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白夜行3-3

时间: 2017-01-17    进入日语论坛
核心提示: 友彦の家は国鉄|阪和《はんわ》線の美章園《びしょうえん》駅のそばにあった。小さな商店街を抜けた、最初の角に建っている。
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 友彦の家は国鉄|阪和《はんわ》線の美章園《びしょうえん》駅のそばにあった。小さな商店街を抜けた、最初の角に建っている。木造二階建ての平均的日本家屋だ。
「おかえり。遅かったね。御飯は?」彼の顔を見て、母親の房子《ふさこ》が尋ねてきた。時刻は午後十時近くになっていた。以前は帰りが遅いと小言をいわれたものだが、高校生になってからは、あまり何もいわれなくなった。
「食べてきた」ぶっきらぼうに答え、友彦は自分の部屋に入った。
 一階の三畳の和室が彼の部屋だ。かつては納戸として使われていたのだが、高校に上がった時、内装をやり直して彼に与えられた。
 部屋に入ると椅子に座り、まず真っ先に目の前に置いてある機械の電源を入れた。それが彼の日課でもあった。
 機械とはパーソナル?コンピュータのことだった。買えば百万円近くするものだ。もちろん彼が買ったわけではない。電子機器メーカーに勤めている父親が、コネクションを使って安く譲ってもらってきたのだ。当初父親はこれを使ってコンピュータの知識を身につけようと思ったらしいが、二、三度触っただけでほうりだしてしまった。代わりに関心を持ったのが友彦で、本を読んだりして独学で勉強し、今ではちょっとしたプログラムを作れるほどになっている。
 コンピュータの起動を確認すると、傍らのテープレコーダーの電源を入れた後、キーボードを叩いた。間もなくテープレコーダーが動きだした。もっともそのスピーカーから聞こえてくるのは音楽ではない。雑音と電子音とが混ざったような音だ。
 テープレコーダーは記憶媒体装置として使われていた。長いプログラムは磁気信号に変えて一旦カセットテープに記録し、使用するたびにコンピュータの記憶素子に入力してやるのである。以前は記憶媒体として紙テープが使われていた。それに比べればカセットテープを使う方式は便利だが、それでも入力に時間がかかる点は不満だった。
 二十分近くをかけて入力を終えた後、友彦は改めてキーを叩く。十四インチのモノクロ画面に、『WEST WORLD』という文字が現れた。さらに、『PLAY? YES=1 NO=0』と訊いてくる。友彦は『1』のキーに続けて、リターンキーを叩いた。
『WEST WORLD』は、彼自身が作った最初のコンピュータゲームだった。しつこく追いかけてくる敵から逃げながら、迷路の出口を探すというもので、ユル?ブリンナーが主演した映画『ウエストワールド』をヒントにしている。彼がこのゲームで遊ぶ時、二つの楽しみがあった。一つはゲーム本来の楽しみで、もう一つは改造の楽しみだった。遊びながら、さらに楽しめるアイデアを探すのである。これはというアイデアが浮かんだ時には、ゲームを中断し、早速プログラムの改良に着手する。最初は単純だったゲームを次第に複雑化させていく過程には、生き物を育てているような喜びがあった。
 しばらくの間、彼の指は数字入力用のテンキーを叩き続けた。それが画面上のキャラクターを動かすコントローラになっているからだ。
 だがこの日は少しもゲームに没頭できなかった。途中で飽きてしまう。つまらないミスをして敵にやっつけられても、少しも悔しくない。
 友彦は吐息をつき、キーボードから手を離した。椅子にもたれ、斜め上を見た。アイドルスターの水着ポスターが壁に貼ってある。大胆に露出した胸元や太股に見入った。水滴のついた肌に触る感触を想像すると、ついさっきあんな異常な体験をしてきたばかりだというのに、ペニスに変化の訪れそうな気配があった。
 異常な体験――そういっていいのではないか。彼はほんの何時間か前の出来事を頭の中で反芻《はんすう》した。自分の身に起きたことだという実感が、何となく希薄だった。しかし夢でも幻想でもないことは、彼自身がよくわかっている。
 8ミリ映画を三本見た後、セックスが始まった。友彦は、そしておそらくは村下も、女たちに完全にリードされていた。友彦はポニーテールの女とベッドの上で、村下はショートヘアの女と布団の中でからみあった。二人の高校生はそれぞれの相手に指導されるまま、生まれて初めてのセックスを経験した。村下も童貞だったということを、友彦は部屋を出た後で聞かされた。
 友彦はポニーテールの女の中で二度射精した。一度目は何が何だかわからぬままの出来事だった。だが二度目には少し余裕を持てた。マスターベーションでは味わったことのない快感に全身が包まれ、大量の精液が吐き出される感覚があった。
 途中で女たちは、相手を交換するかどうか相談し始めた。しかしポニーテールの女が気乗りしなかった様子なので、それは実現しなかった。
 そろそろお開きにしよう、といいだしたのは桐原だった。友彦が時計を見ると、彼等がマンションに着いてから、ちょうど三時間が経過していた。
 その桐原は、最後までセックスに加わってはこなかった。女たちも誘おうとはしなかったから、それは最初から決められていたことだったのだろう。だが彼は部屋を出ていこうともしなかった。友彦たちが汗みどろになりながら女と抱き合っている間も、ずっとダイニングの椅子に座っていた。友彦は一回目の射精を終えた後、ぼんやりとした思いでキッチンのほうを見た。桐原は薄暗い中で足を組み、壁のほうを向いたまま、静かに煙草を吸っていた。
 マンションを出ると、友彦たちは桐原に近くの喫茶店に連れていかれた。そしてそこで現金八千五百円を手渡された。一万円という約束だったじゃないかと友彦と村下は揃って抗議した。
「食費を差し引かせてもろただけや。ピザを食うたり、ビールを飲んだりしたやろ。それでも千五百円なら安いはずやで」
 この話に村下が納得してしまったので、友彦もそれ以上は文句をいえなくなった。それに初体験を終えたばかりで、気分が昂揚《こうよう》していた。
「嫌やなかったら、これからもひとつよろしく頼むわ。あの二人はおまえらが気に入ったみたいやから、もしかしたらまたお呼びがかかるかもしれん」桐原は満足そうにいったが、すぐに厳しい顔つきになって付け加えた。「念のためにいうとくけど、絶対に個人的に会《お》うたりするなよ。こういうことは、ビジネスライクにやってるうちはアクシデントも少ない。妙な気を起こして単独プレイに走った途端、おかしなことになる。今ここで俺に約束してくれ。絶対に個人的には会うな」
 会わない、と村下が即座に答えた。それで友彦は、ためらう素振りさえ見せにくくなってしまった。「わかった、会えへんよ」と彼は答えた。それを見て桐原は満足そうに大きく頷いた。
 あの時の桐原の表情を思い出しながら、友彦はジーンズの尻ポケットに手を突っ込んだ。そこに一枚の紙が入っている。それを取り出し、机の上に置いた。
 七桁の番号が並んでいる。電話番号だということは明らかだ。その下に『ゆうこ』とだけ書いてあった。
 部屋を出る直前に、ポニーテールの女から素早く手渡されたメモだった。
 
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