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殺人者自暴自棄の梯子酒を飲み廻ること

时间: 2023-09-04    进入日语论坛
核心提示:殺人者自暴自棄の梯子酒を飲み廻ることそれから一時間程して、愛之助はフラリと別宅の格子戸の前に立った。どこで車を降りたのか
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殺人者自暴自棄の梯子酒を飲み廻ること


それから一時間程して、愛之助はフラリと別宅の格子戸の前に立った。どこで車を降りたのか、どこをどう歩いたのか、無我夢中であった。絶えず 背後 うしろ に追手を感じながら、若しや芳江が帰宅していないかと、とうとう家まで来てしまったのだ。
思切って、ソッと格子戸を開くと、すぐ見覚えのある芳江の 草履 ぞうり が目についた。ちゃんと帰っているのだ。
彼は 何故 なにゆえ か音を立てない様にして、玄関を上り、茶の間へ踏み込んだ。そこに立ちかけた芳江がいた。眼と眼を見合わせた二人の身体が、石になった様に、愛之助は立ちはだかったまま、芳江は片膝立てたまま動かなくなってしまった。
「お前いつ帰った」
長い後で愛之助が、吐息をつく様に云った。
「マア、あたし、どこへも出ませんわ」
芳江は何か幽霊でも見る様な、怖わそうな表情で、息をはずませて答えた。
「本当か。あくまで外出しなかったと云い張る積りか」
「あなたどうかなすったのじゃありません? あたし、嘘なんか云いませんわ」
芳江は例の不気味な無邪気さで、ぬけぬけと答えた。
愛之助は妻の驚嘆すべき技巧に打たれた。それはいっそ恐ろしい程だった。突然横面を殴りつけられた感じで、取りつくしまがなかった。
彼は黙って二階の居間に上ると、手文庫から銀行小切手と実印とを取出し、それをふところにねじ込んで、そのまま表へ出た。芳江が玄関まで おい かけて来て、何か云っているのを、背中に感じたが、振向きもしなかった。
反射的に大通りまで歩いて、反射的に手を上げて自動車を呼び止め、運転手が行先を聞くと、 出鱈目 でたらめ に「東京駅」と云った。
だが車が走っている間に気が変った。本当の品川四郎に一度逢って見たくもあり、逢わねばならぬ様に思われた。運転手に品川の自宅を告げた。
十時を過ぎていたので、品川はもう床についていたが、電報配達みたいに、やけに戸を叩く音に目を覚し、婆やの取次ぎで、寝間着姿で玄関へ出て来た。
「マア、上り給え。今時分どうしたのさ」
愛之助は、そう云う品川の顔を穴のあく程見つめていたが、
「君、品川君だね。生きているんだね」
と、突拍子もないことを口走った。
「エ、何を云っているんだ。ハハハハ、この夜更けに叩き起して、冗談はよし給え。それよりも、マア、上らないか」
品川は面喰って、ややムッとしながら云った。
「イヤ、それでいいんだ。君が生きていさえすればいいんだ。朝になったらすっかり分るよ。じゃ、左様なら」
その「左様なら」という言葉が、さも なが の別れといった、いやに哀れっぽい調子だったので、品川は不審らしく、
「君、何だか変だね。まさか酔っているんじゃあるまいね。マア兎も角上り給え」
と勧めたが、愛之助はそれを半分も聞かず、表へかけ出して、待たせてあった車に飛込むと、早く早くとせき立てて、行先も告げずに発車させてしまった。
それから彼は、次々と行先を変えて、二時間ばかり、殆ど東京中を乗り廻した。しまいには運転手の方がへこたれて、「もう勘弁して下さい」と云い出す程も。
「ネエ旦那、車庫が遠いんですから、もういい加減にして下さいませんか」
運転手は車を最徐行にして、くどくどとそんなことを云っていた。
ふと窓の外を見ると、一軒の大きな酒屋が、今丁度戸締りをしているのが見えた。
「降りるよ。降りるよ」
愛之助は突然車を止めさせて、十円近くの賃銀を支払って、車外に出ると、いきなり今戸締りをしている酒屋へ飛込んで行った。
「一杯飲ませてくれ給え」
「もう店を締めますから」
小僧がジロジロ愛之助の風体を眺めながら、無愛想に云った。
「一杯でいいんだ。グッと引かけてすぐ帰るから、君頼むよ」
余り頼むものだから、奥の番頭が口添えをして、小僧がコップ酒を持って来た。
「イヤ、 ます で呉れ給え。桝がいいんだ」
で、五合桝に八分目の酒を受取ると、 すみ に口を当てて、キューッとあおった。酒に弱い方ではなかったが、嘗つてこんな飲み方をしたことがないので、毒でも飲んだ様に不気味だった。いきなり顔が熱くなって来た。
もう一杯というのを、酒屋の方で迷惑がって、どうしても承知しないものだから、彼は仕方なくフラフラと歩き出した。何だか力一杯呶鳴ってみたい様な気持ちだった。
「俺は人殺しだぞ。たった今人間を殺して来たんだぞ」と。
だが流石に本当に呶鳴りはしなかった。その代りに、非常に古風な、学生時代に覚えた小唄を、溜息みたいにうなりながら、態とひょろひょろよろけて歩いた。
夜更けの街燈の目立つ、ガランとした町を二三町歩くと、一軒のバーが、まだ営業していたので、そこへ這入って、洋酒と日本酒をチャンポンに、したたか飲んだ。そして、何か愚図愚図 わけ の分らぬことを呟きながら、女給に追い立てられるまで、腰を据えていた。
「そんなに呑みたいんなら、 吉原土手 よしわらどて へ行けばいい、あすこなら朝までだって呑めるんだから」
女給に毒づかれて気がつくと、所謂吉原土手は き近くだった。
彼は又ひょろひょろしながら、妙な鼻歌を歌いながら、まだ起きているバーを探して歩き出した。
一軒の薄暗いみすぼらしいバーが目についたので、そこへ入って行った。
熱燗 あつかん を頼んでグビグビやりながら、隅の方を見ると、一人の洋服青年が、こちらに顔を向けて、ニヤニヤ笑っていた。 ほか に客はないので、変だなと思って、混乱した頭をいじめつけて、記憶を呼起している内に、ハッと思い出した。いつか浅草公園の藤棚の下で出逢った、美しい若者だ。この辺を根城にしている不良青年かも知れない。
「アア、又御目にかかりましたね」
云いながら、青年は立上って、彼の隣に席を換えた。
「お相手しましょうか」
「ウウ、やり給え。僕はね、今日は非常に嬉しいことがあるんだよ。ネ、君、歌おうか」
「でも、あなたは ちっ とも嬉しそうじゃありませんよ」青年が意味ありげに云った。「それ所かひどく屈託そうに見えますよ。あなたお酒でごまかそうとして いら っしゃるのでしょう」
「で、僕の顔に、今人殺しをして来たとでも書いているのかい」
愛之助はやけくそな調子で云って、ゲラゲラと笑った。
「エエ存外そうかも知れませんね」青年は平気である。「だが、そんなことはなんでもないんですよ。僕、人殺しなんかより、十層倍も恐ろしいことを知っているんです。ネ、お分りでしょう。この間云った奇蹟。この東京のどっかでね。罪人を無罪にしたり、死人を生き返らせたり、生きている人を、全く分らない様に殺したり、自由自在の奇蹟を行っている、恐ろしい場所があるんです」と青年の声は段々低くなって、遂に囁きに変って行った。「あなた、今奇蹟が御入用じゃないんですか。だが、あなたはそれを買うおあしを持って在っしゃるかしら。 此間 このあいだ も云った通り一万円なんです。びた一文かけてもいけないんです」
「君は、僕が人殺しの罪人だとでも思っている様子だね」
「エエ、そう思ってます。人でも殺さなければ、あなたみたいな、そんな恐ろしい顔つきになるもんじゃありませんからね。でも、ビクビクなさらなくってもいいんです。僕はあなたの味方です。どうです。本当のことを僕に打開けて下さいませんか」
青年は彼の耳元に囁きながら、母親が子供にする様に、ソッと彼の背中を撫でていた。
青年のお面みたいな均整な容貌が、彼に何かしら不思議な影響を与えた。この青年こそ 黄泉 よみじ から派遣された彼の 救主 すくいぬし ではないかと思われた。張りつめていた心が、隅からほぐれて行って、 すが りつき度い様な、甘い涙がこみ上げて来た。
「本当のことを云うとね、僕は今晩ある男をピストルで 打殺 うちころ したんだよ。その男の死骸は、今でもある空家に転がっているんだよ。だが、君は、真から僕の味方なんだろうね」
愛之助は網目に血走った眼を、物凄く相手の顔に据えて、果し合いでもする様な真剣さで、囁いた。「大丈夫です。僕の目を見て下さい。刑事の目じゃないでしょう。僕は犯罪者の味方なんです。犯罪者をお得意にする、奇蹟のブローカーなんですから。でも、僕はコソ泥棒なんか相手にしませんよ。僕の御得意は一万円という代金が支払える程の、大犯罪者ばかりです」
青年も大真面目で、夢の様なことを口走った。
「よし、じゃ本当のことを話そう。僕のやったことを詳しく話そう」
愛之助は意気込んで、酒臭い唇を、青年の恰好のよい耳たぶにくっつけた。
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