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白夜行11-2

时间: 2017-01-17    进入日语论坛
核心提示: 菅原絵里から電話がかかってきたのは、篠塚と銀座で会った二日後の夜だ。今枝は別の仕事で夜十一時過ぎまで渋谷のラブホテルを
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 菅原絵里から電話がかかってきたのは、篠塚と銀座で会った二日後の夜だ。今枝は別の仕事で夜十一時過ぎまで渋谷のラブホテルを張り込んでいて、部屋に帰ったのは午前零時を回ってからだった。服を脱ぎ、シャワーを浴びようと思った時に電話が鳴りだしたのだった。
 ちょっと妙なことがあったので電話したのだと絵里はいった。口調に冗談の響きは含まれていなかった。
「留守番電話にさ、何もいわないで切っただけっていうのがいくつも入ってるの。なんだか気味が悪くってさあ。今枝さんじゃないよね」
「無言電話をする趣味はないな。居酒屋の客で絵里に入れ揚げてる男がかけてきたんじゃないのか」
「そんな男いないよ。大体、客に電話番号を教えたりしないもん」
「電話番号なんて、簡単に調べられるものだぜ」
 たとえば郵便受けを開けてNTTからの請求書をこっそり盗み見するとか、と自分のテクニックの一つを今枝は思い浮かべる。もっとも、今は絵里を怖がらせるだけだから口には出さない。
「それからもう一つ気になることがあるんだけど」
 なんだ、と今枝は訊いた。
「気のせいかもしれないんだけど」絵里は声を低くした。「なんだか、この部屋に誰かが入ったような気がする」
「なに……」
「さっきバイトから戻ってきて、部屋のドアを開けた瞬間にそう感じたんだ。おかしいなって」
「具体的に変なことがあるのか」
「うん。まずサンダルが倒れてた」
「サンダル?」
「ヒールの高いサンダル。玄関に置いてあったんだけど、それの片方が倒れてた。あたし、靴を倒れたままにしておくのは絶対に嫌なんだよね。だからどんなに急いでる時でも、必ずきちんと立てておくの」
「それが倒れてたわけか」
「うん。それからこの電話」
「電話がどうした」
「置いてある角度が変わってた。あたしは座ったまま左手ですぐに受話器を取れるよう、台に対してちょっと斜めに置くんだけど、どういうわけか台と平行になってる」
「それは絵里がやったことじゃないのか」
「違うと思う。こんなふうに置いた覚えないもん」
 一つの考えがすぐに今枝の頭に浮かんだ。しかしここでも彼はそれを話さなかった。
「わかった。いいか絵里、よく聞くんだ。これから俺がそっちへ行こうと思うけれど、かまわないか」
「えっ、今枝さんが来るの? ええと……まあいいけど」
「心配しなくても狼に変身したりしないよ。次に、俺が行くまでは絶対に電話を使うな。わかったか」
「わかったけど……どういうこと?」
「それは行ってから説明する。それからもう一つ。俺はドアをノックするが、必ず俺だということを確かめてからドアを開けるんだ。いいな」
「うん、わかった」絵里は電話をかけてきた時以上に不安そうな声で答えた。
 今枝は電話を切ると服を着て、スポーツバッグに手早くいくつかの道具を放り込んだ。スニーカーを履き、部屋を出た。
 外は小雨が降っていた。傘を取りに戻ろうかと一瞬思ったが、結局彼はそのまま走りだした。絵里のアパートまでなら数百メートルの距離だ。
 アパートはバス通りから一本中に入ったところに建っていた。向かい側に月極の駐車場がある。外壁に罅《ひび》の入ったアパートの外階段を駆け上がり、二〇五号室のドアをノックした。ドアが開き、絵里の憂鬱そうな顔が覗《のぞ》いた。
「どういうこと?」と彼女は訊いた。眉間《みけん》に皺《しわ》を寄せていた。
「俺にもわからんよ。絵里の思い過ごしであってくれることを祈っている」
「思い過ごしじゃない」絵里はかぶりを振った。「電話を切った後、ますます気持ちが悪くなってきた。自分の部屋じゃないみたい」
 それこそ気持ちの問題だと思ったが、今枝は黙って頷き、ドアの隙間から身体を滑り込ませた。
 玄関には三足の靴が出しっぱなしになっていた。一つはスニーカー、一つはパンプス、そして残る一つがサンダルだ。なるほどサンダルのヒールは高い。これならちょっと触れただけでも倒れてしまうだろう。
 靴を脱ぎ、今枝は部屋に上がり込んだ。小さな流し台がついているだけのワンルームだ。それでも入り口から中が丸見えにならないよう、途中にカーテンを吊してある。カーテンの向こうにはベッドとテレビとテーブルが置かれている。古いエアコンは彼女の入居時から付いていたものか。大きな音をたてながらも、一応冷風を送っている。
「電話は?」
「そこ」絵里はベッドの横を指した。
 天板がほぼ正方形をした小さな棚があり、その上に白い電話機が載っていた。最近流行のコードレスではない。この部屋では不必要だからだろう。
 今枝はバッグから黒く四角い装置を取り出した。上部にアンテナがついていて、表面には小さなメーターとスイッチ類が並んでいる。
「何それ? トランシーバー?」絵里が訊いた。
「いや、ちょっとしたおもちゃだよ」
 今枝はパワースイッチを入れた。さらに周波数調整のつまみを回す。やがて百メガヘルツ周辺でメーターに変化が表れた。感知を示すランプーも点灯した。その状態で電話に近づけたり、逆に電話から遠ざけたりする。メーターは如実に反応した。
 彼は装置のスイッチを切った。電話機を持ち上げて裏を見た後、バッグから今度はドライバーセットを取り出した。プラスドライバーを手にし、電話機のカバーを留めているプラスネジを外していく。思った通り、ネジを緩めるのに大きな力はいらなかった。一度誰かが外したせいだ。
「何やってるの? 電話機を壊しちゃうの?」
「いや、修理だよ」
「えっ?」
 ネジをすべて取ると、慎重に裏カバーを外した。電子部品の並んだ基盤が見える。彼はすぐに、テープで取り付けられた小さな箱に目をつけた。指でつまみ、取り除いた。
「何それ? 取っちゃってもいいの」
 絵里の質問には答えず、今枝は箱についている蓋《ふた》をドライバーでこじあけた。水銀ボタン電池が入っていた。それもまたドライバーの先でほじくり出した。
「よし、これでオーケーだ」
「何なのよ、それ。教えてよお」絵里が喚いた。
「別にどうってことない。盗聴器だ」電話のカバーを元に戻しながら今枝はいった。
「えーっ」絵里は目を剥いて、取り外された箱を手に取った。「どうってことあるよ。どうしてあたしの部屋に盗聴器なんかが仕掛けられてるわけえ?」
「それはこっちが訊きたいね。どこかの男につきまとわれてるんじゃないのか」
「だからそんな奴いないって」
 今枝は再び盗聴器探知機のスイッチを入れ、周波数を変えながら室内を歩き回った。今度はメーターは全く反応しなかった。
「二重三重に仕掛けるほど凝ったことはしていないようだな」スイッチを切り、探知機をドライバーセットと共にバッグにしまった。
「どうして盗聴器が仕掛けられてるってわかったの?」
「それより何か飲ませてくれよ。動き回ったんで暑くなった」
「あ、はいはい」
 絵里は腰の高さほどしかない小さな冷蔵庫から缶ビールを二つ出してきた。一つをテーブルに置き、一つは自分がプルトップを引いた。
 今枝は胡座《あぐら》をかき、ビールをまず一口飲んだ。ほっとすると同時に全身から汗が出た。
「一言でいうと経験からくる直感だよ」缶ビールを片手に彼はいった。「誰かが入った形跡がある、電話機が動かされている、となれば何者かが電話に細工したと考えるのが妥当じゃないか」
「あっ、そうか。意外と簡単」
「――といわれると、そうでもないんだがといいたくなるが、まっいいだろう」さらに一口ビールを飲み、口元を手の甲でぬぐった。「本当に心当たりはないんだな」
「ない。本当。絶対」ベッドに腰かけて、絵里は大きく頷いた。
「ということは、狙いはやっぱり俺……かな」
「狙いが今枝さん? どういうこと?」
「無言電話が留守電にたくさん入っていたといってただろ。それで絵里は気味悪がって俺のところに電話してきた。だけどそれはもしかしたら犯人の計略だったかもしれない。つまり犯人は、絵里に電話をさせるのが目的だった。そんなものが留守電に入っていたら、とりあえず心当たりにかけてみるというのが人情だからな」
「あたしに電話させてどうするの?」
「君の交際範囲を把握する。親友は誰か、いざという時に頼るのは誰か」
「そんなものを知ったって、一円の得にもならないと思うけどな。第一、知りたいなら教えてやるよ。盗聴器なんか仕掛ける必要ない」
「絵里には気づかれずに知りたいということだろう。さて以上のことを整理するとこういうことになる。犯人はある人物の名前と正体を知りたい。手がかりは絵里だ。たぶん犯人は、ある人物が絵里と親しいということだけを知っていた」今枝はビールを飲み干し、空き缶を掌の中でつぶした。「そういった状況に何か心当たりは?」
 絵里は俯き、缶ビールを持っていない右手親指の爪を噛んだ。
「この間の、南青山のブティック?」
「御明察」今枝は頷いた。「あの時絵里は連絡先を店に書き残してきた。だけど俺は何も残していない。俺の正体を知るには君から辿るしかない」
「あの店の人が今枝さんのことを調べようとしたっていうの? どうして?」
「まあそれはいろいろとあるんだよ」今枝はにやりと笑った。「大人の話だ」
 彼の頭の中では篠塚の時計の一件が引っかかっていた。唐沢雪穂は明らかにあの時計が篠塚のものであることを見抜いていた。大事な時計を借りてまで店にやってきたこの男は何者だろうと考えたとしても不思議ではない。そこで今枝と同業の人間を雇い、菅原絵里のセンから調べることにした――大いにありうることだった。
 今枝は先程の電話で絵里と交わした会話を振り返ってみた。彼女は彼のことを今枝さんと呼んでいた。盗聴器を仕掛けた人物は、時間の問題でこのアパートのそばに今枝直巳という男の経営する探偵事務所があることを突き止めるだろう。
「でもあたし、そんなに正確な住所は書かなかったよ。お金持ちのお嬢さんっていう設定なのに住所がコーポ山本じゃまずいと思ってさ。電話番号も少し変えておいた」
「本当かい」
「本当だよ。あたしだって探偵の助手をするぐらいなんだから、少しは考えてるって」
 今枝は唐沢雪穂のブティックに行った時のことを回想した。どこかに落とし穴はなかっただろうか。
「あの日、財布は持ってたか」今枝は訊いた。
「持ってたよ」
「当然、バッグの中に入れてたんだろうな」
「うん」
「あの時、やたら取っ換え引っ換え服を着ていたようだけど、その間バッグはどこに置いていたんだ」
「ええと……フィッティングルームだったと思うけど」
「置きっぱなしだったわけだ」
 うん、と絵里は頷いた。表情が心細そうなものに変わっていた。
「その財布、ちょっと見せてくれ」今枝は左手を出した。
「えー、お金は大して入ってないよお」
「金なんかどうでもいい。金以外のものを見るんだ」
 絵里はベッドの角に引っかけてあったショルダータイプのバッグを開け、中から黒い財布を取り出した。長細い形をしている。グッチのマークが入っていた。
「ずいぶん高級な品物を持ってるじゃないか」
「貰ったの。店長から」
「あのちょび髭《ひげ》の店長か」
「そう」
「ふうん。それはそれは」今枝は財布を開き、カードを入れるためのポケットを調べていった。デパートや美容院のカードと一緒に免許証も突っ込んであった。それを引き抜き内容を確かめた。住所はこのアパートのものになっている。
「えっ、それを勝手に見られたっての?」絵里が驚いていった。
「かもしれない、ということだ。確率は六十パーセント以上だな」
「ひどーい、そんなことするかなあふつう。だったら何、最初からあたしたちは疑われてたってこと?」
「そういうことだ」腕時計を見た時から唐沢雪穂は疑っていたのだ。財布の中身を調べる程度のこともあの女なら平然とやってのけるかもしれない。猫のような目を脳裏に浮かべながら今枝はそう思った。
「でもそれなら店を出る前に、どうしてあたしに住所と名前を書かせたのかな。案内状を送るからとかいっちゃってさ」
「それはたぶん確認のためだろう」
「何の?」
「絵里が本当の住所氏名を書くかどうかだよ。で、結局本当の住所は書かなかったわけだな」
 絵里は申し訳なさそうに頷いた。「番地をちょっと違えて書いちゃった」
「それによって彼女は確信したわけだ。こいつらは服を買いに来たんじゃないってな」
「ごめん。下手な小細工しないほうがよかったんだね」
「まあいいさ。どうせ疑われてたんだ」今枝は立ち上がり、バッグを持った。「戸締まりに気をつけろよ。思い知っただろうけど、プロの手にかかればこんなアパートの鍵なんてついてないも同然なんだ。部屋にいる時は必ずチェーンをかけること」
「うん、わかった」
「じゃあな」今枝はスニーカーに足を突っ込んだ。
「今枝さん、大丈夫かな。誰かが襲ってきたりしない?」
 絵里の言葉に今枝は吹き出した。
「それじゃあまるで007の世界だな。心配しなくていい。せいぜい人相の悪い殺し屋が訪ねてくる程度だ」
「えーっ」絵里は顔を曇らせた。
「それじゃあおやすみ。戸締まり、きちんとしろよ」今枝は部屋を出てドアを閉めた。しかしすぐには歩きださなかった。鍵のしまる音とドアチェーンがかけられる音を確認してからその場を離れた。
 さて、どんなやつがやってくるか――。
 今枝は空を見上げた。小雨は降り続いていた。
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