海は蒼そう茫ぼうとして暮れかけている。風もにわかに冷たくなった。しかし清水さん
と耕助はたがいに感染しあったように、ぶるると身をふるわせたのは、たそがれどきの風
の冷たさが身にしみたせいではなかったろう。
獄門島の空をおおうている、妖よう気きをはらんだ黒雲の正体。──耕助はしだいにはっ
きりそれを見定めていく。するとかれの耳底には神経衰弱者の耳鳴りのように、ちかづく
足音がひびいてくるのである。おどろおどろと、岩をかむ波の音のように、遠雷のとどろ
きのように……。
それから間もなく、清水さんにわかれて寺へかえってくると、方ほう丈じようには了然
和尚をなかにはさんで、村長の荒木真喜平と、医者の村瀬幸庵さんが、重っくるしく押し
だまったまま鼎かなえに座っていた。耕助の足音をきくと、
「ああ、金田一さん」
と、和尚が沈んだ声で呼んで、
「今日、とうとう公報が入ったそうな」
と村長のほうへ、あごをしゃくった。そのあとにつづいて、村長の荒木さんがこう付け
加えた。
「あんたのおことばを疑うたわけじゃないが、やはり公報が入らんうちは、一いち縷るの
望みにすがっていたい気持ちでいたが……」
「これで、なにもかもはっきりした。公葬は禁じられているにしても、とにかく一日も早
く葬式を出したほうがええじゃろうな」
暗い顔をして、山羊ひげをふるわせたのは幸庵さんだった。
耕助はそのときふたたび、あの不吉な、おどろおどろと近づく足音を、耳鳴りのように
感じたのである。
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