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探偵ガリレオ 第四章 爆ぜる 05

时间: 2017-12-28    进入日语论坛
核心提示:       5  客が入ってきた気配はあったが、長江秀樹はスポーツ新聞から顔を上げなかった。どうせ冷やかしだろうと思っ
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 客が入ってきた気配はあったが、長江秀樹はスポーツ新聞から顔を上げなかった。どうせ冷やかしだろうと思った。金目のものを売っているわけではないから、万引きのこともさほど心配する必要はない。仮に万引きされたって、自分の懐が痛むわけではない。店の主人から、少しばかり嫌味を言われる程度だ。
『ウェーブ』は小さな土産物店だ。安物のサングラスとか、ビーチボールやビーチサンダルなども売っている。ついこの間までは、大勢の若い男女が無邪気な顔で店内をうろつき回っていたものだった。
 それがこのところは全くの閑古鳥だ。海水浴シーズンが終わってしまったから当然ともいえるが、「それでもいつもより十日は早い」と店主はぼやいている。実際長江の経験でも、例年なら今の時期でも、道路の向こうに見えるビーチに、ちらほらと海水浴客の姿があったものだった。それが今年は、閑散としている。
 原因は明白だった。先日の爆発事件が響いているのだ。突然火柱が上がって海水浴を楽しんでいた女性が爆死、しかも原因不明では、海に入ろうとする人間がいることのほうが不思議だ。長江にしても、あれ以来ビーチには近づかないようにしている。何しろ、地雷が埋まっているという噂さえ流れているのだ。
 今年はもうだめだろうなと店主はいう。長江も同感だった。
 彼がスポーツ新聞のページをめくった時、すぐ前に誰かが立ち、レジ用テーブルの上に何かを置いた。見ると、小さなキーホルダーだった。この店の商品だ。
「いらっしゃいませ」長江は新聞を置き、あわててレジスターに料金を打ち込んだ。キーホルダーは四百五十円だった。
「暇そうだね」と客は金を払いながらいった。
 三十歳前後と思われる男だった。背が高く、サングラスをかけていた。アルマーニの開襟シャツを着ている。ふだんはあまり海に来る人種でないことは、顔が殆ど日焼けしていないことでわかった。
「そうですね」キーホルダーを袋に入れ、釣り銭と一緒に渡した。
「やっぱり爆発事件の影響かな」
「そうじゃないですか」長江は、ぶっきらぼうに答えた。またその話かと思った。
「この先の喫茶店で聞いてきたんだけど」客は親指で東のほうを指した。「あの時、君は近くにいたそうだね」
 長江は顔を上げ、男の目を見ようとした。だがサングラスの色は濃く、その奥は見えなかった。したがって表情も、うまく読めない。
「お客さん、警察の人ですか」と長江は訊いた。あの事件のことでは、何度か質問を受けたのだった。
「いや、こういう者だよ」男は名刺を出した。
 そこに印刷されている肩書きを見て、長江はちょっと驚いた。
「物理学の先生がこんなところへ来るとは思わなかった」
「少し話を聞かせてもらってもいいかな。時間はとらせないから」
「それはまあいいですけど、俺の話なんか聞いても参考にならないと思いますよ。警察の人なんかも、不思議そうな顔をしてただけだから」
「不思議なものを見たわけかい」
「そりゃあ、不思議は不思議ですよね。急にあんなところで爆発が起きるんだから」
「どういう感じの爆発だった?」
「なんていうのかな、突然海の中から、すごい勢いで火が出たんです。水しぶきが何十メートルも上がってね。何かが爆《は》ぜたっていう感じでした」
「爆ぜた?」
「で、その後が特に不思議だったんですよね。誰も信じてくれないんだけど」
「何があったんだい」
「細かい火の玉が、海面を滑りながら広がったんですよ。まるで生きてるみたいでした」
「海面を滑った……ふうん」男はサングラスの中央を指で少し押し上げた。「それは、火の粉が飛び散ったというのとは違うんだね」
「全然違います。だって、中にはくるくると方向を変えている火の玉だってあったんですから」
「色は?」
「えっ?」
「色だよ。何色だった?」
「ええと」長江は、あの時の情景を思い出した。「黄色……かな」
「なるほど」男は頷いた。長江の答えに満足しているように見えた。「黄色ねえ」
「目の錯覚じゃなかったかって、警察じゃいわれちゃったけど……」
「でも錯覚じゃなかったんだね」
「ええ」と長江は頷いた。「信じてもらわなくてもいいですけど」
「いや、信じるよ」男はキーホルダーの入った袋をポケットにしまった。「仕事中、悪かったね」
「もういいんですか」
「うん。充分だ」男は店を出ていった。
 このことを後で仲間たちに教えてやろうと、長江は男の背中を見送りながら思った。東京から物理学者が訪ねてきたといったら、皆びっくりするに違いない――。
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