「すると、旦那さんのほうから離婚してくれといってきているわけですね」
「そうです」
「ところがその理由については、はっきりしたことをいってくれないわけですね。ただ、あなたとはやっていけないというだけで」
「はい」
「あなたには何も心当たりがないのですか」
この質問に対し、相談者は少し迷いを見せてから口を開いた。
「ほかに好きな女性ができたようなんです。あの、ある人に調べてもらったんです」
彼女はシャネルのバッグから写真を数枚取り出した。そこには、様々な場所で密会している男女の姿が、はっきりと写っていた。髪を七?三に分けた生真面目な会社員に見える男性と、ショートカットの若い女性は、どちらもとても幸福そうに見えた。
「この女性について、御主人に尋ねましたか」
「いえ、まだです。とにかく一度こちらで相談してからと思いまして」
「そうですか。あなたのほうに、別れる意思はあるんですか」
「はい。もう、だめだと思います。だめだと思いました」
「何かあったんですか」
「この女性と付き合うようになってからだと思うんですけど、時々暴力を……。酒に酔った時ですけど」
「それはひどいですね。そのことを知っている人はいますか。証人という意味ですが」
「誰にも話してません。ただ、一度だけ、店の女の子が泊まりに来た時にもそういうことがありました。だから彼女なら覚えているはずです」
「わかりました」
女性弁護士はメモを取りながら、これなら攻め方はいくらでもあると考えていた。こういう一見人が好さそうでいながら、妻に対して横暴だというタイプを、彼女は最も嫌っていた。
「あたし信じられないんです。あの人がこんなことをするなんて。あんなに、前は優しかったのに」高宮雪穂は白い手で口元を覆い、すすり泣きを始めた。