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露顕

时间: 2023-09-06    进入日语论坛
核心提示:露顕三十分程たって、伯爵と秘書官とが、別の応接室で待受けている所へ、ドヤドヤと警視総監の一行が乗り込んで来た。テーブルを
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露顕


三十分程たって、伯爵と秘書官とが、別の応接室で待受けている所へ、ドヤドヤと警視総監の一行が乗り込んで来た。
テーブルを囲んで椅子についたのは、伯爵、野村秘書官、赤松警視総監、明智小五郎の四人、同道した警官達は玄関の外に待っているのだ。
明智小五郎は入口に立って廊下を見廻し、誰もいないことを確めると、ドアを密閉して席に戻りながら、
「アア、令嬢の美禰子さんは?」
と伯爵と秘書官を見て云った。
「やっぱり心配になりますかね。芳江さんは非常な元気で、あちらの部屋におでですよ」
野村秘書官がニヤニヤして答えた。オヤオヤ令嬢美禰子さんがいつの間にか芳江さんと呼ばれている。芳江と云えば、この物語の前段に度々顔を出した青木愛之助の愛妻の名前ではなかったか。しかも彼女は「片手美人」事件で已に世になき筈の人だ。
「ところで、至急の用件というのは何だね、伯爵」
警視総監が、日頃とはまるで違った、失礼千万な言葉で伯爵に尋ねた。無論彼は伯爵が已に替え玉と代っていることを、野村秘書官から聞いていたのだ。
「ウン、実は非常な犯罪者がこの邸内にいるのだ。それを即刻捕縛して貰いたいと思ってね」
伯爵が落ちついて云った。
「犯罪者? 泥棒かね。そんなものを捕えるのに、総監自身御出馬というのは変な話だね。オイ、オイ伯爵、もうちっと自重してくれないと、ばけの皮がはげるぜ」
「泥棒なんかで君を呼びはしない。国事犯だ。イヤ、国事犯と云った丈けでは足らぬ。共産党よりも、革命よりも、もっと恐ろしい犯罪だ」
「オイ、伯爵、おどかしっこなしだぜ。いたずらもいい加減にし給え。態々呼びつけて置いて」
警視総監は笑い出した。
「イヤ、冗談を云っているのではない。兎も角、君の引連れて来た部下をこの部屋へ呼び集めてくれ給え」
「本当かね。オイ」
赤松総監は救いを求める様に野村秘書官を見た。
「本当だよ。僕達で少し相談した事があるんだ。やっぱり団の仕事の内なのだ。マア、警官達を呼ぶがいい」
「それじゃ、書生に命じてくれ給え」
やっと総監が納得したので、野村秘書官はすぐ様呼鈴のボタンを押した。
間もなく、五名の腕節うでぷしの強そうな巡査が這入って来た。
「大河原さん。で、その犯罪と申しますのは?」
赤松氏が警官の手前、言葉を改めて尋ねた。
「犯罪というのは今も申す通り、非常に重大な国事犯です。政府を顛覆し、全国に一大擾乱じょうらんを捲き起そうという、驚くべき陰謀です」
それを聞くと総監は変な顔をした。伯爵は白蝙蝠団のことを云っているとしか考えられなかった。
「で犯人がこの官邸に潜伏しているとおっしゃるのですね。それは一体どこです」
「ここです。この部屋です」
総監と明智とは、キョロキョロと室内を見廻した。だが、別に人の隠れる場所もない。
「赤松さん。警官達に捕縄ほじょうの用意をさせて下さい、そして犯人を捕縛することを命じて下さい」
伯爵が威丈高に云った。
「誰をですか」
斧村錠一おのむらじょういちと青木愛之助の両名をです」
横合から野村秘書官が呶鳴った。
それを聞くと、赤松総監と明智小五郎とがスックと座を立って、真青な顔で一座を見廻しながら思わず身構えをして叫んだ。
「それは一体誰のことです。そんな奴がここにいるのですか」
野村秘書官も二人に対抗する様に立上った。そして、片隅に並んでいた警官達を手招きしながら呶鳴った。
「諸君、警視総監と明智小五郎を逮捕するのだ。こいつらは総監でも明智探偵でも何でもない。斧村、青木という白蝙蝠の団員だ。サア何を躊躇しているのだ。早く取り押えるのだ」
だが、警官達は、流石にためらった。これが果して偽物であろうか。数ヶ月来彼等の大長官としてつかえて来たこの人物が、白蝙蝠団員などと、どうして信じることが出来よう。
「アハハハハ、君は気でも違ったのか。大河原さん。この熱病やみを放逐ほうちくして下さい。こんなことを喋らせて、あなたは平気なのですか」総監がわめく。
「私も野村君と同意見です。警官諸君、大河原の命令じゃ。この二人のものを捕縛しなさい」
「待て、待って下さい。この私が赤松でないとおっしゃるのか。これは面白い。どうして私が赤松でないか、その理由を明かにして下さい」
「君は斧村錠一だからだ」
野村秘書官が答える。
「斧村錠一? 聞いたこともない名前だ。だが、若しそんな男がいた所で、その斧村がどうして、赤松と同じ顔をして、しかも警視庁の総監室に納まっていることが出来るのだ。いつの間に斧村が赤松に変ったのだ。きつねたぬきじゃあるまいし、そんな寸分違わぬ人間が、この世に二人いてたまるものか。気違い沙汰も大抵にするがいい」
赤松氏は、さっきぞんざいな口を利いたことは棚に上げて、プンプン怒って見せた。これが最後の手段なのだ。仮令正体がばれた所で、この一点丈けは誰にも説明がつかぬ。従ってあくまで云い張れば、相手はどうすることも出来まいと、高を括っているのだ。
「オイ斧村、君は僕を誰だと思っているのだね」
「僕は斧村じゃない。だが、君は野村君に極っているじゃないか」
「本当の野村秘書官に、君達の陰謀が看破出来ると思うかね」
赤松氏はグッと行詰った。一体全体、これは何事が起ったのだ。野村秘書官は無論偽物と変っている筈だ。しかもその偽物を勤めている男は最も信頼すべき団員の一人、竹田たけだという共産主義者の筈だ。そいつがどうして、こんな馬鹿馬鹿しい裏切りを始めたのであろう。大河原首相とても同じこと、偽令嬢と偽秘書官が麻酔剤を飲ませて、ちゃんと偽物とのすり替えが出来ている手順ではないか。それが思いもかけずこの始末は、どうしたと云うのであろう。
では野村秘書官は偽物ではないのかと思うと、今の言葉ではそうでもないらしい。本物でもなく、代役の竹田でもないとすると、この男は全体誰なのだ。
「君は誰だ。君は誰だ」
赤松氏はしどろもどろになって叫んだ。
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