれ以上深ければ、完全に動けなくなる。そしてそのまま夜が明けてしまえば、私は泥から上半身を出した姿で、道を通る米兵に射たれねばならぬ。
 怖ろしい瞬間であった。他の兵士等もこんなひどい泥に漬っているのだろうか。みなも私と同じだろうか。それが確かめたかった。私は叫びたかった。この時私の声を抑えたのは、叫べばおこられるだろうという怖れであった。
 引き返そうか、という考えが頭を過ぎたが、これまで来た泥を、帰って行くことも、出来そうな気がしなかった。ままよ、行けるところまで行って、動けなくなったら、殺されてもいいではないか。死ぬまでだ。これまでにも幾度か、そう自分に納得さして来たではないか。
 死の観念は、私に家に帰ったような気楽さを与えた。どこへ行っても、何をしてみても、行手にきっとこれがあるところをみると、結局これが私の一番頼りになるものかも知れない。
 私は不意に心が軽く、力が湧くように思った。泥から足を抜く動作の一つ一つも、最早私にはどうでもよい、任意のものと感じた。そして早く進んでいるような気がした。
 この安易な感覚に伴って、一つの奇妙な感覚が生れて来た。私は自分の動作が、誰かに見られていると思った。私は立ち止った。しかし音もない暗闇の泥濘の中で、私を見ている者がいるはずはなかった。私はすぐ自分の錯覚を嗤い、再び前進に戻った。
 しかし私は間違っていた。私を見ていた者はやはりいたのである。証拠は、見られているという感覚を否定してからは、私の動作は任意、つまり自由の感じを失い、早くなくなったことである。
 目的の土手は意外に早く、不意に私の前に立ちふさがった。人の吐く息が聞えた。さし延べた私の左手は前に行く者の剣鞘に触れた。思わずつかむと、その者は、
「煩せえな。附くな、附くな」
 と低く鋭くいった。伍長の声だと私は思った。
 泥はやや浅くなっていた。それからまた二足、殆んど腿まで深く入って、次の足は棚のように高い、固い土盤に乗った。土手の底の一部であった。私は銃を下した。
 一間ばかり高い土手の草に、人影の蠢く気配が感じられた。がさがさと草につかまって、登って行くらしかった。
 国道は闇の中に、白く左右に延びていた。固い砂利に肱をつき、銃を曳きずって横切る時、私はその道の白さが、蟻のように匍う黒いもので埋められているのを認めた。犬の声がまた耳について来た。
 対面の草の斜面を素速く滑り降りた。水がそこに音を立てて流れていた。音を聞きながら跨いで越した先の泥は、昼間見知らぬ兵士が予言したように、踝までしか入らなかった。何気なく立ち上って歩こうとすると、
「馬鹿、匍え」と声がかかった。
 我々は匍って行った。前方には黒々と林の輪郭が見えた。あそこまで行けばよい。肱と膝を用いる中腰の匍匐の姿勢で、早く進んだ。
 周囲の闇が私と同じ方向に進む、兵士の群で満ちているのを私は感じた。私は再び私ではなく我々になった。
 チッとその群の中で、金属が金属に当る音がした。途端に前から光が来た。同時に弾が来た。「戦車」と二、三の声が叫んだ。
 咄嗟に腹匍いになった私は、前方の林に、巨人の眼のように輝いて動く、数個の光源が並んでいるのを認める暇があった。そして私の両側の草原が、交錯する光芒に照された、伏せた兵士で埋っているのも。
 土に額をつけた。顔の両側の小さな視野に光が輝く毎に、弾が風にあおられるように、頭の上を薙いで通った。私はじりじりと後へ下った。物を叩くような発射音と、左右の泥のはね上る鈍い音の合間に、私は自分の手と足の運動を、高速度写真を見るように、のろく意識した。
「やられた」
 と負傷を告げる声が聞えた。
「わーっ」
 と叫ぶ声が、立ち上り、前進して、途切れた。私は再びそれが伍長だと思った。
 私も立ち上り、後向きに駈けた。土手の草は、その上に自分の影がうつるかと思われるほど、明るかった。その明るさ目がけて駈け続けた。
(土手の手前に溝があったっけ、あそこまで)
 溝の岸の、エメラルドに光る草から、横ざまに倒れ込んだ。
 溝の水は音を立てて流れていた。弾は私の上を渡り、光も渡って、相変らず土手を明るくし続けていた。暫くはこうしていられる、と私は思った。戦車は湿地を渡っては来ないだろう。米兵は多分突撃しては来ないだろう。
 どれほど時間が経ったろう、銃声が熄んだ。探照燈の光だけ、いつまでも土手の草の上を往来し、やがて一つ残った光が、叫声のように一個所にじっとしていたが、消えた。
 あとは再び暗黒と静寂であった。何も動くものはなかった。私と一緒に匍匐前進した兵達は、何処へ行ったかわからなかった。眼にかぶさる闇と、私の体に沿って流れ続け、次第に肌まで滲み込んで来るらしい水と、泥と草の匂いだけが、私の世界であった。
 私は深く吐息し、身をもたげた。林は何事もなかったかのように、もとの暗さで、黒々とそこに横わっていた。犬の声がまた耳についた。
 物音が、道の一方から進んで来た。雨であった。囁くような声が、混っていた。それから何かを歌うような、ブリキを叩くような音が。
 私はのろのろと土手を攀じ、土に耳をつけて、近づく足音のないのを確めると、蟇のように素速く道を横切り、頭から先に転り落ちた。
 そこで暫く休んだ後、私は再び泥を渡り出した。銃はいつか手になかった。そのためか、帰路は往路より、よほど楽なような気がした。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%