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白夜行13-9

时间: 2017-01-17    进入日语论坛
核心提示: コンビニエンスストアの袋が指に食い込んだ。ミネラルウォーターのペットボトルと米袋が重いのだ。それらを持った状態で、玄関
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 コンビニエンスストアの袋が指に食い込んだ。ミネラルウォーターのペットボトルと米袋が重いのだ。それらを持った状態で、玄関のドアを苦労して開けた。
 ただいま、といいたくなる。しかし声は出さなかった。その声を聞いてくれる人間が奥にはもういないことを知っている。
 栗原典子は買ってきたものをとりあえず冷蔵庫の前に置くと、奥の洋室のドアを開けた。部屋の中は暗く、空気は冷えきっていた。薄い闇の中に、白いパソコン機器が浮かび上がる。以前はいつもディスプレイが光を放ち、本体からはファンの音が漏れていた。今はそのどちらもない。
 典子はキッチンに戻り、買ってきたものを整理した。生もの、冷凍ものは冷蔵庫へ。乾物は隣の棚へ。冷蔵庫を閉める前に、三五〇㏄入りの缶ビールを一つ取り出した。
 和室に行くと、テレビをつけ、電気ストーブのスイッチもオンにする。部屋が暖まるのを待つ間、隅に丸めて置いてあった毛布を膝《ひざ》にかけた。テレビの中ではお笑いタレントたちがゲームに挑戦していた。最も成績の悪いタレントが罰としてバンジージャンプをやらされるという趣向になっている。低俗な番組だ、と思う。以前の彼女なら決して見なかっただろう。今は、このばかばかしさがありがたかった。深刻な気持ちにさせられるものなど、こんなに薄暗く寒い部屋で、一人ぼっちで見たくはなかった。
 缶ビールのプルトップを開け、ごくりと飲んだ。冷えた液体が喉から胃袋へと流れていく。全身に鳥肌が立ち、震えが走った。しかしそれが快感でもある。だから冬になっても冷蔵庫の中にビールを欠かさないでいる。昨年の冬と同じだ。彼は寒い時ほどビールを飲みたがった。神経が研ぎすまされるのだといっていた。
 典子は膝を抱えた。夕食をとらなければ、と思う。何も特別な調理をする必要はないのだ。先程コンビニエンスストアで買ってきたものを電子レンジで温めるだけでいい。だがたったそれだけのことがひどく面倒だった。気力が湧いてこない。それに何より、食欲が全くなかった。
 テレビのボリュームを上げた。部屋に音がないと、寒さが増すような気がした。電気ストーブに少し近づく。
 原因はわかっている。自分は寂しいのだ。静かな部屋でじっとしていると、孤独感につぶされそうになる。
 前はこうではなかった。一人のほうが気楽だし、快適だった。そう思ったからこそ、結婚情報サービス会社との契約も解除した。
 しかし秋吉雄一との生活が、そんな典子の思いを一変させた。愛する人間と一緒にいる喜びを、彼女は知ってしまった。いったん与えられたものを奪われるということは、元々それがなかった頃に戻ることではない。
 典子はビールを飲み続けた。彼のことを思い出すまいとした。しかし頭の中に浮かぶのは、パソコンに向かっている彼の後ろ姿ばかりだった。当然のことだ。この一年間、彼のことだけを考え、彼のことだけを見てきたのだ。
 缶ビールはたちまち空になった。彼女はそれを両手で潰すと、テーブルの上に置いた。そこには同じように潰された缶がすでに二つ載っていた。昨日の分と一昨日の分だ。このところ、部屋の掃除もろくにしていない。
 とりあえずコンビニの弁当でも食べよう――そう思って重い腰を上げた時、玄関のチャイムが鳴った。
 ドアを開けると、くたびれたコートを着た初老の男性が立っていた。体格がよく、目つきが鋭い。典子は直感的に男の職業を察知していた。いやな予感がした。
「栗原典子さんですね」男は尋ねてきた。関西弁のアクセントだった。
「そうですけど、あなたは?」
「ササガキというものです。大阪から来ました」男は名刺を出してきた。笹垣潤三と印刷されていた。しかし肩書きはない。それを補うように彼は付け足した。「この春まで刑事をしておりました」
 やはりそうか、と典子は直感が正しかったことを確認した。
「じつはお伺いしたいことがあるんです。ちょっとよろしいですか」
「今すぐですか」
「ええ。すぐそこに喫茶店がありますよねえ。あそこででも」
 どうしようかなと典子は思った。知らない男を部屋に上げることには抵抗がある。しかし今から外に出るのは億劫《おっくう》だった。
「何についての話でしょうか」と彼女は訊いてみた。
「それはまあいろいろと。特に、今枝探偵事務所に行かれたことについて」
 あっ、と彼女は思わず声を漏らしていた。
「行きはったでしょ。新宿の今枝さんのところへ。そのことについて、まずちょっとお訊きしたいんです」自称元刑事は愛想笑いをした。
 不安な思いが彼女の胸に広がった。この男は何を訊きに来たのだろう。だが一方で、何かを期待する気持ちもある。彼について何か手がかりが得られるのではないか。
 数秒間迷ってから、彼女はドアを大きく開けた。「どうぞ、お入りになってください」
「よろしいんですか」
「ええ、散らかってますけど」
 では遠慮なく、といって男は入ってきた。年老いた男の匂いがした。
 典子が今枝探偵事務所に行ったのは九月のことだった。その約二週間前に、秋吉雄一は彼女の部屋から姿を消していた。前触れらしきものは何もなく、突然いなくなったのだ。何かの事故に遭ったわけでないことはすぐにわかった。ドアの郵便受けに、この部屋の鍵を入れた封筒が入っていたからだ。彼の荷物は殆どそのままだったが、元々大した数ではないし、貴重品もなかった。
 秋吉がここに住んでいたことを示す唯一のものはパソコンだった。しかし典子はそれを扱うことができなかった。悩んだ末彼女は、パソコンに詳しい友達を家に招き、不審に思われるのを承知で、彼のパソコンの中に何が入っているのか調べてもらうことにした。フリーライターをしている友人は、パソコン本体だけでなく、放置してあったフロッピーディスクなども調べていたが、「だめだよ、典子。何も残ってないよ」と結論づけた。彼女によれば、システムそのものが真っ白な状態だし、フロッピーもすべて空っぽだということだった。
 典子は何とか秋吉の居場所を突き止める方法がないものかと考えた。思い出したのは、いつか彼が持っていた空のファイルだった。あれには今枝探偵事務所と記されていた。
 電話帳で調べると、その事務所はすぐに見つかった。何かわかるかもしれない、そう思うとじっとしていられなかった。典子は翌日には新宿へ出かけていた。
 だが残念ながら彼女は、かけらほどの情報も手に入れることはできなかった。秋吉という人物に関する記録は、依頼人としても調査対象としても残っていないというのが、若い女性事務員からの返答だった。
 これでもう彼を探す道はなくなった――典子はそう思っていた。それだけに、笹垣が探偵事務所からのルートで会いに来たというのは、意外なことだった。
 笹垣の質問は、彼女が今枝探偵事務所へ行ったことに関する事実確認から始まった。典子は少し迷ったが、事務所へ行くに至った経過を、かいつまんで話した。同居していた男が突然いなくなったという話には、笹垣も少し驚いたようだ。
「今枝探偵事務所の空のファイルを持っていたというのが奇妙ですな。それで、全く何の手がかりもなしなんですか。その男性の知人友人とか、家族には連絡したんですか」
 彼女はかぶりを振った。
「連絡しようにも、連絡先がわかりません。あの人については、あたし何も知らなかったんです」
「妙な話ですなあ」笹垣は当惑しているようだ。
「あのう、笹垣さんは一体何をお調べになっているんですか」
 典子が訊くと、彼は少し逡巡《しゅんじゅん》する様子を見せた後でいった。
「じつは、これもまた変な話なんですけど、今枝さん自身が行方不明なんです」
「えっ」
「それでいろいろと紆余曲折《うよきょくせつ》があって、私が行方を調べることになってしもうたわけですが、全く手がかりがありません。そんなわけで、藁《わら》にもすがる気持ちでこうして栗原さんのところへ来たというわけです。どうもすみません」笹垣は白髪混じりの頭を下げた。
「そうだったんですか。あの、今枝さんはいつ頃から行方不明に?」
「去年の夏です。八月です」
「八月……」
 典子はその頃のことを思い出し、はっと息をのんだ。秋吉が青酸カリを持って、どこかへ出かけていったのがその頃だ。そして帰ってきた時に持っていたファイルに、今枝探偵事務所の名が書かれていたのだ。
「どうかされましたか」元刑事が目敏《めざと》く気づいて尋ねてきた。
「あ、いえ、何でも」典子はあわてて手を振った。
「ところで」笹垣がポケットから一枚の写真を取り出してきた。「この男性に見覚えはありませんか」
 写真を受け取り、そこに写っている男の顔を見た途端、彼女は声をあげそうになった。幾分若い感じだが、秋吉雄一に間違いなかった。
「どうですか」と笹垣は訊いてきた。
 典子は心臓が跳《は》ねるのを抑えるのに苦労した。頭の中で様々な考えが飛び交った。本当のことをいったほうがいいのか。だが元刑事が写真を持ち歩いているという事実が気になった。秋吉は何かの容疑者ということか。今枝殺しの? まさか。
「いいえ、知らない人です」彼女はそう答えながら写真を返した。指先が震える。頬が赤くなっているのが自分でもわかった。
 笹垣はそんな典子の顔をじっと見つめてきた。刑事の視線になっていた。彼女は思わず目をそらした。
「そうですか。それは残念」笹垣は柔らかい口調でそういって、写真をしまった。「さてと、ではこのへんで失礼します」腰を上げてから、ふと思い出したようにいった。「一応、その人の持ち物を見せていただけますか。何かの参考になるかもしれませんので」
「えっ、持ち物をですか」
「はい。いけませんか」
「いえ、構いませんけど」
 典子は笹垣を洋室に案内した。彼はすぐにパソコンに近づいた。
「ははあ、秋吉さんはパソコンをお使いになれたんですか」
「ええ。小説を書くのに使っていたようです」
「ほう。小説をね」笹垣はパソコンやその周りを、じろじろと眺め回した。「ええと、秋吉さんが写っている写真はありませんか」
「あ……写真はないんです」
「小さいものでもええんですよ。顔さえわかれば」
「それが、あの、本当に一枚もないんです。撮らなかったんです」
 嘘ではなかった。典子は何度か二人で撮ろうと思ったことがあるが、そのたびに秋吉が拒絶したのだ。だから彼がいなくなった今は、思い出すことでしか彼の姿を蘇らせることができない。
 笹垣は頷いていたが、明らかに何かを疑っている目だった。どんな考えがその頭の中で巡らされているのかと思うと、ひどく不安になった。
「じゃあ何か、秋吉さんが手書きされたものはないですか。メモとか日記とか」
「そういうものはなかったと思います。あったとしても、ここには残っていません」
「そうですか」笹垣はもう一度部屋を見回してから、典子を見てにっこり笑った。「わかりました。どうもすみませんでした」
 お役に立てなくて、と彼女はいった。
 笹垣が玄関で靴を履いている間、典子の中では迷いが渦巻いていた。この人は秋吉について何かを知っている。それを訊いてみたい。しかしあの写真の人物が秋吉であることを話すと、秋吉にとって取り返しのつかない結果になるような気もした。もう会えないと覚悟していても、彼は彼女にとってこの世で最も大切な人間だった。
 靴を履き終えた笹垣が、彼女のほうを向いた。「お疲れのところすみませんでした」
 いえ、と典子はいった。喉が詰まったような感じになった。
 その直後だった。最後の見直しをするように室内を見回していた笹垣の目が、ある一点で止まった。「おや、それは?」
 彼が指しているのは冷蔵庫の横だった。小さな棚があり、その上に電話やメモなどが乱雑に載っている。
「それはアルバムやないんですか」と彼は訊いた。
 ああ、と典子はいい、彼が目をつけたものに手を伸ばした。写真屋で貰った、簡単な写真入れだ。
「大したものじゃありません」と典子はいった。「去年、大阪に行った時のものです」
「大阪に?」笹垣の目が光ったようだ。「見せてもらえますか」
「いいですけど、人は写ってませんよ」彼女は写真入れを彼に渡した。
 秋吉に連れられて大阪に行った時、典子が一人で撮影したものだ。いかがわしいビルや、ただの民家などが写っているだけで、見て楽しいというものでもない。ほんの悪戯心から撮っただけのものだ。これらの写真を秋吉に見せたこともない。
 ところが笹垣の様子がおかしくなった。写真を見る目が大きく剥かれた。口が半開きのままで固まっている。
「あの……それが何か?」彼女は訊いた。
 笹垣はすぐには答えず、しばらく写真を睨んでいた。やがて開いていたページを彼女のほうに向けた。
「この質屋の前に行きはったわけですな。なんで、この質屋の写真を撮ったんですか」
「それは……別に、大した意味はありません」
「このビルも気になりますな。どこが気に入って、写真を撮ろうという気になったんですか」
「それが、どうかしたんですか」声が震えた。
 笹垣は胸ポケットに手を入れ、先程の写真を出した。秋吉の顔写真だ。
「ええことを教えてあげましょ。ここに写っている質屋の看板には『きりはら』とありますわな。この男の名字が、きりはら、です。きりはらりょうじ、が本名です」
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