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破戒20-1

时间: 2017-06-03    进入日语论坛
核心提示:       (一) せめて彼の先輩だけに自分のことを話さう、と不図(ふと)、丑松が思ひ着いたのは、其橋の上である。『噫
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        (一)
 
 せめて彼の先輩だけに自分のことを話さう、と不図(ふと)、丑松が思ひ着いたのは、其橋の上である。
『噫(あゝ)、それが最後の別離(おわかれ)だ。』
 とまた自分で自分を憐むやうに叫んだ。
 斯ういふ思想(かんがへ)を抱いて、軈(やが)て以前(もと)来た道の方へ引返して行つた頃は、閏(うるふ)六日ばかりの夕月が黄昏(たそがれ)の空に懸つた。尤も、丑松は直に其足で蓮太郎の宿屋へ尋ねて行かうとはしなかつた。間も無く演説会の始まることを承知して居た。左様だ、其の済むまで待つより外は無いと考へた。
 上の渡し近くに在る一軒の饂飩屋(うどんや)は別に気の置けるやうな人も来ないところ。丁度其前を通りかゝると、軒を泄(も)れる夕餐(ゆふげ)の煙に交つて、何か甘(うま)さうな物のにほひが屋(うち)の外迄も満ち溢(あふ)れて居た。見れば炉(ろ)の火も赤々と燃え上る。思はず丑松は立留つた。其時は最早(もう)酷(ひど)く饑渇(ひもじさ)を感じて居たので、わざ/\蓮華寺迄帰るといふ気は無かつた。ついと軒を潜つて入ると、炉辺(ろばた)には四五人の船頭、まだ他に飲食(のみくひ)して居る橇曳(そりひき)らしい男もあつた。時を待つ丑松の身に取つては、飲みたく無い迄も酒を誂(あつら)へる必要があつたので、ほんの申訳ばかりにお調子一本、饂飩はかけにして極(ごく)熱いところを、斯(か)う注文したのが軈て眼前(めのまへ)に並んだ。丑松はやたらに激昂して慄(ふる)へたり、丼(どんぶり)にある饂飩のにほひを嗅いだりして、黙つて他(ひと)の談話(はなし)を聞き乍ら食つた。
 零落――丑松は今その前に面と向つて立つたのである。船頭や、橇曳(そりひき)や、まあ下等な労働者の口から出る言葉と溜息とは、始めて其意味が染々(しみ/″\)胸に徹(こた)へるやうな気がした。実際丑松の今の心地(こゝろもち)は、今日あつて明日を知らない其日暮しの人々と異なるところが無かつたからで。炉の火は好く燃えた。人々は飲んだり食つたりして笑つた。丑松も亦(ま)た一緒に成つて寂しさうに笑つたのである。
 斯(か)うして待つて居る間が実に堪へがたい程の長さであつた。時は遅く移り過ぎた。そこに居た橇曳が出て行つて了ふと、交替(いれかはり)に他の男が入つて来る。聞くとも無しに其話を聞くと、高柳一派の運動は非常なもので、壮士に掴ませる金ばかりでもちつとやそつとでは有るまいとのこと。何屋とかを借りて、事務所に宛てゝ、料理番は詰切(つめきり)、酒は飲放題(のみはうだい)、帰つて来る人、出て行く人――其混雑は一通りで無いと言ふ。それにしても、今夜の演説会が奈何(どんな)に町の人々を動すであらうか、今頃はあの先輩の男らしい音声が法福寺の壁に響き渡るであらうか、と斯う想像して、会も終に近くかと思はれる頃、丑松は飲食(のみくひ)したものゝ外に幾干(いくら)かの茶代を置いて斯(こ)の饂飩屋を出た。
 月は空にあつた。今迄黄ばんだ洋燈(ランプ)の光の内に居て、急に斯(か)う屋(うち)の外へ飛出して見ると、何となく勝手の違つたやうな心地がする。薄く弱い月の光は家々の屋根を伝つて、往来の雪の上に落ちて居た。軒廂(のきびさし)の影も地にあつた。夜の靄(もや)は煙のやうに町々を籠めて、すべて遠く奥深く物寂しく見えたのである。青白い闇――といふことが言へるものなら、其は斯ういふ月夜の光景(ありさま)であらう。言ふに言はれぬ恐怖(おそれ)は丑松の胸に這ひ上つて来た。
 時とすると、背後(うしろ)の方からやつて来るものが有つた。是方(こちら)が徐々(そろ/\)歩けば先方(さき)も徐々歩き、是方が急げば先方も急いで随(つ)いて来る。振返つて見よう/\とは思ひ乍らも、奈何(どう)しても其を為(す)ることが出来ない。あ、誰か自分を捕(つかま)へに来た。斯う考へると、何時の間にか自分の背後(うしろ)へ忍び寄つて、突然(だしぬけ)に襲ひかゝりでも為るやうな気がした。とある町の角のところ、ぱつたり其足音が聞えなくなつた時は、始めて丑松も我に帰つて、ホツと安心の溜息を吐(つ)くのであつた。
 前の方からも、亦(また)。あゝ月明りのおぼつかなさ。其光には何程(どれほど)の物の象(かたち)が見えると言つたら好からう。其陰には何程の色が潜んで居ると言つたら好からう。煙るやうな夜の空気を浴び乍ら、次第に是方(こちら)へやつて来る人影を認めた時は、丑松はもう身を縮(すく)めて、危険の近(ちかづ)いたことを思はずには居られなかつたのである。一寸是方を透して視て、軈て影は通過ぎた。
 それは割合に気候の緩(ゆる)んだ晩で、打てば響くかと疑はれるやうな寒夜の趣とは全く別の心地がする。天は遠く濁つて、低いところに集る雲の群ばかり稍(やゝ)仄白(ほのじろ)く、星は隠れて見えない中にも唯一つ姿を顕(あらは)したのがあつた。往来に添ふ家々はもう戸を閉めた。ところ/″\灯は窓から泄(も)れて居た。何の音とも判らない夜の響にすら胸を踊らせ乍ら、丑松は(しん)とした町を通つたのである。
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