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破戒2-4

时间: 2017-05-31    进入日语论坛
核心提示:       (四) 男女の教員は広い職員室に集つて居た。其日は土曜日で、月給取の身にとつては反つて翌(あす)の日曜より
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        (四)
 
 男女の教員は広い職員室に集つて居た。其日は土曜日で、月給取の身にとつては反つて翌(あす)の日曜よりも楽しく思はれたのである。茲(こゝ)に集る人々の多くは、日々(にち/\)の長い勤務(つとめ)と、多数の生徒の取扱とに疲(くたぶ)れて、さして教育の事業に興味を感ずるでもなかつた。中には児童を忌み嫌ふやうなものもあつた。三種講習を済まして、及第して、漸(やうや)く煙草のむことを覚えた程の年若な準教員なぞは、まだ前途(さき)が長いところからして楽しさうにも見えるけれど、既に老朽と言はれて髭ばかり厳(いかめ)しく生えた手合なぞは、述懐したり、物羨みしたりして、外目(よそめ)にも可傷(いたは)しく思ひやられる。一月の骨折の報酬(むくい)を酒に代へる為、今茲に待つて居るやうな連中もあるのであつた。
 丑松は敬之進と一緒に職員室へ行かうとして、廊下のところで小使に出逢つた。
『風間先生、笹屋の亭主が御目に懸りたいと言つて、先刻(さつき)から来て待つて居りやす。』
 不意を打たれて、敬之進はさも苦々しさうに笑つた。
『何? 笹屋の亭主?』
 笹屋とは飯山の町はづれにある飲食店、農夫の為に地酒を暖めるやうな家(うち)で、老朽な敬之進が浮世を忘れる隠れ家といふことは、疾(とく)に丑松も承知して居た。けふ月給の渡る日と聞いて、酒の貸の催促に来たか、とは敬之進の寂しい苦笑(にがわらひ)で知れる。『ちよツ、学校まで取りに来なくてもよささうなものだ。』と敬之進は独語(ひとりごと)のやうに言つた。『いゝから待たして置け。』と小使に言含めて、軈(やが)て二人して職員室へと急いだのである。
 十月下旬の日の光は玻璃窓(ガラスまど)から射入つて、煙草の烟(けぶり)に交る室内の空気を明く見せた。彼処(あそこ)の掲示板の下に一群(ひとむれ)、是処の時間表の側(わき)に一団(ひとかたまり)、いづれも口から泡を飛ばして言ひのゝしつて居る。丑松は室の入口に立つて眺めた。見れば郡視学の甥(をひ)といふ勝野文平、灰色の壁に倚凭(よりかゝ)つて、銀之助と二人並んで話して居る様子。新しい艶のある洋服を着て、襟飾(えりかざり)の好みも煩(うるさ)くなく、すべて適(ふさ)はしい風俗の中(うち)に、人を吸引(ひきつ)ける敏捷(すばしこ)いところがあつた。美しく撫付(なでつ)けた髪の色の黒さ。頬の若々しさ。それに是男の鋭い眼付は絶えず物を穿鑿(せんさく)するやうで、一時(いつとき)も静息(やす)んでは居られないかのやう。これを銀之助の五分刈頭、顔の色赤々として、血肥りして、形(なり)も振(ふり)も関はず腕捲(うでまく)りし乍ら、談(はな)したり笑つたりする肌合に比べたら、其二人の相違は奈何(どんな)であらう。物見高い女教師連の視線はいづれも文平の身に集つた。
 丑松は文平の瀟洒(こざつぱり)とした風采(なりふり)を見て、別に其を羨む気にもならなかつた。たゞ気懸りなのは、彼(あの)新教員が自分と同じ地方から来たといふことである。小諸(こもろ)辺の地理にも委敷(くはしい)様子から押して考へると、何時(いつ)何処で瀬川の家の話を聞かまいものでもなし、広いやうで狭い世間の悲しさ、あの『お頭』は今これ/\だと言ふ人でもあつた日には――無論今となつて其様(そん)なことを言ふものも有るまいが――まあ万々一――それこそ彼(あの)教員も聞捨てには為(し)まい。斯う丑松は猜疑深(うたがひぶか)く推量して、何となく油断がならないやうに思ふのであつた。不安な丑松の眼(まなこ)には種々(さま/″\)な心配の種が映つて来たのである。
 軈て校長は役場から来た金の調べを終つた。それ/″\分配するばかりになつたので、丑松は校長を助けて、人々の机の上に十月分の俸給を載せてやつた。
『土屋君、さあ御土産。』
 と銀之助の前にも、五十銭づゝ封じた銅貨を幾本か並べて、外に銀貨の包と紙幣(さつ)とを添へて出した。
『おや/\、銅貨を沢山呉れるねえ。』と銀之助は笑つて、『斯様(こんな)にあつては持上がりさうも無いぞ。はゝゝゝゝ。時に、瀬川君、けふは御引越が出来ますね。』
 丑松は笑つて答へなかつた。傍(そば)に居た文平は引取つて、
『どちらへか御引越ですか。』
『瀬川君は今夜から精進(しやうじん)料理さ。』
『はゝゝゝゝ。』
 と笑ひ葬つて、丑松は素早く自分の机の方へ行つて了つた。
 毎月のこととは言ひ乍ら、俸給を受取つた時の人々の顔付は又格別であつた。実に男女の教員の身にとつては、労働(はたら)いて得た収穫を眺めた時ほど愉快に感ずることは無いのである。ある人は紙の袋に封じた儘(まゝ)の銀貨を鳴らして見る、ある人は風呂敷に包んで重たさうに提げて見る、ある女教師は又、海老茶袴(えびちやばかま)の紐(ひも)の上から撫(な)でゝ、人知れず微笑んで見るのであつた。急に校長は椅子を離れて、用事ありげに立上つた。何事かと人々は聞耳を立てる。校長は一つ咳払ひして、さて器械的な改つた調子で、敬之進が退職の件(こと)を報告した。就いては来る十一月の三日、天長節の式の済んだ後(あと)、この老功な教育者の為に茶話会を開きたいと言出した。賛成の声は起る。敬之進はすつくと立つて、一礼して、軈(やが)て拍子の抜けたやうに元の席へ復(かへ)つた。
 一同帰り仕度を始めたのは間も無くであつた。男女の教員が敬之進を取囲(とりま)いて、いろ/\言ひ慰めて居る間に、ついと丑松は風呂敷包を提(ひつさ)げて出た。銀之助が友達を尋(さが)して歩いた時は、職員室から廊下、廊下から応接室、小使部屋、昇降口まで来て見ても、もう何処にも丑松の姿は見えなかつたのである。
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