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第四章 吊り鐘の力学(2)_獄門島(狱门岛)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:「なるほど、なるほど、この重い吊り鐘を、どうやって持ち上げたか、とおっしゃるんですね。それはね、つまり力学の問題ですな。
(单词翻译:双击或拖选)

「なるほど、なるほど、この重い吊り鐘を、どうやって持ち上げたか、とおっしゃるんで

すね。それはね、つまり力学の問題ですな。吊り鐘の力学……、清水さん、ごらんなさ

い。吊り鐘のふちにあたるところに、ひとところ穴が掘ってあるでしょう。それから、あ

れは石地蔵かなんかの台座ですね。穴から一尺、いや、一尺五寸はありますか、ちょうど

吊り鐘のそばにある。それから……」

 と、耕助は台座から反対のほうを指さしながら、

「ほら、ごらんなさい。向こうの崖に太い松の木が生えているでしょう。あの松の木と、

石の台座と、吊り鐘のしたに掘られた穴、この三者はほぼ一直線になっていますね。しか

も、あの松の木には、おあつらえ向きの高さに太い枝が出ていて、しかも、その枝は下向

きにのびている。つまりこの三者が、吊り鐘の端を持ちあげる、メカニズムを構成してい

るのですね」

 清水さんにはまだ納得がいきかねたが、それでも耕助の指さすにしたがって、ひとつひ

とつうなずいてみせた。

 なるほど、耕助のいうとおりである。

 吊り鐘のふちにあたるところに、ひとところ、直径五寸ほどの穴が掘ってある。その穴

から一尺五寸か二尺ほどはなれたところに、石の台座がのこっている。その台座のうえに

は、昔、お地蔵様が鎮座ましましたのだが、いつのころからか、かんじんの御尊体は紛失

して、いまでは、台座だけがのこっているのである。相当古いものらしく、ずいぶん摩滅

しているが、それでも蓮れん華げのかたちがかすかにのこっている。さて吊り鐘のしたの

穴と、その台座をむすんだ直線をのばしていくと、向こうに、崖の途中に生えた太い松の

木が立っている。崖から二尺か三尺のところまで、その松の木の太い枝が張り出している

のだが、その枝は、海岸でよく見るように、下方へ向かって長くのびているのである。

「で……?」

 清水さんがあとをうながすように、耕助の顔をふりかえった。

「つまりですね」

 と、耕助は石の台座から松の木のほうへ歩いていくと、

「五倍……約五倍ありますね。いえね、穴から台座までの距離と、台座から松の木までの

距離の比ですがね。前者を一とすると後者は五の比率になっているんです。さて、ここに

梃て子この法則を応用すると、つぎのような方程式が成り立つわけです、Qを吊り鐘の目

方、Pを吊り鐘を持ち上げる力とすると P=Q/5 つまり、穴から台座までの距離

と、台座から松の木までの距離の比に反比例するわけですね。ところで和尚さん、吊り鐘

の目方はどのくらいあるかわかりませんか」

「さあて」

 と、和尚は肉の厚い顔をしかめて首をかしげたが、

「そうそう、あれは供出するとき、一応目方を計ったはずじゃったな。了沢や、おまえい

くらあったかおぼえておらんか」

「和尚さん、その時分、わたしは寺におりませんでしたので……」

 了沢君は終戦まで、水島の軍ぐん需じゆ工場へ、徴用でとられていたのである。

「和尚、四十五貫じゃったと思う。四十五貫とちょっと……」

 そばから口をはさんだのは、村長の荒木さんである。荒木さんはそれだけいうと、また

きっとくちびるをへの字なりに結んだ。そのそばには片腕を首からつった幸庵さんが、寸

ののびた顔をして立っている。

「四十五貫? 案外軽いものですね。そうすると、四十五貫の五分の一、すなわち九貫を

持ちあげる力さえあれば、この吊り鐘の端を持ちあげることができるわけです。なにか丈

夫な棒があれば、実験してお眼にかけるのだが……」

「お客さん、この棒ではいけませんか」

 竹蔵が足下から取り上げたのは、太い長い樫かしの棒だった。耕助はちょっと度ど肝ぎ

もをぬかれたような顔をして、しばらく竹蔵の顔を見つめていたが、急に、ひったくるよ

うにその棒を手にとってみた。そして、にわかに呼吸をはずませると、

「竹蔵さん、竹蔵さん、この棒はいったい、どこにあったのですか」

 と、早口に尋ねた。

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