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破戒5-3

时间: 2017-06-03    进入日语论坛
核心提示:       (三) 敬之進の為に開いた茶話会は十一時頃からあつた。其日の朝、蓮華寺を出る時、丑松は廊下のところでお志保
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        (三)
 
 敬之進の為に開いた茶話会は十一時頃からあつた。其日の朝、蓮華寺を出る時、丑松は廊下のところでお志保に逢つて、この不幸な父親を思出したが、斯うして会場の正面に座(す)ゑられた敬之進を見ると、今度は反対(あべこべ)に彼の古壁に倚凭つた娘のことを思出したのである。敬之進の挨拶は長い身の上の述懐であつた。憐むといふ心があればこそ、丑松ばかりは首を垂れて聞いて居たやうなものゝ、さもなくて、誰が老(おい)の繰言(くりごと)なぞに耳を傾けよう。
 茶話会の済んだ後のことであつた。丁度庭球(テニス)の遊戯(あそび)を為るために出て行かうとする文平を呼留めて、一緒に校長はある室の戸を開けて入つた。差向ひに椅子に腰掛けたは運動場近くにある窓のところで、庭球(テニス)狂(きちがひ)の銀之助なぞが呼び騒ぐ声も、玻璃(ガラス)に響いて面白さうに聞えたのである。
『まあ、勝野君、左様(さう)運動にばかり夢中にならないで、すこし話したまへ。』と校長は忸々敷(なれ/\しく)、『時に、奈何(どう)でした、今日の演説は?』
『先生の御演説ですか。』と文平が打球板(ラッケット)を膝の上に載せて、『いや、非常に面白く拝聴(うかゞ)ひました。』
『左様(さう)ですかねえ――少許(すこし)は聞きごたへが有ましたかねえ。』
『御世辞でも何でも無いんですが、今迄私が拝聴(うかゞ)つた中(うち)では、先(ま)づ第一等の出来でしたらう。』
『左様(さう)言つて呉れる人があると難有(ありがた)い。』と校長は微笑み乍ら、『実は彼(あ)の演説をするために、昨夜(ゆうべ)一晩かゝつて準備(したく)しましたよ。忠孝といふ字義の解釈は奈何(どう)聞えました。我輩の積りでは、あれでも余程頭脳(あたま)を痛めたのさ。種々(いろ/\)な字典を参考するやら、何やら――そりやあもう、君。』
『どうしても調べたものは調べた丈のことが有ます。』
『しかし、真実(ほんたう)に聞いて呉れた人は君くらゐのものだ。町の人なぞは空々寂々――いや、実際、耳を持たないんだからねえ。中には、高柳の話に酷(ひど)く感服してる人がある。彼様(あん)な演説屋の話と、吾儕(われ/\)の言ふことゝを、一緒にして聞かれて堪(たま)るものかね。』
『どうせ解らない人には解らないんですから。』
 と文平に言はれて、不平らしい校長の顔付は幾分(いくら)か和(やはら)いで来た。
 其時迄、校長は何か言ひたいことがあつて、それを言はないで、反(かへ)つて斯(か)ういふ談話(はなし)をして居るといふ風であつたが、軈(やが)て思ふことを切出した。わざ/\文平を呼留めて斯室へ連れて来たのは、どうかして丑松を退ける工夫は無いか、それを相談したい下心であつたのである。『と云ふのはねえ、』と校長は一段声を低くした。『瀬川君だの、土屋君だの、彼様(あゝ)いふ異分子が居ると、どうも学校の統一がつかなくて困る。尤(もつと)も土屋君の方は、農科大学の助手といふことになつて、遠からず出掛けたいやうな話ですから――まあ斯人(このひと)は黙つて居ても出て行く。難物は瀬川君です。瀬川君さへ居なくなつて了へば、後は君、もう吾儕(われ/\)の天下さ。どうかして瀬川君を廃(よ)して、是非其後へは君に座(すわ)つて頂きたい。実は君の叔父さんからも種々(いろ/\)御話が有ましたがね、叔父さんも矢張(やつぱり)左様(さう)いふ意見なんです。何とか君、巧(うま)い工夫はあるまいかねえ。』
『左様(さう)ですなあ。』と文平は返事に困つた。
『生徒を御覧なさい――瀬川先生、瀬川先生と言つて、瀬川君ばかり大騒ぎしてる。彼様(あんな)に大騒ぎするのは、瀬川君の方で生徒の機嫌を取るからでせう? 生徒の機嫌を取るといふのは、何か其処に訳があるからでせう? 勝野君、まあ君は奈何(どう)思ひます。』
『今の御話は私に克(よ)く解りません。』
『では、君、斯う言つたら――これはまあ是限(これぎ)りの御話なんですがね、必定(きつと)瀬川君は斯の学校を取らうといふ野心があるに相違(ちがひ)ないんです。』
『はゝゝゝゝ、まさか其程にも思つて居ないでせう。』と笑つて、文平は校長の顔を熟視(みまも)つた。
『でせうか?』と校長は疑深く、『思つて居ないでせうか?』
『だつて、未(ま)だ其様(そん)なことを考へるやうな年齢(とし)ぢや有ません――瀬川君にしろ、土屋君にしろ、未だ若いんですもの。』
 この『若いんですもの』が校長を嘆息させた。庭で遊ぶ庭球(テニス)の球の音はおもしろく窓の玻璃(ガラス)に響いた。また一勝負始まつたらしい。思はず文平は聞耳を立てた。その文平の若々しい顔付を眺めると、校長は更に嘆息して、
『一体、瀬川君なぞは奈何(どう)いふことを考へて居るんでせう。』
『奈何いふことゝは?』と文平は不思議さうに。
『まあ、近頃の瀬川君の様子を見るのに、非常に沈んで居る――何か斯う深く考へて居る――新しい時代といふものは彼様(あゝ)物を考へさせるんでせうか。どうも我輩には不思議でならない。』
『しかし、瀬川君の考へて居るのは、何か別の事でせう――今、先生の仰つたやうな、其様(そん)な事ぢや無いでせう。』
『左様(さう)なると、猶々(なほ/\)我輩には解釈が付かなくなる。どうも我輩の時代に比べると、瀬川君なぞの考へて居ることは全く違ふやうだ。我輩の面白いと思ふことを、瀬川君なぞは一向詰らないやうな顔してる。我輩の詰らないと思ふことを、反つて瀬川君なぞは非常に面白がつてる。畢竟(つまり)一緒に事業(しごと)が出来ないといふは、時代が違ふからでせうか――新しい時代の人と、吾儕(われ/\)とは、其様(そんな)に思想(かんがへ)が合はないものなんでせうか。』
『ですけれど、私なぞは左様(さう)思ひません。』
『そこが君の頼母(たのも)しいところさ。何卒(どうか)、君、彼様(あゝ)いふ悪い風潮に染まないやうにして呉れたまへ。及ばずながら君のことに就いては、我輩も出来るだけの力を尽すつもりだ。世の中のことは御互ひに助けたり助けられたりさ――まあ、勝野君、左様(さう)ぢや有ませんか。今茲(こゝ)で直に異分予を奈何(どう)するといふ訳にもいかない。ですから、何か好い工夫でも有つたら、考へて置いて呉れたまへ――瀬川君のことに就いて何か聞込むやうな場合でも有つたら、是非それを我輩に知らせて呉れたまへ。』
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